政府の逆襲
センセーショナルなこの事件。
これが放送されれば、世間は大騒動になる。そして、政権に対する不信感が増大し、政権崩壊に追い込む事さえ可能となる。大森は真剣な表情で、テレビと時計を見つめている。
九重さんたちも真剣な顔つきで、その時を待っている。
時計の針の動きが遅い。
まわりの人たちにつられ、俺れまでそんな気分で時計を見つめていた。
時計の長針がついに12を指した。21時。ニュースの時間だ。
通常なら、これはトップニュース扱いのはずだ。
みなの緊張が伝わって来て、俺は生唾を飲んで、画面を食い入るように見つめた。
オープニング画面が終わる。
画面にニュースキャスターがアップとなった。
「こんばんは」
「来るぞ!」
キャスターが挨拶を終えるかどうかのタイミングで、そう言った。気合十分である。俺までその言葉にうなずいてしまった。大森や九重は中腰になっていて、少しでも画面に近づきたいようだ。
「さて、内戦が続く中東の」
キャスターの言葉に大森たちに落胆の表情が浮かんだ。さっきまで、中腰だった二人がソファに腰をおろした。
「トップ扱いだろ?
普通」
大森が不満そうにつぶやく。
いつ始まるのか?
この部屋の者達の言葉数は少なくなり、その始まりを期待しながら見ている。俺もそんな中、テレビに視線を送っていたが、結局この時間帯のニュースでは放送されなかった。
大森に焦りの表情が浮かんでいる。
「なぜだ?
映像の編集が間に合わなかったなんて事はないはずだ。
なぜ放送しない」
そう呟くと、大森は携帯を手に取り、慌ただしく電話をかけ始めた。その様子を不安げな表情で、クローン達も見つめている。
「私だ、大森だ。
放送はどうなっている」
大森はそのまま電話の相手と状況の確認を話していた。その表情は一度怒り気味になり、すぐに落胆気味となり、最後は切迫感が漂うようになっていた。
「事情は分かった。
しかし、残念だ」
どうやら、事態はうまくいっていない感じだ。大森は電話を切ると、クローンたちに向かって、電話の内容を説明し始めた。
それによると、俺たちを襲った映像を放映するはずだったTV局は、そのあまりの衝撃的な内容に編集長が総務省に放映の可否を問い合わせたと言うのだ。当然、政府側が許可する訳もなく、却下されたらしかった。
それだけでなく、そのニュースソースの元を明示するよう指示され、権力に屈したTV局はこの計画の全容、つまり大森議員が仕組んだ作戦であるとまで、答えてしまったらしかった。
自分たちの党の動きが掴まれた。
大森はその事への政府側の反撃を恐れていた。
クローンと大森たちが善後策を話あっている。俺はある意味、敵側の作戦を生で聞いている事になる。そんな気分で、話を聞き続けている時、俺のスマホが鳴った。
ポケットから取り出して、画面を見ると父親からだった。きっと、夜になっても連絡も入れていないため、向こうから連絡してきたんだろう。そう思って、俺がスマホを耳に当てた時、二階から誰かが慌てて下りてくる気配がした。
「はい。
俺だけど」
電話の父親にそう言いながら、階段の方に目を向けた。
「真一。
無事か?
今どこにいる?」
連絡してないと言っても、心配にもほどがあるだろう。そう思っている俺に、真っ青な顔で階段を下りてきた優衣ちゃんの姿が目に入った。俺はさっさと父親の電話を切って、優衣ちゃんに何があったのか、聞こうとした時、信じられない言葉が耳に飛び込んできた。
「家には戻って来るな」
「真一さん、おば様から。
家が誰かに取り囲まれているって。
戻ってこないようにって」
父親の言葉にかぶって、優衣ちゃんが叫んだ。
何、それ?
思わず立ち上がり、俺も叫ぶように父親に言った。
「襲われてるのかよ?
誰にだよ?」
「分からんが、ここには戻って来るな」
そう言うと、父親は電話を切った。
誰に?なんで?
どうしたらいい?
俺が立ちすくんでいると、大森が話しかけてきた。
「どうした?
誰が誰に襲われている。
お前の家が襲われているのか?」
「真一さん、どうしよう」
優衣ちゃんも同時に話しかけてきた。
「俺の家が襲われているらしい。
今から帰らしてくれ」
俺はそう言って、玄関を目指しはじめた。
「私も」
そう言って、優衣ちゃんが俺の後を追おうとした。
それは危険すぎる。俺だって、何の役にも立たないだろう。それでも、俺は行かずにおられない。だが、優衣ちゃんは違う。優衣ちゃんを危険な場所に行かせるわけにはいかない。
「だめだ。
優衣ちゃんはここにいて」
俺は振り返って、優衣ちゃんの両肩に手を置き、しっかりと見つめながら強い口調で言った。
「いやよ」
優衣ちゃんは大きく首を横に振った。
「待て。
君たち」
そう言いながら、大森が俺たちの所までやって来た。
「落ち着け。
君が行ったところで、どうなるものでもあるまい」
「そんな事、分かってるよ」
大変な事になっているそんな中、分かり切っている事を言われて、俺はむっとした口調で返してしまった。
「それでも、行かない訳にいかないだろう。
俺の親なんだぜ」
「行くなとは言っていない」
あれ?そうだっけ?
俺はちょっと早とちりしていたのかも知れない。確かに、行くなとは言われてないわな。
「じゃあ、何なんだよ?」
「一緒に行ってやってくれないか?」
大森のその言葉はクローンたちに向けられており、クローンたちは顔を見合わせている。リーダーである九重さんが一度目を閉じた後、口を開いた。
「そうだな。
こいつの父親には話もあるし、もしかするともその相手は政府側の手の者と言う可能性だってあるからな。
だとすれば、何か見つけられるかも知れない」
九重さんがそう言って、立ち上がると、八重樫さんも立ち上がった。
その姿を見た大森が自分の秘書に一緒に行けと、顎で合図を送った。秘書は大森に頷くと、立ち上がって玄関を目指しはじめた。
「優衣ちゃん。
君はここにいて」
そう言って、俺は秘書の人の後を追おうとしたが、優衣ちゃんに腕を握られてしまった。
「私も行く」
「しかし」
優衣ちゃんの瞳には強い意志が映し出されている。俺は悩んだ。危険な場所には連れて行けない。そう思っていたが、クローン達も一緒なのである。なら、いいかなと思いかけた時、俺の頭にもう一つの事が思い浮かんだ。
俺の父親は言わば、政府側の人間だったはずである。それが、どうして襲われたのか?
今日、大森とクローンたちが仕組んだ作戦と関係あるのだろうか?
だとすると、ここも襲われる可能性は無いのか?
「分かった。優衣ちゃん。
一緒に行こう」
俺は思った事を口には出さず、それだけを言って、優衣ちゃんの手をとった。
そんな時だった。車を出すために駐車場に向かったはずの秘書がクローンたちと共に戻ってきた。
「もしかすると、虎の尾を踏んでしまったのかも知れません」
秘書は大森に向かってそう言った。俺はその言葉に、さっき俺が思った事が現実になったんだと感じた。それは大森にも伝わった。




