年下男子は好きですか?
キラッキラした玉座にもう尻の肉が入りきらないんじゃないかというくらいに太った、これまたギラギラしたおっさん(王様っぽい)が言った。
勇者よ。その類いまれなる才能を以って、かの邪悪なる魔王を打ち倒して参れ。
…才能なんてねぇよー!
異世界召喚。
そんなものは自分とは無縁のものだと思っていた。いや、現実にあるとは思っていなかった。時々読む小説の中ではよくあることだがその主人公たちと同様に、勇者として召喚されてしまったらしい。
会社からの帰り道、気がついたらキラキラしたもや中できれいな女の人から光るボールみたいなのを受け取っていて、そしたら見たことない神殿にいるのに気がついた。あたふたしているところを、数人の兵士達が取り囲み、大広間らしき場所まで連れて来られたのだった。
才能ないとか嘘つくなとか、旅に出なければ殺すとか散々なことを言われて、逃げ出さないように発信機付きの腕輪まで勝手にくっつけられたけれど、どうやらこの国一の天才魔法使いをつけてくれるとのこと。
しかし、殺されるくらいなら旅に出るかと開き直って、護衛(見張り?)の兵士と一緒に魔法使いの家までやってきたら、扉を開けるとそこには10才くらいの少年がいただけだった。
「ちょっと!こんな小さい子に討伐させるとかどういうこと?ふざけんなっ…」
後ろを振り返ってみれば、護衛はさっさと逃げた後だった。
「悪かったね。こんなガキが仲間でさ」
少年が不機嫌そうに奥の部屋に向かって歩いていく。険悪な雰囲気にまごまごしてると、イライラしながら少年が振り返って言った。
「アンタのせいでオレまで巻き込まれるとか、いい迷惑だよ。オバサン」
その言葉と態度にカチンときた私は盛大に彼とケンカしてしまった。私もこの時はいろいろ限界だったからだけど、24の女が大人げない。
でも、始めにぶつかり合ったせいか、アッシュ(彼の名前らしい)とはすぐ仲良くなった。彼の髪は柔らかい金髪で、日本では珍しい赤い目をしてる。雑誌の子役みたいに綺麗だ。だけど、時々歳相応の姿を見せてくれるのがかわいい。
世界の常識を全然知らなくてご飯を買うのも苦労してた私に、ぎこちなく、ほら、と言ってカルシュというパンみたいなのを差し出してくれたときはきゅんきゅんした。だって、そっぽ向いた彼の耳が真っ赤だったから。
色んな敵を倒す度に彼と仲良くなるのが嬉しかった。とは言っても、ほとんどアッシュの魔法で敵が吹き飛んでただけだったけど。彼は本当に国一番な魔法使いだったみたい。私はといえば、小さな頃から習っていた空手で魔物を殴っていた。うん、殴ってた。素手で。
私がいなくてもアッシュだけで魔王を倒せるんじゃないかと思って、一度だけ聞いてみたら、否定された。アッシュ曰く、魔法を使うには自分の魔力だけじゃなく、媒体とするエネルギーが必要らしい。普段は空気中を漂うエネルギーの粒子を集めて魔法を使っているのだそうだ。勇者である私はエネルギーの塊みたいなものらしくて、
「朔がいなきゃこんなに力は使えないし、力を使って旅しようと思わない。だから居なくなったりしないで」
仔犬の様な、くるくるした目で見つめられたから、思わず抱きしめてしまった。かわいすぎるんだよ、アッシュ。こんな弟ほしかったなー、とか考えてたら口に出してたみたいで、弟ってなんだよってむくれてた。子供扱いすると怒るんだよね。
旅は順調に進んで、魔王は完全には倒せなかったけど、なんとか封印はできた。一度封印したら次に目覚めるのは500年以上先ならしいから、とりあえずは安心だ。
城に戻ったら女神さまに元の世界に返してもらおうとか、でもアッシュと離れるのは寂しいなとか考えてるうちに、行きとは比べ物にならないくらいあっという間に帰り着いた。魔物がいなくなって平和になったからだろうか。
城の大広間では相変わらずおデブな王様が踏ん反り返っていたけれど、それを適当に流して、神殿に向かった。すると、廊下を歩く間に、アッシュが手をつないできた。
キラキラした光に包まれて女神さまが現れた時もアッシュは手を離そうとしなかった。
『朔、アシェンデス・エバーデン、魔王の封印ご苦労様でした。褒美になにか願いを叶えましょう』
女神さまがたおやかに微笑む。アッシュってばそんな立派な名前だったんだとか考えながら、いよいよお別れの時だな、と思って彼を見ると、アッシュが私より先に口を開いた。
「願いはありません、女神さま。」
「え?ちょっ、なに言ってるのアッシュ?」
「この国が平穏で、僕達も息災で日々過ごせれば、それが一番の幸福ですから」
女神さまは、そうですか、欲のないことですねとか微笑みを浮かべると、すーっと消えていった。私を帰らしてって言おうと思ってたのに!
「ちょっとアッシュ!私帰れなくなったじゃんか!どういう…」
どういうこと、と問いただそうとしてグラっと世界が回った。ごちん、と頭を打った痛さに思わず一瞬閉じた目を開けると、目の前には見たことない男の人がいた。
筋の通った鼻に緋色の瞳、サラサラの長い金の髪が私の顔にかかる。
「…もしかして、アッシュ?」
「さーく。帰りたいとか言わないよね。居なくならないって約束したのに。」
そして綺麗な目を細めて、帰りたいとか言っても、俺が許さないけど、とかのたまった。笑ってるのに笑ってない目が怖すぎて、思わず首を縦に振りまくってしまった自分を叱り飛ばしたい。
後になって聞いた話でわかったのだけど、アッシュは師匠も舌を巻くほどの希代の才能の持ち主で、その力と、見目麗しさから数々の貴婦人方から熱い目で見られてるとか、それを簡単に袖にするから涙にくれる人が跡を絶たないとか。
私が召喚された時は、勇者と二人で討伐とかめんどくさいことできるか、って姿を子供に変えて私のやる気を無くさせようと思っていたらしい。それが、ケンカする程お転婆な女の人だったのが新鮮で興味が湧いたから旅に出たんだって。
朔から離れない、とかいって四六時中べったりの彼にあれやこれやされて、何時の間にやら大魔法使いの妻っていう肩書きができちゃったけど、愛されてるから、まぁ、いいか。うん。
自分の好きな設定を盛り込んだだけの話になってしまいました。
初めての作品なので拙い文章だったと思いますが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。