レーザー銃を持つ少女のワンシーンだ!
俺はまだ吹っ切れないまま、日々を過ごしていたが、優衣ちゃんは少しずつ元の優衣ちゃんらしくなってきていた。
そんなある土曜日。
遮光カーテンで暗めの部屋だったが、少しずつ明るくなってくる朝の気配で、俺は目を覚ました。
何時だ?
そう思った俺が、時計に手を伸ばす。
8:17分。
起きるか。
そう思った俺が部屋を出て、二階の廊下に出た。階下からはテレビの声が聞こえてきている。
きっと母親がテレビでも見ているのだろう。
俺はそう思いながら、ゆっくりと階段を下りて行った。
ダイニングには東側に窓があり、ダイニングに続くリビングが南面採光になっているため、太陽がある時間帯は照明など不要なくらい明るい。そんな太陽の光で、少し暖かな気配が漂うダイニングの食卓で、優衣ちゃんが座って、朝食を摂っている。
そして、リビングに置かれたテレビの前に俺の母親がリモコンを片手に立っている。テレビにそれほど興味がなく、見たいものが無ければテレビは消す!がモットーら俺の母親である。リモコン片手にテレビの前に立っているような姿を珍しく思った俺は、たずねた。
「おはよう。
何してんの?
何かあったの?」
俺の言葉に振り返った母親の表情は、少しだけ困惑顔だった。
「おはよう。
そうなのよ」
そう言うと、母親は何をしているのかを話してくれた。
何でも朝早くから、俺の父親に電話がかかってきて、急にあの研究所に向かって行ったと言うのだ。その理由は、父親の研究所と関連のある研究所で暴動が起き、暴徒が研究所を占拠したからだと言うのだ。そして、そのニュースがテレビで放送され、犯人たちが姿を現したら、教えてくれと言われたらしい。
犯人たち。
まあ、一つの施設を占拠したのだから複数と言うことなんだろう。少しひっかかったが、まあそう思うのは当然だろう。
俺も食卓に座り、朝食を摂り始めた。優衣ちゃんの位置からはテレビが見れるが、俺の位置からは振り返らないと見れないし、それほど見たいとも思わなかったが、優衣ちゃんは真剣にテレビに視線を向けている。
「優衣ちゃん。
勉強進んでいる?」
俺は優衣ちゃんと話がしたくて、話を振った。いつも邪魔する真奈美がいないのだ。こんな時こそ、話さなければ。
「えっ?
あ、はい」
そう言って、ちらりと俺に視線を向けたかと思うと、すぐにテレビに視線を戻した。
負けた。俺はテレビに負けた。
少しがっくし気分の時、背後のテレビから聞きなれた地名が聞こえてきた。
俺が振り返ると、画面に大きな白い文字で「大和舞子市の研究所を暴徒が占拠」とテロップが映し出されていた。
大和舞子市。
父親の研究所のある市である。占拠されたその関連するらしい研究所も同じ市にあったのだ。
そう思っていると、優衣ちゃんが言った。
「それですね?
同じ市にあるみたいですけど、おじさまの研究所の近くなんですか?」
俺の母親がちらりと振り向き、優衣ちゃんに答える。
「裏側にあるってことなのよ」
「裏側ですか?」
この辺りは南に海が、北側には山がある地形である。海に面した側は言わゆる街になっており、山の中腹あたりまで住宅が立ち並んでいる。この地域の人間は一般的に山の南側を表、北側を裏と呼んでいる。
俺の家も研究所も山の南側の斜面、表側に建てられていた。
「らしいのよ」
「それなら、あまり関係ないのではないのですか?」
優衣ちゃんが首をかしげながら言う。
「だとは思うんだけどねぇ。電話もかかってきたし、えらく気にしてるのよ。今も、研究所を見に行っているくらいだしね」
二人がそんな会話をしていると、現場からの実況生放送が始まった。
テレビの中のアナウンサーはその問題の研究所の正門のあたりに立っていた。
「事件発生から、すでに数時間が経過し、研究所の周りには機動隊を含む多くの警官が配置されております。
事件発生直後と思われます時間に、爆発音があった模様ですが、詳しい状況は分かっておりません」
アナウンサーが緊迫した口調で、状況を話しはじめている。
研究所の正門の背後にはこの施設の建物と思われるものが並び、さらにその奥にこの市を南北に分断している山脈が映っていて、研究所の背後の山頂に巨大なレーダー施設の存在が確認できた。
それは俺の父親が所長を務める研究所の背後に見えるものと同じである。
つまり、この研究所と父親の研究所は山を挟んだ南北に位置しているのである。
その時、俺の頭の中に、最近読んだネット小説のワンシーンが浮かび上がってきた。
マシンガンを構えた一人の少女が、密かに造られていた地下通路を通って、マフィアの屋敷に乗り込む。「レーザー銃を持つ少女」だ。
もしかすると、この二つの研究所は地下でつながっているのではないだろうか?
クローンを使って、あんな事をしてしまうくらいである。それに比べれば、地下トンネルなんて、はるかにありうる現実的なものである。
優衣ちゃんには悪いが、俺はやっぱり自分の父親にあの話をしよう。そう決めて、一人、大きく頷いてしまった。
そんな俺に、優衣ちゃんは気づいたようで、テレビから視線を俺に移して、首を少し傾けながら、何?って、感じで、俺ににこりとした。
やっぱ、かわいいじゃないか。