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いなくなった優衣ちゃん

 俺は駅から自転車で通学しているのだが、はっきり言って山の手にある俺の家は坂の上。学校に行く時は楽チンだが、帰りはつらい。若い男子高校生とは言え、家に着く頃には息は乱れっぱなしである。

 大きく息を吸い込んで、門扉を開けると、優衣ちゃんの自転車が止まっている。

 家には優衣ちゃんがいる。そう思うだけで、疲れも吹き飛ぶと言うもんだ。

 俺は優衣ちゃんの自転車の横に、自分の自転車を止めると、いそいそと玄関に向かった。


 「ただいま」


 そう言って、家に入ると、玄関には優衣ちゃんの学校の靴が、片隅にきちんと揃えて置いてある。 時々、その靴にすりすりしたくなる事もあるが、そんな姿を見られて変態と思われるとまずいので、そこは理性で抑えている。

 家の中からは返事がない。

 玄関には女物の靴はいくつも並んでいるが、俺の母親の靴はいくつも普段から並んでいるので、それだけでは母親がいるかいないかは分からない。

 まぁ、返事が無いのだから、母親はいないのだろう。

 真奈美の学校の靴も無いので、帰ってきていない。

 今、この家にいるのは俺と優衣ちゃんだけなんだろう。

 ちょっと、うれしい気分である。俺は二階の自分の部屋を目指して、軽やかに階段を上っていく。階段を上がって、俺の部屋は右側に。優衣ちゃんの部屋は左側の奥にある。


 二階の廊下はしんと静まり返っている。優衣ちゃんはきっと、部屋で勉強しているのだろう。優衣ちゃんの気配を感じられないのは、少し寂しい気もするが、同じ場所に二人だけ。それだけで、ちょっとはうれしい。

 俺は優衣ちゃんの部屋の方に視線を送った後、自分の部屋に入った。

 俺も高3である。優衣ちゃんの事ばかり考えていてはいけない。勉強しなければならない。

 机に向かって、参考書に問題集。広げて、鉛筆を手にする。

 俺の目に練習問題の文字が飛び込んでくるが、頭の中に広がるイメージは優衣ちゃんの姿。

 いかん、いかん。

 そう思って、首を激しく振って、頭の中から、一旦優衣ちゃんに退いてもらう。

 俺は勉強に集中し始めた。窓から差し込んでいた明るい日差しはオレンジ色の弱い光になり、最後には闇になってきた。階下では俺の母親と真奈美の気配がしている。もうじき、夕食かも知れない。


 そう俺が思っていた時、車のエンジン音が聞こえてきた。

 こんな時間に、父親が帰ってきた?

 俺が不思議そうに時計に目をやった時、時計は19時にまだなっていなかった。

 早っ!まじかよ?

 俺が椅子から立って、窓から下をのぞくと、確かに俺の父親の車が車庫に停車していた。

 何かあったのか?

 普段、こんな時間に帰って来ない父親が、早く帰ってくるとついつい素直に受け入れられず、そんな事を想像してしまう。

 俺が見ていると、父親は車から慌てた様子で飛び降り、玄関に駆け込んできた。

 やっぱり何かあったんだ。

 そう思っていると、階下から父親の声が聞こえてきた。


 「おい!みんな来てくれ」


 俺も急ぎ気味に部屋を出ると、階下から母親の声が聞こえてきた。


 「どうしたの?あなた」


 俺は優衣ちゃんが出て来るんじゃないかと、優衣ちゃんの部屋に目を向けながら、階段を目指す。優衣ちゃんの部屋から、優衣ちゃんは出てこないし、出てこようとしている気配すらない。

 俺が階段にたどり着いた頃、階下から信じられない言葉が聞こえてきた。


 「優衣ちゃんを探してくれ」

 「何があったのですか?電話されたらどうなんですか?」

 「だめだ。電話はさっきから何度もしているが、全く出ない」


 どう言うことなんだ?

 部屋にいると思っていたがいないのか?

 どうして、俺の父親がそんな事を言っているんだ?

 大慌てで、階段を駆け下りると、俺はたずねた。


 「優衣ちゃんがどうかしたのか?」

 「詳しい事は言えん。少し先の公園の辺りで、いなくなった」

 「意味が分かんねぇよ。何で、優衣ちゃんがいなくなるんだ?」

 「だから、それは今は言えん。とにかく、早く見つけないと、取り返しのつかないことになるかも知れん」


 事情は呑み込めない。

 優衣ちゃんに何があったのか?

 俺の父親がなぜ優衣ちゃんと一緒にいたのか?

 しかし、優衣ちゃんをすぐに探さなければならないと言う切迫感は伝わってきた。

 初冬の時期、外は寒いと分かっていたが、俺は着の身着のままで、飛び出して行った。

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