再び交渉?
封鎖された道路には、やって来る一般車両も人もなく、ただ黙って命令を待つ兵士たちが研究所を取り囲むように立っていた。聞こえてくる音と言えば、時々さえずる小鳥の鳴き声くらいだ。
そんな中、地下から攻め込んだはずの別働隊からの連絡をまだかまだかと、足をゆすりながら田中は待っていた。
そして、田中の携帯が鳴った。
携帯のディスプレイには、浅井バイオ研究所側で指揮を執っている藤本一佐の名前が表示されている。田中が素早く携帯を操作して、耳に当てた。
「私だ」
その次の瞬間、電話に出ている田中の顔色が曇った。その横に立っていた佐川と野本はその気配から、作戦失敗を予感した。
田中の電話は短かった。佐川と野本が田中を見つめている。
「失敗だ。
地下にヒューマノイドがいたようだ」
「当り前じゃないか。
そんな事予想できたことだろう!」
佐川が真っ赤な顔をして、田中に掴みかかる。その勢いに押され、田中が数歩後ずさりした。
野本が割って入って、佐川を押しとどめた。
「くそっ」
そんな言葉を吐きながら、佐川が田中から手を離した。
「しかし、どんな手であろうと、可能性があればやるしかないんだよ」
田中が佐川に掴まれ、乱れた服装を直しながら、そう言った。その言葉は再び佐川を怒らせた。
「兵たちの命をなんだと思っているんだ!」
佐川が田中に掴みかかろうとする。その間に野本が割って入って、佐川を押しとどめる。
「それはそうですが、この事態を何とかするのも我々の使命でしょう。
田中さんに怒りをぶつけるより、この事態を解決する手段を考えないといけないはずです」
野本の言葉に、田中に向かっていた佐川の体から、力が抜けた。
「くそっ」
佐川がまたそう言った。
「さて、どうしたものか。
しかし、力では何ともならなさそうですね」
田中がぽそりと言う。野本がうんうんと頷く仕草をした後、ぽんと手を叩いた。
「そうだ。
もう一度、話会うと言うのはどうですか?
彼らの条件をちゃんと飲んでやればいいんですよ」
野本の提案に、田中が渋い顔をする。
「そんな事いまさら、信じてくれんだろう。
それに、長官に許可を得るには時間がかかる」
「そんな事は後でいいではないですか。
まずは彼らが話をする気があるのかどうかを確認する。
それでいいのではないですか。
私が今から、行ってきますよ」
野本がそう言うと研究所を目指し始めた。その行動に佐川が驚いた顔をしている。
「ま、ま、待て」
突然の野本の行動に、呆気にとられていた佐川が我に返って、そう言いながら、野本にかけよる。
「何ですか?」
佐川に肩を掴まれた野本が振り返って言った。
「それは私が行く」
「いえ、私が言いだした案ですので、私が行きます」
「いや、彼らとは私の方が付き合いが長い。
私が行くべきだろう」
「野本一佐、佐川一佐の方が適任でしょう」
田中が言う。その言葉に佐川が頷く。
「分かりました。では」
野本が引き下がった。
佐川が研究所の門を目指して進んでいく。
もはや、入れるものなら、入ってみろと言わんばかりに開け放された研究所の正門。その横にヒューマノイドが立って、入って来ようとする者たちを監視している。正門の奥に広がる敷地の中にも、何体かのヒューマノイド立って、警護している。
佐川が正門の向こうに足を踏み入れようかと言う時、ヒューマノイドがやってきて、佐川の進路をふさいだ。
「この先に入ることは許しません」
その顔には敵意も、殺意も、何の表情も浮かんでいない。無表情のまま、一瞬の内に人を殺戮できるマシーン。この次の瞬間にも、襲い掛かってくるかもしれない。相手の行動を予測できない恐怖。
佐川が足を止めて、ヒューマノイドに向かって言った。
「あなたたちのマスターと話がしたい。
そう伝えてくれないか」
ヒューマノイドは佐川の言葉に何の反応も示さない。
「私だ!
佐川だ!君たちと話がしたい」
ヒューマノイドに言っても無駄だと悟った佐川が、研究所の奥に向かって、大声で叫んだ。
「ちっ、聞こえる訳ないだろう」
野本が舌打ちしながら、吐き捨てるように言う。
「ハンドマイクは無いか?有ったら、すぐに持ってこい!」
田中が背後に向かって、叫ぶ。その田中の声に応じ、一人の男がハンドマイクを持って、駆け寄ってきた。
田中が佐川に渡せと、佐川を指さす。男が佐川に駆け寄って、ハンドマイクを手渡した。




