俺はお前を許さない!
「本当に優衣ちゃんなんだよね?
どうして、今その話を持ち出さなければならないんだい」
俺は思わず思った言葉を口に出してしまっていた。
「くっ、くっ、く。そう、あの子は知っていたの。この事を。
同じクローンがこんな目に遭わされていた事を知っていながら、のうのうと暮らしていたってわけね」
目の前の優衣ちゃんが突き刺すような視線で、俺に言った。
「優衣ちゃん!」
どう言う意味なんだ?まるで、優衣ちゃんではないかのような発言である。
俺は頭の先から、足のつま先まで視線を下した。
背中まで流れるストレートの黒髪。
少し下がり気味にも思える大きな瞳。
白いブラウスに赤いリボン。小柄な体を包む紺のカーディガンに、紺のブレザー。チェックのスカート。上から下までどう見ても、いつもの制服に身を包んだ優衣ちゃんだ。
俺が怪訝な表情で、優衣ちゃんを見ていると、優衣ちゃんはふんと鼻で笑うような仕草をして、嘲笑気味に話しはじめた。
「私はね。水崎と言うクローンを造っていた研究所の所長の手によって、あいつと一緒に誰にも知らされずに造られ、そして育てられたクローンよ」
まじかよ。
だから優衣ちゃんそっくりな訳だ。とすると、目の前の少女は優衣ちゃんでない。
「じゃあ、じゃあ、本物の優衣ちゃんはどうしたんだ?」
「あらま。おかしな事を言っているわね。
ヒューマノイドに襲われたじゃない。あなたも一緒に。
でもまあ、殺す目的はあの子だったから、あなたは吹き飛ばされて、後頭部を打っただけですんだみたいだったけど」
俺はぼんやりとしたあの時の記憶を呼び覚ましていった。
俺は優衣ちゃんとつないでいた手を引っ張られるように、後方に吹き飛ばされた。あれは優衣ちゃんがヒューマノイドに襲われたと言う事か?
「優衣ちゃんは、優衣ちゃんは、無事なんだろうな!」
「ばっかじゃない。
ヒューマノイドの攻撃を受けて、人間が生きていられる訳なんてないじゃない。
この敷地のはるか先で血の海に沈んでるわよ」
「なんだとぉー」
俺は激情に駆られ、さっきまで優衣ちゃんだと思っていた少女に掴みかかった。
「止めろ、真一」
俺の父親が叫んだのが聞こえた。しかし、俺の頭はその言葉に反応しなかった。少女の両肩に俺の手がかかる。少女は怯えた様子も、ひるんだ様子もなく、蔑んだ目で俺を見ている。少女が俺の事を鼻で笑ったのを感じた。
それが俺の怒りをさらに高めた。
「俺はお前を許さない」
たとえ、ヒューマノイドが俺を襲ってきたとしても、俺はこいつを殴らずにはいられない。たとえ、相手が女の子であろうと、どうしても許せなかった。
俺は右手を振り上げた。
その瞬間、俺はその手を握られた。俺の力では振りほどけない。
ヒューマノイド?
俺が振り返ると、そこにいたのは九重さんだった。
少女が一歩下がって、俺の事を嘲笑った。
「なに、なに、なに。
あんた、殴りたかった私を殴る事も出来なかったわね。
かわいそぅ。
でも、よかったわね。今のがヒューマノイドだったら、腕折られてたわよ」
「ふざけるな」
「それに、あんたやっぱり、ばっかじゃないの。
あなたの大事な優衣ちゃんを殺したのは私じゃないわよ。
私は仲間のクローンたちを平気で殺すような政府がどんな手を取るのか、あの子を使って見てただけよ」
「じゃあ、なんだ、その恰好は。
優衣ちゃんから奪ったんじゃないのか」
「奪ったねぇ。まぁ、そうなるのは確かかな。
これは、あの子の部屋から八重樫が持ち出してきたのよ。
どう?似合う?」
俺の涙でかすんだ目の前で、その少女はくるりと一回転してみせた。




