やって来た政府側の人間たち
俺たちが向かった所長室。広く立派な机が置いてあるだけではない。3面はガラス張りである。つまり、外の様子が見えると言う事だ。俺たちが、その部屋に足を踏み入れた時、空は漆黒の闇から、少し青みを帯び始めていた。
窓に備え付けられたブラインドを開けていく。正門が見える。さらに通用門も見える。しかしだ。こちらからよく見えると言う事は、相手からも見える訳だ。
平気で俺の父親を拉致するほど、もはや、なりふり構わない。そんな感じに見える政府の事である。どんな手を取って来るか分からない。
一番危ないのは狙撃である。
ヒューマノイドにそれを阻止する能力はあるのか?
「優衣ちゃん、ヒューマノイドって、銃弾を防げるのかな?」
優衣ちゃんも、その答えは持っていないらしく、うーんと言いながら、首をかしげた。
「ねぇ。あなたたち、私たちめがけて、飛んでくる銃弾を防ぐことはできるのかな?」
「簡単な事です」
優衣ちゃんの問いに、5体のヒューマノイドの声が揃った。
まじかよ。
俺は驚きである。鋼鉄の柵を壊すことができ、銃弾さえ防ぐことができるとしたら、天下無敵なんじゃね?
俺は目が点になり、半信半疑気分で、ヒューマノイドを見つめていた。
「真一さん。
でも、万が一って事があるかも知れないですよ。
見張りはヒューマノイドに任せませんか?」
さすがは優衣ちゃん。俺は感心してしまった。
「それいいじゃん。
そうしよう」
そう言って、俺たちは見張りをヒューマノイドたちに任せて、所長室に隣接する秘書たちのフロアに場所を移した。ここは机が二つ入ってくる人たちに向かい合う位置に置かれただけの狭いスペース。しかも、窓も何もなく、完全に外からは隔離された空間である。外の政府側の者たちから、見られることもない。
二つの机に用意されていた椅子に俺と優衣ちゃんは腰掛けた。二つの机は所長室へのドアを挟むように配置されていて、俺たちの間には数mの空間がある。
数mなんて、大した距離ではないが、それでも、今の俺たちには大きな距離に感じられた。それは俺だけでなく、優衣ちゃんにもだったのか、優衣ちゃんが椅子を動かして、俺の横にやって来た。
二人だけの空間。周りに自分たちを脅かす存在などいない。それどころか、最強のボディガードたちを従えている。そう思ってはいても、本当にうまくいくのか。心の底は不安で溢れている。きっと、それは優衣ちゃんもだったんだろう。
「おじ様、大丈夫でしょうか。
うまくいくかな」
「もちろんさ」
俺も自信があった訳ではない。願望と優衣ちゃんを元気づけるために、俺はにこりとして、そう言った。それは効果あったのか、表面的には優衣ちゃんの顔がほころんだ。
それから、俺は優衣ちゃんの緊張をとりほぐそうと、いろんな話をした。それはくだらない日常の話。ある意味、こんな二人だけのひと時はこれが初めてかも知れない。そこには恋人たちの日常を感じさせる時が流れていて、俺は自分たちが置かれている状況を忘れ、幸せな気分になりかかっていた。
俺のそんな気分を打ち破るかのように、所長室のドアが開き、ヒューマノイドが優衣ちゃんの前に現れた。
「正門に男たちが現れ、中の様子をうかがっています」
その言葉に、俺は慌ただしく椅子を離れて、所長室の窓際に向かう。すでに空は明るみをはらんでいて、外の様子は十分うかがい知れる。詳しく正門の状況を見ようと、窓の所まで近寄る。窓の上部に備え付けられたエアコンの吹き出し口から吹き出す温風が俺の頭を撫でている。目を凝らすと、警備に割り当てたヒューマノイド4体は正門の敷地の内側にいて、その正面で門を挟んだ位置に何人かの男たちが立って、中の様子や保安室の様子をうかがっていた。




