接触する二つのグループ
大森を乗せた車はやがて、市街地の大きな道路に出ると、東に進み始めた。その先にあった高速道の入り口には入らず、一般道をそのまま進んでいく。大森の後をつける男たちの車も、高速道路の入り口を通り過ぎ、一般道を進んでいく。やがて、大森を乗せた車は大きな道路から外れ、住宅が並ぶ生活道路に入って行った。道路の左右には戸建ての住宅が並んでいる。
大森の後をつける車の後部座席の男の膝の上にはノートパソコンが置かれていて、パソコンには地図が 表示されている。その地図を見ながら、男が言う。
「このまま行くと、大森議員の自宅に向かうようです」
「よし。そこで、コンタクトしよう。
後どれくらいだ?」
「あと2Kmくらいです」
運転手がアクセルを踏み込み、前を行く大森を乗せた車との距離を詰める。
前を行く大森を乗せた車のブレーキランプが赤く輝き、減速していく。
二台の車はみるみる接近し、ほぼ同じ場所で停止した。
「後ろに車が停車しました。
つけてきていたようです」
大森の車の運転手が言う。
その言葉に、後部座席にいた大森と秘書が振りむく。
リアウインドウ越しに見える車の中に、見知らぬ男たちがいる事を確認した。
背後に見知らぬ車が停車した事で、大森を乗せた車の中には緊張感が走った。
「行ってきます。
逃げる用意はしておいてください」
秘書はそう言い残して、車のドアを開け、降りはじめた。
それに合わせるかのように、後ろの車の後部座席のドアが開き、男が降りてきた。
一見して、紳士風である。
だからと言って、安心はできない。
闇の世界の男たちも、一見紳士風の場合がある。大森の秘書は男の出方をじっと見つめていた。
「あなたたちは何ですか?」
その言葉に、紳士風の男は一礼をした。
「私たちは、今占拠事件を起こしている研究所の所員です」
男がそう言いながら、懐から名刺入れを取り出し、秘書に渡す。
秘書はその名刺を受取り、目を通した。
浅井バイオ研究所
主席研究員 九重 三夫。
あの研究所の事を知ることができる。
秘書はこれはついている。そう思いながら、秘書が男に目を戻す。
「あなたたちですね?
浅井優衣と言う少女を調べていたのは。
で、我々に何の用が?」
「もちろん、私たちは占拠されている研究所を解放する手段を探っているのですよ。
大森議員はその少女の事に関し、調べておられる。
目的などをお教えいただければと思いまして」
「この事件と浅井優衣はどうつながるのですか?」
秘書は男の問いかけは無視して、しっかりした視線を向けながら、自分たちの聞きたいことを聞いてきた。
男の方も秘書の視線を受け止めながらも、その答えを口せず、黙ったままである。
「あなたたちはあの研究所を解放したい。
その事に関しては、我々も協力しましょう。
その前にまず、あの研究所に何があるのか、浅井優衣とどう関係するのかをお教えいただけませんか?」
秘書にとって知りたい事実。それはこの暴動の対応に政府が関与しなければならないほどの理由。それは大きければ大きいほど、隠されるはずである。
この程度の事で明かされるなら、大した秘密ではなかった。そういうことだ。
明かされないなら、やはり何かがそこに隠されている。
秘書は男たちの出方を見守っている。
すると、男が突然表情を崩して、秘書に笑みを向けた。
「なるほど、おっしゃっておられることは道理ですね。
しかし、今それを明かすことはできません。
そちらも目的を明かしたくはないのかもしれませんが、こちらの協力があった方が助かる。
そう言うことはありませんか?」
あの研究所の事の答えは得られなかった。しかし、秘書は男の言葉にあそこに大きな秘密があると言う確信を得ていた。