回想
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以下回想
「.....えと...」
「ほら、自己紹介しなきゃ」
「…の、野田京一です。よ、ろしくお願、いしま…」
親の都合で幼い頃から引越しの機会が多く、友達が多くできなかった野田は2年前に引っ越してきた中学校でも、人前に立つのが慣れていなかった。
『暗そうなヤツだなー』
『女子じゃねーじゃん。誰だよ女子って言ったヤツ』
『でも、ちょっとかっこよくない?』
『えーっ?そうかー?』
☆
転入から3日間、周りと必要最低限しか喋らなかった野田を、クラスで最も気にしていたのが大川駿河だった。
「野村!鬼ごっこ行こうぜ!」
「……いや、俺はいいや。あと…」
突然話しかけられて驚いたが、丁寧にお断りするのと、間違えて覚えられた名前を訂正しようとした。
「い~からいいから、ほら行くぞっ」
「あっ、ちょっ…!」
大川は野田の腕をつかんで、半ば無理やり校庭に連れ出した。
野田にとっては5年以上ぶりの鬼ごっこだった。
結局、鬼ごっこの最中に過度な運動で、持病の発作を引き起こした野田は、異変に気づいた大川が呼んだ救急車によって運ばれ、その後1週間と2日の入院となった。
大川は野田の退院まで毎日、病院に足を運んでいた。相当な責任を感じていのだろう。野田は何回も謝られたが、はっきりと自分の気持ちを伝えることができなかった。
それから少しずつ仲良くなった2人は、同じ学校に通うことになった。
野田にとって初めての、‘友達’と呼べる存在だった。
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