交渉開始
研究所の建物の中と外を隔てる大きなガラスのドア。俺たちは立ち止まって、気持ちを落ち着かせるため、深く深呼吸してから、足を踏み出した。
静かに大きなガラスのドアがスライドすると、外の冷たい空気がなだれ込んでくる。そもそも政府の者たちが優衣ちゃんを拉致りにやって来たあの部屋を飛び出したままの俺は、コートやダウンと言った防寒着を着てなんかいない。そんな俺を冬の外気が襲う。優衣ちゃんもカーディガンを着ているとは言え、上は制服のブレザーでしかない。一瞬、ぶるっと震えた。
俺たちの背後にはヒューマノイドたちが、付き従っている。俺たちが外に出ると、ヒューマノイドたちも続々と出てきて、俺たちの背後に並んだ。
正門と通用門に配置していたヒューマノイドたちにも、加わるよう指示が出され、全てのヒューマノイドが集結した。その正確な数は知らないが、100体以上と思われる。
恐ろしいほどの戦闘力を秘めたヒューマノイド。それがこれだけそろっている姿に威圧感を抱いてしまう。
この施設と外部を隔てる正門を管理している保安室はすでに俺たちの管理下である。政府側の男たちを迎えるため、人が通るためのセキュリティドアではなく、その横にある重く閉ざされた鋼鉄のドアがきしむ音を立てながら、ゆっくりとスライドしていく。
開かれたその空間を通って、本当は裏の社会の人間たちなのではないのかと思わせる黒スーツ、黒い帽子の男たちが、研究所の敷地に足を踏み入れてきた。
「待て」
これ以上の接近は危険と感じた俺が大声で言った。男たちはそれに従い、その場で立ち止まった。横一列に並ぶ5人の男たち。
「俺の家族はどうした」
「君が真一君だね。
君の家族は別の車の中で待たせている。
先にヒューマノイドを確認させてほしい」
「俺たちの後ろに並んでいるだろ」
俺が少し怒鳴り気味に言いながら、ヒューマノイドを指さす。
「ヒューマノイドを指揮しているのは君か?」
「いや、違う。
優衣ちゃんだ」
男たちの視線が、優衣ちゃんに向かう。
大丈夫。俺はその気持ちを込めて、優衣ちゃんに右手を伸ばし、しっかりと優衣ちゃんの手を握りしめた。寒い外気に触れて、冷たい手のひら。
温めてやりたい。一瞬、そんな想いがよぎった。
「指揮しているのはその子だけなのか?」
「そうです」
今度は優衣ちゃんがしっかりと答えた。
「その後ろにいるのが全てのヒューマノイドか?」
「はい。
これで全てです」
「では、ヒューマノイド全てをその建物の壁に沿って、一列に並べさせてほしい。
数を確認したいんだ」
「分かりました」
優衣ちゃんはそう言うと、ヒューマノイドたちに指示を出した。
建物の壁に沿って、整列していくヒューマノイドたち。
男たちがそのヒューマノイドたちの姿に視線を送っている。ヒューマノイドたちが並び終えると、指を振りながら、数を数えはじめた。
「君には感謝しているよ。何しろ、クローンどもが反乱を起こした時と違って、メディアを呼んでいないのだからね」
男の一人が俺たちに向かって、そう言った。
この事実を闇に隠したい。そう言う本音だと、俺は感じた。だからこそ、このヒューマノイドは存在価値が出てくる。戦わなくても、それだけで勝てる。そう考えた俺の読みが正しかったんだ。
そう思った時、男が言葉を付け足した。
「この事を表ざたにしないでいてくれたんだからね」
やはりな。これで、全ては解決に向かうだろう。
俺がそう思った時だった。
その男が何かを言った。その次の瞬間、俺は何かすごい力で右手が後方に引っ張られた気がして、自分の体が浮いたような気がした。




