ヒューマノイド起動!
「五木、こいつも縛っておけ」
九重さんが足元に崩れ落ち、気を失っているガードマンを見下ろしながら言った。九重さんの言葉に部屋の中にあったドアが開いた。ドアには仮眠室と言う札が掲げられている。
その開いた仮眠室のドアから五木さんと1号タイプ、そして大森議員の秘書がロープを手に姿を現した。そして、その三人に続いて、優衣ちゃんが現れた。
出てきた男たちは床に転がるガードマンの手足をロープで縛り始めた。縛り終えるのを確認すると、九重さんは言った。
「五木。ここは頼んだぞ」
その言葉に五木さんが頷くのを見て、九重さんが敷地の中に進み始める。俺と優衣ちゃんはその後に続く。
俺たち三人はあの建物を目指す。暗闇にぼんやりと浮かぶ白い建物。照明は消されていて、中は真っ暗である。建物の正面には大きなガラスの自動ドアがある。これを開くのも指紋認証システムである。
ドアの横に指紋認証用の小さな装置がある。
優衣ちゃんがそこに指を置く。
小さな電子音がして、ドアが静かに開き始めた。
中は非常用の照明が所々で、緑色の明かりを放っているだけで薄暗い空間だ。
そこに足を踏み入れ、目を凝らして辺りをうかがう。
普段なら受付の人が座っているカウンターの奥にも人はおらず、広い空間はしんと静まり返っている。しかも、ずっと人の活動がなかったのか、空調も切られていて、建物の中も外気とそう変わりのない寒さで、俺たちの吐く息が白く凍って行く。
エレベータのボタンはこの暗い空間の中、俺たちが向かう場所の目印にふさわしく、小さな黄色っぽい光を放っていた。
俺たちはそのエレベータに向かう。
1階にランプがついていて、エレベータが1階に停止している事を示している。優衣ちゃんがエレベータのボタンを押すと、すぐにドアが開いた。
開いたドアの奥の照明が、暗い空間に光を導き、三人の姿を映しだした。
優衣ちゃんがその中に進んで行く。
九重さんがその後に続こうとしたので、俺はその腕をとって引き留めた。
「ここから先はだめです」
九重さんはエレベータ前で止められた事に、訝しげな表情を浮かべたが、エレベータに踏み入れた足を引き戻した。
「分かった」
エレベータの中に入った優衣ちゃんが振り向いて、俺に頷いたので、俺も頷き返した。
俺には優衣ちゃんが少し震えているように見えた。寒さからか、それともあの日の恐怖からかは分からない。でも、俺はそんな優衣ちゃんに声をかけた。
「大丈夫。
頑張って」
その言葉に、優衣ちゃんが頷いた時、エレベータの扉が静かに閉じた。
俺と九重さんがいる空間に再び闇が訪れた。
エレベータは地下に向かったはずだが、エレベータの上にある階表示はどんどん上に向かい始め、やがてR階で停止した。本来無いはずの地下。それを隠すため、普段人が訪れない屋上を表示するようになっているようだ。
俺は寒さから震えながら片隅のソファに座って、優衣ちゃんがヒューマノイドを起動して戻って来るのを待った。九重さんがいると言っても、そう会話をする間柄ではない。ただただ、黙って時の流れだけを待った。
どれくらいの時間が流れたのか、やがてエレベータが動き始めた。俺は立ち上がると、エレベータに駆け寄った。
エレベータの階表示が、屋上から下りてくる。
ドアが開くと、エレベータの中はぎっしりとヒューマノイドで埋まっていた。次々に下りてくるヒューマノイド。敵ではないと思っていても、俺は少したじろぎ、後ずさりをして、ヒューマノイドたちに進路を開けるため、横にずれた。
ヒューマノイドたちが降りたエレベータの中に、優衣ちゃんだけが残っていた。
「優衣ちゃん」
「まだ、たくさんいるの。
それに、クローンさんたちも。
クローンさんたちは2階の会議室に移動させますね」
俺の頭にあの光景がよみがえり、思わずごくりと唾を飲み込み、一度大きく身震いした。
あの衝撃は俺なんかよりも、優衣ちゃんの方が大きかったはずである。その優衣ちゃんが気丈にふるまっている。俺が気弱な態度なんて取れる訳がない。俺は分かったと大きく頷く。
「ヒューマノイドさんたち、その男の子を守っていてください」
九重さんたちが裏切った場合の事を考えてなのだろう。優衣ちゃんもクローンたちを完全に信じきってはいないようだ。優衣ちゃんはそう言い残すと、再びエレベータを閉じた。




