乱戦に抜かれたピストル
十合の攻撃に続き、九重さんたちも行動に出た。
男たちに殴り掛かった。
九重さんたちは戦闘訓練を積んだプロだったが、男たちもただ者ではないらしい。
九重さんのパンチをかわしながら、逆にパンチを見舞おうとしている。
九重さんがそのパンチを体を傾けながらかわし、蹴りを放つ。
野本は立ち上がると、ただちに戦いに参戦し、九重さんたちを襲いに向かう。
佐川は予想外の事態に様子を見ていたが、すぐに自分の使命を思い出し、戦いに加わった。
俺は男たちの戦いを横目に、優衣ちゃんを抱きかかえながら、道路を目指して走り始めた。どうやら、二つの勢力の個人の力量は拮抗しているようである。
とすると、数で優劣が決まってしまう。
九重さん側は裏切った十合と言う人を含めて、4人。でも、五木さんは戦いは得意ではなさそうな雰囲気で、おろおろと逃げ回っている感じである。
佐川側は最初に優衣ちゃんの部屋に来た3人も合わせると5人である。
押されている仲間のところにもう一人参戦させる余力がある。
俺の見たところ、九重さんが相手をしている男が押されていた。
攻めているのは九重さんであり、戦っている相手は防御に手いっぱいと言う感じだ。
佐川が九重さんの背後に回った。
九重さんは佐川の動きをつかみ、男に殴り掛かろうとしていたのを止め、両にらみの状態で止まった。
「五木、その子たちを連れて逃げろ!」
九重さんが叫んだ。
戦い慣れしてなさそうな五木さんが、その言葉に頷くと俺たちの所に走り寄ってきた。
その五木さんが、俺たちのところにやって来るのを防ごうと、佐川が九重さんとの戦いから離れようとした。
その佐川を止めようと九重さんが動く。
その九重さんの顔めがけて、別の男の蹴りが飛んできた。
「くっ!」
九重さんがうめき声をあげながら、右腕でガードして、蹴りを受け止めた。
九重さんの足は止められ、佐川を追いかけられる状況でなくなり、九重さんの顔に苦渋が浮かぶ。
その時、十合の顔つきが変わった。
動きを止め、戦っていた男と間合いをとり、静かに構えなおした。
男が前に出て、十合の顔面あたりに左でパンチを繰り出す。
十合がそれを払いのけようと、右腕を出す。
その瞬間、男が体を傾けながら、右足で十合の側頭部を狙った。
十合の右腕は男の左腕をはらいのけるだけでなく、その腕に絡みついていた。
十合が男の蹴りをかわすため、体を下げた。男の左腕の関節を逆方向に曲げながら。
鈍い音がした。
腕を抱えうずくまる男を放置し、十合がその場を離脱し、佐川を追った。
その頃、五木さんは佐川に背後から肩を掴まれ、のけぞっていた。
そんな五木さんの顔めがけて、佐川の拳が飛んだ。
佐川の拳がめり込んだ五木さんの顔が歪み、吹き飛ばされながら、横向きに地面の上を滑る。俺は成す術もなく、意識を失った優衣ちゃんを抱きかかえながら、道路を目指していた。
俺の目に道路で真っ青な顔で立ち尽くす女性の顔が飛び込んできた。手にしたビニール袋から言って、どこかで買い物をして自宅に帰るところのようだ。
「警察を呼んでください」
俺が叫ぶ。
その女性が慌てて、手にしていたビニール袋を地面に置き、かばんから携帯を取り出し、電話を始めた。
まずい。そう思ったのだろう、男たちの動きが慌ただしくなり、佐川がその女性目指して走り始めた。
女性は自分の身に迫る危機に気付き、慌てて携帯を手にしたまま、逃げはじめた。
そんな女性を追って、電話を止めさせるより、早くこの場の決着をつけようと思い直したのか、佐川は俺のところに向かってきた。
はっきり言って、恐怖である。
優衣ちゃんを抱えたままでは逃げる事すらできない。
だからと言って、優衣ちゃんを置いて逃げるなんて事は出来る訳がない。
「来い!」
佐川がそう言って、俺たちに手を伸ばそうとした時、佐川の横腹に十合の蹴りが命中した。
「ぐはぁっ」
不意の蹴りに、佐川が呻く。
「佐川一佐。すみません。
あなたが野本一佐を殴った理由は分からない。
人として、私に本当の事を知らせたくなかったのか、任務遂行のため私を味方にしておきたかっただけなのか。
でも」
十合が佐川にそう言った時、野本が言葉遮った。
「もういい。
ここで、お前たちを処分する」
その言葉に皆が振り向く。
野本のその手にはピストルが握られ、九重さんに向けられていた。




