助かった!
九重さんたちと戦っていた男たちが野本の背後に回る。
佐川は再び立ち上がると、野本に向かって怒鳴る。
「何をしている。
そんな命令は受けていないぞ」
「どうせ、こいつらは処分するんだ。
ここでしてしまってもいいでしょう」
野本が引き金にかけていた指に力を入れる。
人通りも、車の通行も少なく、音らしい音の無い空間を一瞬小さな銃撃音が切り裂いた。
その銃弾を身に受け、血を流したのは九重さんではなかった。
九重さんをかばうかのように大きく体を広げて、九重さんの前に立った十合の胸のあたりに焼け焦げたような穴があり、そこから血が流れ出していた。
本物だ。
俺はまた恐怖した。
その銃声は優衣ちゃんの意識も揺り起こした。俺に抱きかかえられたまま、何があったのかと一瞬戸惑った表情の後、すぐに真っ赤な顔になって、俺に言った。
「し、し、真一さん。
下ろしてください」
「あ、あ、ああ」
俺は半分恐怖に包まれたままの状態で、優衣ちゃんを地面に下ろした。
「十合さん」
自分をかばった十合に、九重さんが言った。
「全ての責任は人間を信じてしまった俺にある。
俺の命でそれが償えるわけはないが、これが俺にできる責任の取り方だ。
あの方を連れて、逃げろ」
そう言い終えると、十合が銃を構えている野本に向かって、走り始めた。
「十合さん」
九重さんが言った。
九重さんは今にも十合の加勢に向かいそうだった。
「九重さん。だめです」
八重樫さんがそう言って、九重さんの手を握る。
「しかし、八重樫。十合さんが」
「十合さんの気持ちを考えてください。
今、我々が逃げないと、十合さんの気持ちを無駄にしてしまいます」
「くっ!」
九重さんが言葉とも言えない、声を発した。
「行くぞ」
九重さんがそう言って、体を反転させる。
さらに銃声が響いた。
九重さんの背後で銃声がして、十合が体をくねらせながら、地面に倒れこんだ。
次に狙われるのは俺たちの誰か?
俺の恐怖がMAXを振り切ったその時、駐車場の前に一台のワンボックスカーが停車した。
「早く乗れ。
作戦成功だ」
車の窓から、声がした。
それが敵なのか、味方なのか俺には分からず、立ち止まっていると、九重さんが俺の背中を押した。
「乗れ」
遠くから、パトカーのサイレンも聞こえ始めた。
佐川たちの声がした。
「クローンたちの背後に、どこかの組織が絡んでいる。
これ以上は無理だ。一旦、引き上げるぞ」
「くっ!」
野本が、悔しげな声を上げ、ピストルをしまうのが見えた。
助かった。それが俺の本音だ。




