兵士たちの到着
俺があの地下室で検査する間、俺の家族はこの敷地の厚生棟と言う建物で待つことになった。それは大森一家も同じで、開発棟を出て厚生棟に移ってもらう事になった。
厚生棟、そこの一階にはここの職員のための食堂に売店があり、二階には診療所がある。もちろん、今閉鎖状態のこの研究所ではどれもやってはいない。
検査に向かおうと、俺が開発棟に足を踏み入れた時、外から大勢の足音の様なものが聞こえてきた。
誰かが正門に来たようだ。俺は足を止め、もう一度、外に出た。
開発棟の前では正門に目を向けて優衣ちゃんが立っている。
その背後にはずらっと居並ぶヒューマノイドたち。
俺が騒がしい気配の源である正門に目を移す。
銃を構えた兵士たちが、その正門から続々と侵入してきていた。
厳しい表情で、横一列に並ぶ兵士たち。その手に携えた銃はこちらに向けられている。
その兵士たちの横に立つ指揮官。その顔には見覚えがあった。
優衣ちゃんを拉致りに来た佐川一佐と野本一佐である。そして、さっき俺の親たちを連れてきたスーツ姿の男たちは、その兵たちの背後に回って、緊張気味に成り行きを見守っている。
殺戮の後を見渡して佐川の言った言葉が、風に乗って聞こえてきた。
「これは?
ヒューマノイドの攻撃?」
佐川がスーツ姿の男に目を向けた。
「田中さん」
田中と呼ばれたスーツ姿の男は佐川に頷いてみせた。
「ヒューマノイドの指揮は」
田中は佐川の言葉に震える手で、優衣ちゃんを指さした。佐川と野本はその指先である優衣ちゃんに目を向ける。俺は優衣ちゃんの危機を感じ、飛び出して優衣ちゃんの前に立った。
ヒューマノイドの戦闘力は銃弾を無効化できると聞いてはいるが、実際これだけの兵士たちが狙いを定めた銃撃にも耐えきれるのか、分からない。とにかく、優衣ちゃんを守らなければ。その想いが俺を突き動かしていた。
「真一さん。
だめですよ。危ないです」
優衣ちゃんがそう言って、俺を自分の背後にまわそうとした。銃弾の前に女の子を出せる訳なんかない。俺が優衣ちゃんに向き合って、引き留める。
「どうしますか?」
そんな声が聞こえてきた。声の主は佐川で、その顔は田中に向けられていた。どうやら、この場の指揮権はこの田中と言う男にあるようだ。だが、この田中は軍人ではないのか、この惨状への怯えの色をその瞳に浮かべ、決断を出せないでいる。
田中を待っていては何もできない。そう判断したのか、野本が兵たちに命令を出した。
「構えろ。
目標は男たちの前にいる少女だ!」
なぜ、少女に照準を合わせなければならないのか、兵たちは知るはずもない。その命令に不自然さを感じたとしても、軍では上官からの命令の正当性に疑問を持ってはならない。
上官の命令は絶対である。
一斉に兵士たちは照準を俺たちに合わせた。
勝算があるのか?
それとも、俺たちを取り囲んでいるのが、ヒューマノイドと知らないのか?
優衣ちゃんの背後にいたヒューマノイド達が、ぞくぞくと俺たちの前に並び直し、壁を築き上げた。
それに呼応するかのように九重さんたちも飛び出してきて、俺たちとヒューマノイドたちの間に立ちはだかった。ヒューマノイドたちの壁を銃弾が超えてきた時、その防壁に自分たちがなる。そんな雰囲気である。
俺が唖然としていると、俺の父親も飛び出してきて、そこに加わった。
九重達が死ぬのはいいが、自分のために父親を銃弾にさらすわけにはいかない。
俺が父親の腕をとって、引き戻そうとすると、俺に微笑みながら言った。
「優衣ちゃんが、君たちを守るよう指示しているのなら、たぶん大丈夫だ」
「はい。私もそう思います」
優衣ちゃんの言葉はしっかりしていた。きっと、俺が脳震盪を起こしていた時の戦いで、ヒューマノイドの力を理解したんだろう。そう思うと、少し安心感が湧いてくる。
そんな余裕が俺の視界の片隅に動く者を気付かせた。
開発棟2階に収容されていたクローンたちが、下の様子を窓のガラス越しにのぞいている。何かを口々に話しているが、聞こえはしない。
クローンたち。そこに重なる死のイメージ。
ヒューマノイドたちの力を信じるなら、このまま死が訪れるのは正門に並んで、銃を構えている兵士たちである。
「止めろ。ここにいるのはヒューマノイドたちだぞ。
知らないのか!
お前たちでは勝てない」
俺は叫ばずにいられなかった。




