解決した占拠事件
クリームシチューの香りが漂う食卓。俺は待ちきれない気分で、食卓に座っている。俺がクリームシチューを好きだと言うのもあるが、今日のクリームシチューを作ったのは優衣ちゃんである。当然だがシチューのルーなんて使ってない。優衣ちゃんの完全お手製だ。
すでに食卓の上には野菜サラダに、スライスされたバケットが並んでいる。優衣ちゃんが自分のクリームシチューを運び終えると、全てが揃った。
「いただきます」
そう言って、俺はスプーンを手に、クリームシチューを口に運ぶ。
「美味しい!」
俺が目を輝かせながら、そう言って視線を優衣ちゃんに向ける。
「そうですかぁ?
うれしいです」
首をかしげながら、優衣ちゃんが嬉しそうな笑みを浮かべて言った。
そんな優衣ちゃんに俺は笑顔で、大きく頷き返したが、優衣ちゃんの声がかすれ気味なのに気が付いた。
「風邪気味?」
「うーん。どうなのかな?
ちょっと風邪っぽいかな」
優衣ちゃんが考えているような顔つきで、首を少しかしげた後、にこりとして言った。
心配じゃねぇか。俺の大事な優衣ちゃんが。
俺は慌てて、手を伸ばして、優衣ちゃんの額に手を当てた。
優衣ちゃんが一瞬驚いたような仕草でのけぞり気味になったが、俺の手は優衣ちゃんの額に届いた。
「うーん。熱はないかな」
俺が真剣な顔で言う。
「はい。
ありがとうございます」
かすれ気味の声で、優衣ちゃんが嬉しそうに言う。そんな優衣ちゃんの頬がちょっぴり赤くなった。
俺はそれからも優衣ちゃんに話をしながら、美味しく、幸せな食事タイムを楽しんだ。これも、いつもなら、邪魔をしてくる真奈美が学校行事のスキー合宿に行って家にいないからである。
そろそろ夕食も終わりと言う頃、俺の背後のテレビでニュースが始まると、優衣ちゃんが身を乗り出し気味になって、テレビに目をやった。
そんな優衣ちゃんの姿は珍しい。いったい、何がそんなに優衣ちゃんをひきつけたのか?俺はそう思って、振り返ってテレビを見た。そこにはあの暴徒たちが占拠したと言われている研究所が映し出されていた。
警官たちが研究所の建物の中から、何人かの男たちを連れ出してきた。いかにも悪人面。警官に寄り添われながらも、体をゆすって抵抗心を誇示している男や、映像から声は聞こえていないが、何かわめき散らしている男もいる。そんな男たちを早く行かんかとばかりに、力任せに押してパトカーに連行していく。
いかにも、事件は解決。そんなシーンだ。テロップにも、占拠犯逮捕と映し出されている。
「あれって、解決したの?」
「ええ。今日の昼間にね」
俺の母親が言う。俺はその場面を見ながら、疑問を持った。俺が父親から聞かされていた話では、あの研究所を占拠していたのはクローンたちのはずである。しかし、今映し出されているのはみなそれぞれ同じ顔なんかしていない普通の男たちである。あえて普通でないと言うなら、その男たちがいかにも悪人と言う風体なところだけである。
俺が感じた疑問は優衣ちゃんも感じているのか、テレビの画面を怪訝な表情で見つめている。
「変だよね」
俺が優衣ちゃんに言ってみる。
「あ、はい。
真一さんも、そう思いました?」
「ああ」
そんな二人の会話に、何の事と言う感じで、俺の母親が俺たちを見た。
俺はその日、父親が帰って来るのを待って、この話を聞いた。あの時と同じように、父親の書斎で。
その話によると、研究所内にいたクローンたちは全て国民への登録申請のため、俺の父親の研究所との間をつなぐ地下トンネルを使って、父親の研究所から外に出て行ったと言う事だった。
そして、この事件を収拾するために、犯人役の男たちが雇われたと言う事だった。