襲われた優衣ちゃん
研究所占拠事件が解決してから、二日後の朝。
優衣ちゃんは俺の学校よりも遠い場所にある私立に通っているため、この家の高校生3人の中では、一番早くに家を出る。俺はそんな優衣ちゃんが家を出て、かなり後になって家を出るのが普通である。今朝もさっき優衣ちゃんは家を出て行った。俺は玄関を出て行くマスク姿の優衣ちゃんを見て、ふと思った。
一緒に行きたいじゃねぇか。
真奈美は今日帰ってくる。あいつが帰ってきたら、何かと邪魔をしてくるに決まっている。今日は真奈美のいない最後の日だ。そう思うと、優衣ちゃんと一緒に行きたい気がしてたまらない。
俺は慌てて、二階の自分の部屋に駆け戻り鞄を持って、家を飛び出した。
その差は一分程度。この家からは下り坂。優衣ちゃんが女の子と言っても、スピードは出そうと思えば、かなり出せる。自転車では追いつけないかも知れないが、駅では同じ電車になれるはず。
俺は家を飛び出すと、自転車に飛び乗り、思いっきりペダルをこいで、道路に飛びだした。
はっきり言って、俺の家はこの斜面に立つ住宅街の最上部にある。あたりに人気はなく、飛ばし放題である。
俺がハンドルを切って、駅に続く坂に自転車を乗り入れた。ここからの見晴らしはいい。大きく広い道路が真っ直ぐ続いている。坂の下に行けば行くほど、車や人通りは多くなっていくが、それはまだ先の話で、まだ俺の周りに人気はない。
俺の興味は今、優衣ちゃんはどこまで行っているのかである。視線を先に送って行く。少し先にワンボックスカーが一台停車していて、そこに数人の人影が見える。
「えっ」
その時、俺は絶句しかかった。
ワンボックスカーの横に自転車が倒れている。その自転車の近くには鞄が転がっていて、その鞄には見覚えのあるアクセサリーがいっぱい付いている。
「優衣ちゃん」
俺は優衣ちゃんが事故に遭ったものと思い、慌ててそのワンボックスカーを目指す。そこにいた男たちの一人が、そんな俺に気付いた。
「あいつも奈良岡の息子だ。
予定外だが捕まえろ」
俺は耳を疑った。それって、事故ではなく、誘拐、拉致かよ?
しかも、俺たちがどこの誰だか知っての犯行。
俺は慌てて、ブレーキを握った。心を苛立たせる甲高い金属音がする。
だが、すぐに俺は思い直した。俺がここで逃げても仕方ない。あいつらは優衣ちゃんを捕まえているはずである。
俺の大事な優衣ちゃん。
あんな男たちの手に渡すわけにはいかない。
「うぉー」
俺は雄たけびを上げて、男たちに自転車で突撃をかけた。
男たちとの距離が瞬く間に縮まって行く。
男たちは俺にびびった様子すら見せていない。
本当にはねてやる。
そんな気持ちで、突撃して行った俺だったが、男たちは軽々と直前で身をかわし、自転車に乗っている俺を横から蹴り飛ばしやがった。
俺はバランスを崩し、激しく自転車ごと道路に転がってしまった。
「痛ってぇ」
俺がそう思った時には、男たちに取り囲まれていた。