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何かが違う!

 「優衣ちゃん!」


 俺の父親が優衣ちゃんを見つけて、近づいていく。


 「あ、はい」


 田中たちから視線を移し、俺の父親の方を向いた。


 「優衣ちゃん。これから、どうする気だ」

 「それはこの二人次第です」


 そう言って、再び足元に転がっている二人に視線を戻した。

 一瞬脳内の血流を失った事で二人は意識を失っていたが、血流が戻った事と、辺りの喧騒に呼び覚まされつつあった。


 「うーん」


 そんな声を上げて、二人が目を開けた。二人の男たちは状況が分からず、不思議そうな表情で辺りを見渡している。

 多くのクローンたちに囲まれた空間。

 そして、爆殺したはずの佐川一佐。それ以上に殺害が必須だった優衣ちゃんがそこには立っていた。


 「俺たちは死んだのか?」


 殺したはずの相手がいる空間。そこはあの世。田中と野本の顔面は蒼白で、狼狽している。


 「ばっかじゃない」


 優衣ちゃんは、今までに俺が見た事の無いような侮蔑の眼差しで、二人に言った。


 「こ、こ、これは?」


 あの世ではないのか。そう思い、思考力が戻り始めた二人が辺りを見渡している。


 「我々が生きている事が信じられませんか?」


 今度は佐川が蔑むような顔で言った。


 「い、いや、無事で何よりだ」


 田中が目を泳がせながら言う。

 そんな二人を前に、九重さんが携帯を取り出し、どこかに電話をかけ始めた。それに気付いた田中と野本はいったいどこに電話をかけているのかと、少し不安げな顔をしている。

 九重が電話をし始めてすぐに照明が復帰し、建物の中に据え付けられたスピーカーから音声が聞こえ始めた。


 「私だ!

 佐川だ!君たちと話がしたい」


 佐川の声である。


 「やりましたね。田中さん」

 「君の芝居もなかなかなものじゃないか。野本一佐。

 爆弾をしょわされているとも知らずに」


 スピーカーから流れる自分たちの声に二人が唖然としている。


 「さてと、私は爆破のタイミングをつかむため、司令車に行くよ」

 「はい。よろしくお願いします。

 佐川一佐もろとも、奴らを吹き飛ばしてください」


 二人は何が起きているのか分からず、固まってしまっている。そんな二人を佐川が睨み付けている。


 「ま、ま、待ってくれ。

 これは何だ。こんなもの、私は知らんぞ」


 田中が叫ぶ。優衣ちゃんが一歩踏み出し、二人に近づく。


 「これはね。さっき録音したあなたたちの音声よ。

 ここのセキュリティシステムのマイクが拾ったものよ」

 「あなたたちが、ここまで汚いとは思ってもみませんでしたよ。

 私は彼らの側に付きます」


 佐川のその言葉に、野本が顔をひきつらせながら、一気に形勢を逆転すべく、優衣ちゃんを襲う。

 一気に立ち上がると、右手でピストルを抜きながら、優衣ちゃんにその銃口を向けようとした。

 まずい。

 俺はそう思って、その銃口の前に飛び出そうとした。間に合わない。

 しかし、その銃を持った手は一瞬の内に、ヒューマノイドに掴まれ、銃口は天井に向けられていた。


 「ぎゃっ!」


 ヒューマノイドに握られた手の痛みに、野本がそんな声を上げながら、銃を落とした。

 落下した銃が床に激突して鈍い音を立て、回転している。


 「あんたには死んでもらおうかしら」


 優衣ちゃんの非情な声に、俺の父親が叫ぶ。


 「優衣ちゃん。

 どうして、そんな事をするんだ」

 「あなたもそうよ。

 知らないとでも、思っているのですか。

 クローンを使って、人体実験をしていた事を。

 そんな事のために、生かされてきたの?クローンたちは?」


 優衣ちゃんが俺の父親に向かって、怒りの声を上げた。俺はその言葉に違和感を覚えた。

 どうして、今、ここで怒りだす必要があるんだ?

 しかも、態度もいつもの優衣ちゃんとは違う。

 何かが違う。


 何も知らなかったクローン達も、その衝撃的な言葉にざわめき始めた。

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