約束の時
緊張感から解放されない状況。そうと分かってはいても、睡魔は俺の脳から意識を奪おうとする。俺は所長室の応接セットのソファの上に寝転がると、瞬く間に俺の意識を奪って行った。
それから、どれくらいの時が流れたのか、俺の意識はぼんやりとだが、覚醒を始めた。あたりを見渡すと、窓際に優衣ちゃんが立って、外を眺めていた。
その向こうには真っ青な空が広がっていて、太陽の日差しが部屋の中に、明るさと暖かさを運んできていた。
時間?
俺は慌てて、時計を見た。
12:30。
まだ時間はあると言っても、余裕はない。慌てて、俺が起き上がると、その気配を感じた優衣ちゃんが振り返った。
「おはよう」
刻々と近づく13時に、心配と緊は高まっているはずだったが、優衣ちゃんは満面の笑みで、俺にそう言ってくれた。
「おはよう」
俺も笑みで応え、立ち上がると、優衣ちゃんの横に向かって行った。
「どう?」
「まだ何も」
「そう」
二人並んで窓から正門に目をやる。冬の昼の日差しが照りつけているだけで、風もほとんど吹いておらず、静まり返っていた。
その場所には、いずれ政府の者たちがやって来る。俺はそいつらから、家族を取り戻す。
そして。
俺は優衣ちゃんの肩に手を回して、抱き寄せた。
俺は必ずこの子を守る。この子を俺たちと同じ、この国の国民にする。
優衣ちゃんにかけた腕に力がこもる。
優衣ちゃんは頭を傾け俺によりかかかった。
必ず。
その時、正門前に2台の車がやって来て、停車した。
来た。
俺がそう思った時、俺のスマホが鳴った。
「はい」
「真一君だね」
「そうだ。
俺の家族は連れてきたんだろうな」
「ああ、連れてきた。
その前にヒューマノイドを見せて欲しい。
ヒューマノイドを連れて、出てきてもらえないか」
「分かった」
俺はそう言うと、優衣ちゃんに頷いてみせた。
優衣ちゃんも決意を込めた瞳で、俺を見てしっかりと頷いた。
電話を切った俺は、優衣ちゃんを見つめ頷いた。優衣ちゃんも頷き返した。
「行こう」
俺が手を差し出すと、優衣ちゃんも手を差し出してきた。
固く結ばれた二人の手。
伝わってくる優衣ちゃんのぬくもり。
俺はゆっくりと一歩を踏み出し、階下を目指し始めた。
エレベータを降りと、さっきと変わりのない光景。俺に続いて、優衣ちゃんがエレベータを降りた。
「ヒューマノイドの皆さんは、私について来てください」
広いホールにその声が響くと、さっきまでマネキンかのようにぴくりとも動かなかったヒューマノイドたちが、一斉に活動を始めた。
「優衣ちゃん」
大森の一家の中から、真子ちゃんが駆け寄ってくる。そんな真子ちゃんのところに、優衣ちゃんが近寄って行く姿を見つめていると、九重さんがやって来た。
「俺たちはここに潜んで、何かの時に備えておく」
何かって、なんだよ?
と思ったし、ヒューマノイドがこれだけ揃った状況で、俺たちに何かがあって、クローンたちに何ができると言うのだと思いはしたが、伏兵と言うのは何かの役に立つこともあるかもしれない。
そう思い直して、俺は頷いて見せた。
「行こう。優衣ちゃん」
真子ちゃんと話をしていた優衣ちゃんは俺の言葉に振り返り、力強く頷くと、俺のところまで駆け寄ってきた。




