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クローンと大森議員の作戦

 俯いている優衣ちゃんの向こうに見える窓からの景色はずっと市街地のままだ。

 流れていく家、マンション、商店。優衣ちゃんに寄り添いながら、時だけが流れて行く。

 車内はクローンたちも黙ったままで、エンジン音とロードノイズだけで満たされている。そんな時、俺はふと気づいた。さっきまではそんな余裕など無かったが、今はこの車の向かう先に思いをやる余裕ができた。


 「あの、この車はどこに向かっているのですか?」


 運転席の男が俺の言葉に振り返った。


 「大森議員の自宅だ」

 「真子の?」


 突然、優衣ちゃんが顔を上げて、言った。


 「真子ちゃんって?」

 「私の同級生、大森真子ちゃん。

 お父さんが進民党の議員さんなの」


 「真子さんのお友達でしたか」


 大森議員の関係者らしい運転席の男の言葉に、優衣ちゃんが大きく頷く。その顔は少し明るさを取り戻していた。この現実から逃れ、普段の穏やかな世界に戻れる。そう感じたんだろう。俺はそんな優衣ちゃんの横顔に少し安心した。

 しかし、なんだ。どうして、クローンたちと議員がつるんでいるんだ?


 「どう言う関係なんですか?」


 揺れる車の中、俺は前に身を乗り出して、運転席の男に聞いた。

 走っている道路は広く、まっすぐに伸びていて、歩行者も車の姿も少ない。運転席の男は、俺に顔を向けて一言言った。


 「そこに政府の闇を感じたからだよ」


 そう言って、再び前を向いて、運転に専念し始めた。

 闇。

 クローン製造だけでなく、そのクローンを使っての人体実験。紛れもない闇である。こんな事が世界にばれれば、政権が吹っ飛ぶ程度では済まないかもしれない。

 しかし、このクローンに大森はどこまで知っているのか?

 知られてはいないと思ってはいるが、人体実験の片鱗くらいは知っているのだろうか?

 そう言えば、俺はこの車がやって来た時、運転席の男が言った言葉の意味は?


 「作戦成功だって、言いましたですよね?

 作戦って、何だったんですか?」


 再び身を乗り出しながらたずねた俺の言葉に、クローンや運転席の男が振り向いた。


 「まあ、その内にね」


 運転席の男が、にこりとした表情で俺にそう言った。

 そんな男の向こうのフロントガラスの先には、多くの戸建ての住宅が並ぶ住宅街が映っていた。俺が不満げな顔で、シートにもたれた時、車は減速して、路肩に停車した。

 そこは大森議員の自宅。優衣ちゃんにとっては、友達の真子ちゃんの家だった。

 玄関を入った一番近い位置にある応接室。議員の自宅だけあって、そこに置かれている応接セットは立派なものだった。そして、来客が座る位置から見える壁にかけられた絵画も、それなりのものに思えた。

そこに座ったのは八重樫さん、1号タイプ、そして俺である。

 向かいに座っているのは、大森議員、さっきの運転手、この人は議員の秘書らしい。それに九重さんである。

 五木さんは俺たちの後ろに立っていて、優衣ちゃんは真子ちゃんの部屋に行っている。

 この部屋で交わされている会話は、クローン製造の事実とそれに政府が関与していた事実をどう利用して、政府を揺さぶるかと言う事である。しかも、新たに生まれた衝撃的な疑惑。密かにクローンたちが処分されていたと言う事実。これをどうやって確かめ、政府を揺さぶるかと言う事である。

 こんな話題、優衣ちゃんに聞かせるわけにはいかない。たまたまここが優衣ちゃんの友達の家でよかったと思わずにいられない。

 俺はこの大人たちのそんな会話に入っている訳ではない。ただ、座っている。それだけである。

 俺はもちろん、製造されたクローンたちがどうなったのか知っているが、それを言うメリットは無いし、理由もない。

 座って聞いている内に、俺はいくつかの事を知った。


 元々感じてはいたが、クローンたちが浅井優衣と言う女性を探していた事。

 その事実を嗅ぎ取った野党が、浅井家を訪ねた事でクローンたちと接触を持った事。

 反乱を起こしたクローンたちの国民への登録と言う要求を政府が形式上のみ、クローンたちのトップだった10-1号、つまりあのマンションで銃弾をその身に受けた十合が、政府側と和解したと言う事。

 それに従わなかったのはここにいるクローン3人だと言う事。

 俺はその話で、俺たちがクローン達に捕えられた時のパソコンの向こうにいた女性の事が気になった。 あの人もクローンだったはず。

 そんな話を聞いている内に、大森の秘書がリモコンを手に、テレビをつけた。

 なんで、今テレビなんだ?

 俺の怪訝な表情を見て、大森が話しはじめた。


 「君は作戦とはどんなものだったのかと聞いたそうだね?

 今に分かるよ」

 「はい?」


 それって、テレビでやるって事なのか?

 クローンたちはあのマンションに隠しカメラをセットしていた。俺は優衣ちゃんの部屋で、その映像を見ていたが、あの映像を他の場所でも受信していて、録画していたのかも知れない。

 俺は納得した。あの映像と音声があって、テレビに流れれば、色々な事が公になる。

 クローンと言う言葉も何度も出てきていたはずだ。

 仲間が殺されたと言う衝撃的な発言もあったし、何より俺たちが縛られている映像に、十合が銃撃される場面。

 その銃を使ったのは佐官クラスの政府側の人間。

 これが流されれば、政府の闇が露わになる。それは野党側にとっては、政権奪取のきっかけとなるはずである。

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