兄が好きな妹さんの苦悩
鈍感じゃない主人公を書いてみようと思って実践した結果、よくわからないものになりました。これから精進致します。
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最近、妹の態度がおかしい。
いや、コイツが異常であること自体は前々からだ。昔から、俺の妹、琴音が俺を見る目はどう見ても恋する乙女の目である。
少なくとも、実の兄に向ける目ではない。
……本人は、気付かれていないと思っているようだが、あれで気付かないほうがどうかしていると思う。
確かに、一応本人は、俺や周りの人間に、その隠した想いを気付かれないように努力している。
しかし、俺の目は誤魔化せない。一体何年兄貴をやってきたと思っている。
ある日、試しに風呂から出たあと、部屋に戻るふりをしてすぐ脱衣所に戻ってみると、琴音が俺のトランクスに顔を埋めているのを発見した。
いつもは知的で冷静な妹が息を荒げ、俺の視線にも気づかずに夢中で俺のトランクスを味わっているのを、俺はとりあえず携帯電話で動画撮影しておいた。
またある日、いつもより1時間ほど早く起きて、音を立てないよう注意しながら台所を覗いてみると、琴音が俺の弁当に自分の唾液や愛液を混入しているところに出くわした。
これも動画撮影しておいた。弁当は食った。
そんな風に、前々から俺に対して家族愛を明らかに逸脱した目を向けていた妹だが、最近は俺の周りを露骨に嗅ぎまわっていた。俺の秘密を、一つ残らず見つけ出してやるとでも言わんばかりに。
肝心の俺にばれていたとはいえ、これまで許されざる好意をずっと隠してきたことを考えると、少しばかり大胆すぎるくらいに、である。
そして今日、俺の部屋に来た琴音は、素敵な笑顔で――目は笑っていなかったが――俺に聞いた。
「兄さん、正直に答えてください。今、付き合っている人達がいますね?」
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―kotone side―
油断していた。完全に油断していた。
私の兄、颯真兄さんはもてる。異常なまでにもてる。何故そんな当たり前のことを忘れていたのか。兄さんの周りに群がる女達に気付けなかったのか。
理由は一つだけだ。兄さんが、故意に隠していたから。それだけだ。
自画自賛することになってしまうが、私は、思考能力、運動能力、それに容姿なども含めて、周囲から概ねかなりの高評価を受けている。
昔から、告白してくる輩が後を絶たない。私は兄さんにしか興味ないのに。
しかし、それでも、私は兄さんには絶対に勝てない。何故か、などと疑問を挟む余地も無い。そういう風に出来ているのだ。
男女の差が出る運動神経はともかく、単純に思考能力や容姿だけで言うなら私と兄にそこまでの差はない。しかし、問題はそのようなところにあるのでは無い。
私にとって、何よりも優先されるべきは、兄さんの言葉であり、兄さんを信仰することであり、兄さんと共にあることなのだ。
自分が、世間の常識から完全に外れた存在であることはわかっている。なにせ、血の繋がった実の兄を愛しているのだから。それも、狂信者と呼ばれても仕方の無いようなレベルで。
事実私は、兄に死ねと言われれば喜んで死ぬし、誰かを殺せと言われれば、それが誰であろうと喜んで殺すだろう。
だから私は、兄さんに自分は誰とも付き合っていないと言われたら、それを信じるしかなくなるのだ。
と言っても、当然、私には独占欲もある。それも恐らくは非常に強大な。
だから、本来なら兄を盲目的に信じるべきであるのに、それでは安心できない自分に嫌悪を抱きながらも、兄の周りをチェックするのを怠ったことはなかった。ない、つもりだった。
しかし、どうやら、やはり私は兄さんには勝てないらしい。
まったく、そう、まったくである。私は、兄に恋人や、それに準ずる存在がいる証拠を発見できなかった。
兄を、好意的な目で見ている女は、それこそ何人も何十人も存在した。
当然だろう。あれほど容姿に優れ、学業や運動も高水準でこなすのだ。そのような目で見られないほうがおかしいだろう。
だが、一定のラインを超えた者……単なるあこがれなどではなく、私の兄を一人の男として明確に愛し、付け狙うような女は一人たりとも発見できなかった。
ここで、違和感を覚えるべきだったのだ。
結論を言おう。兄は、自分に一定以上の好意を持つ女性を、全員囲っていた。
他の女とも交際していることを告げた上で、自分のハーレムに加えていたわけである。
そして、その事実を巧妙に隠し、学校では彼女がいないことが七不思議の一つなどと言われながら、誰にも気付かれず彼女達公認でハーレムを構成していたらしい
正直、理解できない。
いや、兄さんがハーレムを構成していること自体は……まったく良くないが、まぁ、無理をすれば理解できないこともない。男なら、そういうものに興味をもつのもおかしくないだろう。実際にそういう状態を作ってしまうのは勘弁して欲しいが。
しかし、公然と浮気されているようなものであろうに、その状況で歪みを作らずに兄と交際していられる女達は何を考えているのだろうか。
いや、兄がそれだけ魅力的なのは当然だ。確かに、諦めたくないというのはわからなくもない。少なくとも私は、どんな困難があろうと兄を諦めるつもりはない。
だが、愛する者が、自分以外のことも見ていると言うのに、我慢できるものなのか、私は、それが信じられない。
実際、こうして今考えている私は、いつ爆発してもおかしくないほどに胸にどす黒い感情が溜まっている。
愛する兄を、気付かない間に雌猫どもに汚されていた。
今、私がなんとか理性によって抑えていられるのは、それが、兄の望みだからだ。
兄さんが、好んで作った状態なのだ。いくら兄を信仰する私にでも許せないものはあり、この状況などはまさにそうしたものなのだが、それでも、怒りに任せて今すぐ全員を殺す、などという手段には出ずに済んでいる。
兄さんが望んで作ったものなのなら、兄さん本人に壊してもらおう。
そして私は、愛する人に問いかける。
「兄さん、正直に答えてください。今、付き合っている人達がいますね?」
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―souma side―
ついにばれたらしい。
まぁ、それもそうだろう。元々、学生の身分で何人もの女と付き合っていて、歪みが出ないほうがおかしいのだ。
達、と聞いてきたと言うことは、複数人と付き合っていることもばれたわけだ。
「ああ。いるよ」
しかし、それで焦る必要は無い。
元々、同意の上でのことなのだ。琴音にばれたのなら、学校で隠しておく必要も無い。俺に対して周りが抱くイメージは変わるだろうが、それも大した問題にせず対処できる自信がある。
それより、今はこの目の前の妹だ。
「兄さん、複数の女性とお付き合いなど、そんな不誠実なことをしているのが周りにばれたら、今まで築き上げてきたイメージなど台無しです。このまま続けるべきでは無いと思いますが?」
「悪いが、問題は無い。彼女達は複数人と付き合うことに同意してくれているし、周囲からの評価などいくらでも操作できる」
「兄さんはよくても、私が良くないんです。浮気を繰り返す兄をもつ妹などと思われたら、私まで被害を受けるんですよ?」
「例えそうなったとしても、お前自身に不都合はあるまい。お前が心配しているのは、そっちじゃないだろう?」
「何を言って――」
「素直に言えばいい。愛する兄を他の女どもに取られて不愉快だ、と」
「……っ!気付いて、いたのですか?」
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―kotone side―
気付かれていた。
私の、想いも、嫉妬も、依存も、信仰も、全て
兄には、お見通しだったのだ。
「ああ、安心しろ。別にお前を軽蔑などしていないし、嫌ってもいない」
「……」
「そもそも、お前の気持ちには昔から気付いていた。嫌悪するなら、とっくの昔にしているさ」
衝撃、だった。
おもむろに兄が取り出した携帯電話には、私が兄に隠れて、いや、隠れたつもりになってやってきた変態行為の数々が収められていた。
「むしろ、ばれたらまずいことを抱えているのは、お前のほうだろう?琴音。何、別にこれを誰かにばらすつもりなどない。ただ、俺はお前がどんなことをしていたのか知っているし、それによって嫌ってなどいないという意思表示だ」
「兄…さん……」
「それで、お前に提案がある。俺と付き合わないか?俺はお前だけを見るわけではないが、お前のことを愛し続けることを誓う。琴音、俺の妹ではなく、俺の恋人になれ。俺はお前を愛す。家族としてではない。一人の女としてだ」
ああ、ああ、やはり、そうなんだ。私は、この人には勝てない。そういう風に出来ている。
私とこの人では、見ているものが違う。見えているものが違う。
私の世界は、兄さんだけ。それ以外のものは、私にとっては全て平等にどうでもいいものだ。
だけど、兄さんは違う。兄さんはもっと大きなものを見ている。住んでいる世界が、違うのだ。
兄さんと付き合っている女達は、そのことに気付いているんだろう。そして、それを受け入れたのだ。
私も、受け入れれば、その、変えようの無い、燦然たる事実を受け入れてしまえば兄と恋仲になれるのだ。
ずっと。ものごころついた時からずっと憧れていた関係を、手に入れることが出来るのだ。
だから、だから私は――――――――――――――――
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あの日、結局私は兄の提案を断った。
私は、兄さんの周りに集まる、兄さんと別の世界に生きる自分に満足することを選んだ女達とは違ったらしい。
私は、兄さんの世界を壊すことを選択したのだ。
兄さんは言ってくれた。血の繋がった私を、女として見てくれると。愛してくれると。
それなら、私は決して妥協などしない。いつか、必ず、兄さんを私だけのものにしてみせる。
そのために、私は思考する。行動する。兄さんの世界が狭まるように。
殺すのではない。脅すのではない。そのようなことをしても兄さんの世界は変わらないだろう。
私はただ、自分を磨くのだ。兄さんが私のことだけを見てくれるようになる、その日まで―――――――