不思議な光景
優衣ちゃんは真剣なまなざしで、俺を見つめている。優衣ちゃんの怒りは本物である。
俺には優衣ちゃんを全面否定できない。できるとすれば、この計画の張本人以外の人たちを助けてあげることくらいである。
「分かった。
でも、兵士たちは関係ないだろう。
ただ命令に従っているだけ」
俺の言葉に優衣ちゃんは何の反応も示さない。表情すら崩していない。真剣な表情で俺の言葉を吟味しているのか、それとも全く取り合っていないのか、俺の心の中に不安が込み上げてきた。
「頼む。
兵士たちは助けてやってくれないか」
何も言わない優衣ちゃんに、佐川も俺に続いた。
「私からもお願いします」
続けて、九重さんが佐川に同調して、頭を下げた。
お願いを受けてくれるまで、頭を上げない。そんな雰囲気が九重さんにはあった。
確かにヒューマノイドを指揮下においたスーパーパワーの持ち主とは言え、ただの一人の少女でしかない優衣ちゃん。しかも、元々は俺たちを拉致った男のリーダーではないか。それが、そこまでするのか?
俺はその不思議な光景に違和感を抱いた。九重さんは完全に優衣ちゃんに服従しているのかのようではないか。いつから、そうなったのか。
その時、俺の脳裏に俺と優衣ちゃんが拉致られた時の事が思い浮かんだ。クローンたちに指示を出すパソコンの向こうの女性。
あれは誰だったんだ?
優衣ちゃんはあの時、俺と一緒に拉致られていた。パソコンの向こうの女性とは別である。
しかし、優衣ちゃんはクローンであり、このクローンたちと裏でつながっていて、芝居をしていた可能性は?
確かにあのパソコンの相手は声しか出さなかった。
向こうの女性が優衣ちゃんだったとして。
それはありえない。
会話をしていたんだ。パソコンの向こうに、相手はいたはずだ。
いや待て、クローンたちは優衣ちゃんを探していたではないか?
目的は何だったんだ。
俺の思考はぐるぐるとまわり、優衣ちゃんを信じたいと言う大きな気持ちと、実は優衣ちゃんは俺が知っている優衣ちゃんではなかったのじゃないかと言う疑いの間で揺れていた。俺の気持ちは定まらない。
しかし、確認すべきことがある。
俺は優衣ちゃんが好きなんだよな。
俺は一人、大きく頷いた。
優衣ちゃんは俺たちに何も言わず、突然ヒューマノイド二体を引き連れ、歩き始めた。クローンの壁が割れるように、優衣ちゃんのために進路を開ける。クローンたちが空けた向こうに田中と野本の姿が見えた。
「あの銃を持っていない二人を捕まえておいで」
優衣ちゃんの声が終わった瞬間、ガラスが砕け散る音が響いて、この建物の正門にあった大きなガラスのドアが砕け散った。そして、瞬きする間もなく、優衣ちゃんの足元にガラス片にまみれた田中と野本が転がっていた。意識は無いのか、ぴくりとも動かない。
どうやら、ヒューマノイドの速度が高速すぎて、抱えられた人間の体はついて行けず、脳の血流が偏ったのかもしれない。




