研究所の牢の中にいたクローンたち
俺は電話を切ると、優衣ちゃんに向き直った。
優衣ちゃんは電話をしている俺を不安げにじっと見つめていた。
大丈夫。うまくいく。
そう伝えたくて、一度力強く、頷いてみせてから、優衣ちゃんに言った。
「優衣ちゃん。
ヒューマノイド何体かを正門と通用門の警備に向かわせてくれないか。
絶対人を通すなと」
俺の言葉に優衣ちゃんは頷いて、正門と通用門それぞれに4体のヒューマノイドを警備につけるための指示を出した。建物から出て行く8体のヒューマノイドの後姿を頼もしく、俺は見送った。後は政府の者達が、ヒューマノイドの存在を確認すればいい。それだけで、政府側は折れてくるはずだ。
しばらくすると、俺のスマホに着信があった。
「真一君だね」
「ああ、そうだ。
で、俺の家族を連れて来る気になったか?」
「さて、何のことだ?」
電話の声はさっきの相手ではない。着信番号も非通知であって、俺の父親の携帯を使ってはいない。きっと、事情を知っている相手である。そして、目的は俺がヒューマノイドを起動してしまっているのかを探りたいのだ。
「俺は全てを知ってるんだぜ。
クローンを使って何をやっていたかも、その成果であるヒューマノイドの事も」
俺は言った後で、九重さんが近くにいないか、きょろきょろと確かめた。その間、電話の相手は無言のままである。
「聞きたいんだろ?
ヒューマノイドを起動したかどうかを。
この研究所に人をよこしてみれば分かるだろう」
俺はそう言って、電話を切った。俺は強がる事で、交渉を有利に進めようとしているが、社会の事などほとんど知らないただの高校生である。心の底では、政府に対し脅しをかけているなんて事は怖くて、怖くてたまらない。その気持ちはどんなに抑えようとしても、体が恐怖に反応し、足ががくがくと震えてしまっている。
そんな俺の気持ちを感じたのか、優衣ちゃんが俺を背後から抱きしめてきた。
「真一さん」
優衣ちゃんのその言葉だけで、なんだか俺に勇気が湧いてくる。俺の頭の中は冷静さを取り戻し、これからどうすべきかをはじき出しはじめた。
「優衣ちゃん。何体かを連れて、5階の所長室に行こう。
残りはここで侵入者を防ぐように指示しておいて」
俺の言葉に優衣ちゃんは5体のヒューマノイドについてくるよう指示を出し、それ以外にはこの建物を守るよう指示を出した。
俺たちはエレベータに乗り込んだ。俺と優衣ちゃん、それに5体のヒューマノイドが乗り込むと、ほぼいっぱいである。ドアが閉じ、エレベータが緩やかに上昇し始めると、優衣ちゃんが俺に助けたクローンたちの様子を話しはじめた。
それによると、クローンたちはあの部屋のさらに奥にある牢のような場所に閉じ込められていたらしかった。鍵を見つけることができなかったので、ヒューマノイドに牢の柵を壊してもらったらしかった。
俺の頭の中にそのイメージが浮かぶ。牢の柵と言えば、鋼鉄の棒であろう。それを壊すことができるヒューマノイド。やはり、人の勝てる相手ではないみたいである。俺は周りにいるヒューマノイドを頼もしく感じた。
優衣ちゃんの話はまだあった。
助けたクローンたちがみな優衣ちゃんに深く頭を下げ、感謝すると共に、裏切った事を詫びたらしかった。
裏切ったって、何の事?
俺は思ったが、優衣ちゃんも当然思ったらしかった。しかし、あの1号タイプに囲まれた状態で、1号タイプに話しかける事はできなかったらしかった。ただただ、じっと黙って、我慢し続けたらしかった。




