ファースト・クローンって、何ですか?
三列シートのワンボックスカー。1号タイプと八重樫さんが最後部のシートに、俺を真ん中にして、俺と優衣ちゃん、九重さんが二列目に。最前列の助手席には五木さんが乗りこんだ。
ちょっとだけ、ホッとした気分だが、油断はできない。背後に車がつけてきていないを気にして、俺は振り返って、リアウインドウに目をやった。俺の視界には最後部の席の二人が目に入ってきた。
腫れ気味の顔面に血痕をこびりつかせた1号タイプの具合を八重樫さんが見ている。
普通の人間でも痛々しい顔になっている。それが、あのクローンである。俺は背筋がぞくっとして、慌てて前に向き直った。
男二人と女の子一人が並んで座っていると、シートに余裕はなく、俺の体が優衣ちゃんに触れた。優衣ちゃんはうつむき加減で、両手を膝の上で握りしめ、震えているのに気付いた。
「大丈夫」
俺は優衣ちゃんが、襲われた恐怖から震えているんだと感じ、優衣ちゃんの肩を抱きながら、そう言った。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
顔を近づけた時、優衣ちゃんが泣きそうな声で、そう繰り返しつぶやいているのが聞こえてきた。
「どうしたの?
優衣ちゃん」
俺の反応に、九重さんが覗き込んできた。
「どうした?」
「ごめんなさい」
優衣ちゃんはまだそう呟いて、震えている。そして、ぎゅっと握りしめた拳に涙の粒が落ちたのに気付いた。
俺には優衣ちゃんが何に怯え、何を詫びているのか分かっていた。
「優衣ちゃん」
俺がかけられる言葉はそれだけである。
俺はそう言って、優衣ちゃんの肩を抱いている手に力を込めた。
「なんだ?」
九重さんだけでなく、八重樫さんに五木さんまで、優衣ちゃんに視線を向けてきた。
「何でもありません。
ちょっと、怖くて動揺しているだけです。
だって、そうでしょ。あの十合とか言う人、銃で撃たれたんですよ」
俺はそう言って、これ以上、優衣ちゃんを動揺させまいとした。これ以上プレッシャーをかければ、優衣ちゃんが壊れてしまうかもしれない。そう感じていた。そして、それだけではなく、もし、優衣ちゃんが気にしている事が、クローンたちにばれれば、もしかすると、俺たちの身が危なくなる事も考えられるのだ。
俺の言い訳に九重さんたちは納得したようで、殺された十合を思い出し、苦い顔で話し始めた。
「十合さんには悪い事をしてしまいましたね」
「しかし、あれがあの人なりの責任の取り方だったんだろう」
確かに自分が騙されたかも知れない事で、仲間の命が危険にさらされた。それを自分の命と引き換えにして、救った訳だ。俺にはできないような気がするし、あの行いは立派だと思った。その時、俺の頭の中に十合の姿が浮かび、九重さんとのやり取りが甦ってきた。
「ファースト・クローンの予言を我々は信用します」
クローン達の言う予言とは何なんだ?
ファースト・クローンって?
「そう言えば、ファースト・クローンって、何ですか?」
俺は素直に聞いてみる事にした。




