恐怖の瞬間!
「えっ?」
俺は絶句した。何かの見間違いではと、目を細めた。
間違いがない。
何かの作り物だろうか?
そんな思いで、周りを見渡した。
頭がい骨を割られた人のようなものは一人ではなく、何人もが同じように頭蓋骨を割られ、脳をむき出しにした状態で並んでいた。しかも、その人間のような者は全て同じ顔なのである。
やはり作り物なのか?
でも、なんのために?
俺の思考は納得できる解答を見つけられず、訝しげな顔つきで固まっていた。
部屋の中に入って行った男の人が、そんな俺たちの異常な反応に気付いた。
「君たち、初めて見たの?」
その男の人の声も激しく動揺している。
「これは人体実験?」
「本当に君たちは知らなかったの?
これは人体実験じゃないよ。人にこんな事できる訳ないだろう。
これはクローンなんだ」
「クローン?」
SF映画か何かのようではないか?
しかし、俺はその言葉に納得した。
だから同じ顔なのだ。
クローン。本当にいたのだ。
しかも、そのクローンを使って、人体実験。
電極を脳に埋め込まれている現実。飛躍的に発展した人工知能。
複雑な人間の脳を代替する装置を作るには、人間の脳の動きを調べるのが近道である。
脳の動きを外から観測するには限界があって、中を直接探るのが一番効率がよい。
今までの話から言って、俺にだって人工知能開発のためにやっているのだろうと言うことくらい、想像できる。
当然所長である俺の父親が知らない訳はない。
俺は何か悪い夢を見ている気分だった。
視点定まらぬまま呆然としていた時、視界の片隅に動くものがあった。
俺の注意が、そこに向かう。
優衣ちゃんも、そこに視線を向けた。
視線の片隅で、動いたのは頭の上半分から脳がむき出しになった状態のクローンだった。そのクローンが首を動かし、俺たちの方を向いた。
そのクローンと目と目があった俺の心臓が凍りついた。
その次の瞬間、そのクローンが大きく目を見開き、涙を流し始めた。
はっきり言って、恐怖である。
俺にはその恐怖が大きすぎて、固まってしまった。
俺の横では、優衣ちゃんが恐怖に引きつり、足ががくがくと震えている。