親玉
「結局何もわかんなかったな...」大川が小さく呟く。
「...そうだな...」野田がさらに小さく呟く。
帰り道、薄暗い産業道路脇を歩く。
「体調は?」
「うん..だいぶ...大丈夫。」
「そっか」
「だからもう...」
「とりあえず出来る事はなんでもやってみないと」
「.......」
「俺、明日図書室行ってみ...あ..」
「.....ああ、俺も行くよ...」
「.......」大川が黙り込んだ。
「おい......大川?」
「あのさ、あれって...」
大川が何かを指差す。振り返ってその先を見ると...
猿だ。しかしその姿が異様だった。
体格は成人の人間の様だが首から上と全身の毛並みは猿そのものだった。
そして何故か使い古されたような藍色の着物を着ていた。
「まさかな....」大川が言う。
辺りをきょろきょろとし始めた。何かを探しているようだ。
「まさかだよな......」野田が返す。
『何だあれ』 『人形?』
他の人にも見えているようだ。
「.......」
二人は無言でアイコンタクトをし、回れ右をし、そーと歩き出した。
ドンッ
足元に振動を感じた。ゆっくり振り返ると、大川の目の前に例の猿が立っていた。
こうして見ると大川より少し身長が高い。
大川の腕が掴まれる。
「何...スか...?」
キィーーーー
猿が音を立てる。鳴き声では無く、どこか無機質な音だ。
「こいつ、日本語しゃべれんのかよ...」野田が言う。
「はぁ?日本語?」
「え、だって今...」
「えぇ!何て言ってたんだ!?」
「....お前か?...だって」
「................」
大川は答えられなかった。否定すれば野田の方を向くと思ったからだ。
[お前じゃない]
猿が大川の腕を放し、野田の方を向いた。
[お前か?]
「..............」 「野田、今なんて...」
心拍数がハンパじゃない。
[違います] [我々の同胞を知らないか?]
[知りませ...][お前か]
「ハァ....ハァ.....ヤバい...」
「おい、何だよ!?」
猿が野田の首に手を伸ばした。
足がすくんで動けない。
左手が激しく引かれる感覚。
大川が野田の手を引いて走り出した。
「走れっ!」
猿は追いかけては来なかった。
野田は翌日学校を欠席した。