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気づかれた地下室の存在

 「だから、だから言っただろう」


 佐川が田中に掴みかかっている。

 その横で、田中は呆然としている。


 「あいつは?あいつは無事なのか?」


 野本がそう言って、俺たちの方を見て、優衣ちゃんの姿を探そうとしている。ヒューマノイドたちの隙間から優衣ちゃんを見つけた野本がぽそりとつぶやき、膝を折って、地面に崩れ落ちた。


 「そ、そ、そんな」


 よかった。俺はそう思って、優衣ちゃんに目をやった。そこには、笑みを浮かべる優衣ちゃんの姿があった。


 「撤退するぞ!」


 佐川の声がした。俺が振り返ると、野本と田中を佐川が引っ張っていた。半ば引きずられるかのように二人が、自分たちが乗ってきた車を目指しはじめていた。


 「優衣ちゃん」


 父親が駆け寄ってきた。この惨状に、俺と同じく心を痛めているのだろう。そんな父親に、優衣ちゃんがにこりと微笑む。


 「こんな事を優衣ちゃんにさせられない」

 「ありがとうございます。

 ですが、大丈夫です。

 まだ終わった訳じゃないですし。

 それより、真一さんの頭、診てくださらないですか」

 「あ、ああ。そうだったね。

 真一、まずは行こう」


 その頃には、もうかなり頭の中はすっきりし、かかっていた靄のようなものは無くなっていたが、まだ記憶はおかしなままだったので、俺は父親に頷いた。


 「優衣ちゃん。

 ちょっと、行ってくる」

 「うん」


 優衣ちゃんはそう言って、俺に小さく手を振った。そんな優衣ちゃんをちらりちらりと振り返って見ながら、開発棟を目指す。ヒューマノイドたちに囲まれているとは言え、一人きり。寂しいだろうと思っていると、九重さんたちが優衣ちゃんに近寄って行った。

 敵か味方か定かではないが、とりあえず今この場では敵ではない。さっきも、優衣ちゃんをかばおうとしてくれたくらいである。

 今は任せておこう。

 そう思って、俺は父親に付き従った。

 もはや誰も、そしてヒューマノイドたちもいなくなった広い部屋を通り、エレベータで地下に向かった。

 俺の検査の結果は問題が見られなかった。

 ただの脳震盪。そう言う事だ。



 俺と父親が1階に戻ると、そこには多くのヒューマノイドたちが整列していた。何か変化が無い限り、動かないのか、本当にずらりと並んだマネキンのようである。ヒューマノイドの大半がここにいると言う事は優衣ちゃんも、ここにいるに違いない。俺が優衣ちゃんを探そうと、辺りを見渡す。

 外とつながる大きなガラスのドア。その辺りにはヒューマノイドが警護のためか、正面を向いて立っている。さらにそのガラスの向こうの外にもヒューマノイドの姿がある。

 俺は視線を外側から中に移した。

 広い部屋の中、ヒューマノイドたちが整然と並んでいる。

 一番奥。ソファが用意された一角で、九重さんと八重樫さんに向かい合って、座っている優衣ちゃんがいた。その手には携帯が握られ、誰かと話をしているみたいで、そんな優衣ちゃんを二人のクローンが見つめている。

 優衣ちゃんは電話に集中しているのか、俺と父親がエレベータから降りてきて事に気付いていない。


 「優衣ちゃん」


 気付いてくれていない事に、ちょっとさみしさを感じた俺が大きな声で、名を呼んだ。優衣ちゃんは俺に振り向き、携帯を手にしたまま立ち上がった。


 「真一さん。

 大丈夫だったんですか?

 私、心配で、心配で」


 携帯を持ったまま両手を組み、心配そうな表情で言った。俺の事を心配してくれている。それが、俺にはうれしかった。


 「大丈夫だって」

 「よかったぁ」


 首を傾げ気味に言う。かわいいじゃないか。

 そう思っていると、九重さんたちが立ち上がって、俺たちに近づいてきた。


 「MRIの診断に行っていたと思うのだが、その装置はどこにあるのかね?」


 俺は父親に視線を向けた。父親も俺に視線を向け、九重さんに向き直った。


 「そんな事、言う必要は無いと思うのだが」

 「いいえ。あるんですよ」


 そう言って、九重さんが話しはじめた。

 クローンたちの仲間、五木さん。戦闘タイプでないのは知っていた。なので、保安室で門番でもしているのかと思っていたが、この研究所のセキュリティ管制室で、システムを乗っ取ったらしかった。この研究所の監視カメラは全てネットワーク上に配置されていて、管制室の通常の操作で確認できるカメラ以外に多くの隠されたカメラが存在することに気付いたようだった。

 そこまで聞いた時、その隠された監視カメラがあの地下室に設置されものであろうことは推測がついた。当然、その答えは俺の横で九重さんたちの話を聞いている父親なら知っているはずである。

 俺がちらりと父親を見たが、表情を崩すこともなく、淡々とした顔つきでクローンたちを見つめている。ポーカーフェイス。この事を言うのだろう。俺はそう思った。

 地下室の映像は見られてはまずい気がするが、カメラがあるだろうと言うくらいなら、問題にはならない。俺はそう思って、一人頷くと、九重さんたちに視線を戻した。

 しかし、カメラの映像はすでに五木さんの手によって、映し出す事に成功していたようだった。五木さんと言うのはコンピュータシステムへのハッキングなどの知識を持っているとの事だった。そして、その映し出した映像の中に、クローンらしき姿が映っていると言うのだ。

 危ない話である。地下に下りた優衣ちゃんはクローンたちを二階に移したはずである。そうしなかったと言う事はすでに死んでいるクローンと考えるべきだろう。人体実験なんて事がばれたら、俺の父親ばかりか、優衣ちゃんにまで危害が加えられるかも知れない。俺は知らないで通すしかないと思った。だが、俺はできても、父親はそれは許されないだろう。

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