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寿司屋コンビニ(小説版)

作者: 銀河星二号
掲載日:2026/10/16

 トラックが行き交う、郊外の片側二車線道路。その脇の歩道をフラフラと歩く男がいた。

 グレーのスーツ、ビジネス鞄。二十代のサラリーマンに見える。


「駅まで……遠い……」


 そこは都心から遥か彼方の地。

 トラックが脇を通る。風が巻き上がり、ホコリが舞う。

 男は大きくフラついたが、道の脇の手すりに掴まり、踏み止まった。

 ふと、道の外に立つ看板に目が行った。女の子がオニギリを美味しそうに頬張っている。

 

「そう言えば昼飯……食った記憶が無い。そうだな、何か食わないと……」


 男は左右を見回す。あるのは道と田んぼだけだった。建物らしきものは、農業用の納屋ぐらいしか見当たらない。


「歩くしか……」


 男は歩いた――。


 三十分経過。光る看板が見えた。


「何かある!」


 男は意気揚々とその建物へ向かって歩いた。建物が大きく見えて来る。看板がある。

 それはコンビニだった。白地に青文字で「Sマート」と書いてある。


「聞かない名前だな」


 看板の下には、更にイートインと書いてあった。


「よし! 行ける!」


 男はコンビニに入った。

 

「えい、らっしゃい!」


 店に入った途端、威勢の良い声が響いた。

 

 男は一瞬立ち止まった。が、特に気にせず、弁当コーナーに向かった。

 そこには、いくつかの弁当があった。シャケ弁、シュウマイ弁当、海苔弁。


「……えーと……これか」


 男はシャケ弁を引っ掴み、レジに持って行った。


「これ下さい!」


 しかし、店員は後ろを向いていた。何かを握って、口に運んでいるようだ。


「すいませーん!」


 無反応。まだ何か食べてる。


「すいませーーーん!」


 店員はビクッと飛び上がり、男に振り向いた。


「えい、何にしましょ?」


 店員は、男の前に、お茶とおしぼりを置いた。


「……なんすかこれ?」

「アガリとおしぼりです」

「……サービス?」

「元、寿司屋なもので」

「ああ……なるほど?」


 男は、お茶を飲み、おしぼりを使った。


「これ下さい! イートインで!」


 店員は眉間を上げ、イヤそうなな顔をした。


「弁当……ですか……」

「……弁当ですよ?」


 店員は、悲しそうな表情で下を向いた。


「どうしたんです?」

「いえ……何でも……」


 店員は弁当を袋に詰め始めた。

 ふと、男はレジ横に醤油差しがあるのに気付いた。


「醤油差し? なんで?」


 店員は顔を上げ、嬉しそうにニヤリと笑った。


「……気付いてしまいましたか……」


 店員は、男にコッソリ耳打ちをした。


「いいコハダが手に入ったんですよ」

「コハダ?」


 男は、周りを見回した。まごうことなきコンビニの店内が見える。


「ここ、コンビニですよね?」

「コンビニですね」


 二人は、しばし見つめ合った。妙な沈黙が流れた。

 男はちょっと考えた。


「いえ、弁当……弁当下さい!」

「ああ、コハダはお嫌いですか」


 店員は、後ろを向いて、並んでいたネタを指差して確認した。


「マグロはお好きですか?」


 男は唾を飲み込んだ。


「いえ、弁当で……いいです」

「タコ。これね、明石のタコなんですよ」


 店員はタコを持ち上げた。


「……弁当……」

「ウニもあるんですよ?」


 グウ。男のハラが大きく鳴った。


「……ウニ……ですか……?」


 店員は、ニヤリと笑った。


「ウニ、お好きそうですね。僕もね、さっき食べてみたら、これがもう、濃い味で旨いったら!」


「う、ウニ下さい!」

「ウニですね」


 店員は、ウニの軍艦巻きを握り、客の前に置いた。


「えい、お待ち」


 男は、寿司をほうばった。


「旨い! これは旨い! 今まで旨いウニを食べてきたけど……これは、最高だ!」

「まあ、元寿司屋ですからね」


 男は、寿司をほうばりながら、店員を微妙な表情で見つめた。店員は上機嫌だ。


「実はね、とっておきの奴があるんです」

「とっておき?」

「食べてみます?」

「是非!」


 店員は、また寿司を握った。


「どうぞ」

「おっ、これは!」

「スモークサーモンです」

「へえ!」

「お店にある食材で工夫してみたんですよ」

「やるねえ大将」

「コンビニ店員です」

「旨い旨い」

「まだありますよ」


 寿司を握る。


「うお、何これ旨い」

「アイスですね」

「アイス?」

「ゴリゴリ君、トマトスープ味ですね」

「へえ……こんなんなんだ」

「じゃあ、ここらで奥義行ってみますか」

「奥義?」


 店員は、複雑な勢いのあるポーズで寿司を握った。


「お待ち。はあはあ……」

「ちょっと、大丈夫?」

「ちょっと気合い入れすぎました。どうです?」

「これはコリコリっとして……」

「シャーペンの芯ですね」

「ちょっとーっ! これ食えんの? ペッペッ」

「コリコリっとした感触がキャビアっぽくて……」

「違えーーよ!」

「奥地で会いませんでしたか?」

「奥地行ってねーしっ! どこの奥地だよ! ジャングルかよ……って、それは、お口にでしょ!」

「あ……」

「あ、じゃなくて!」

「ではファイナルウェポン握り行きますか?」

「ファイナル?」


 店員は、超高速で走って寿司を握り、寿司をカウンターに置くと、バタリと倒れた。


「ちょっと、大丈夫? ねぇ? 生きてる?」

「……食べて……」

「これは何だろう……パサパサして……年季が入った……」


 店員は起き上がった。


「少年チャンプですね」

「食えねぇよ!」

「ヤギは喜んで食べますよ?」

「ヤギじゃねぇし!もういいや、旨いのもあったし……お会計!」


 店員はフラフラしながら、レジを打った。


「えーと……」


 店員は、手元が定まらない。打ち間違いを連発した。


「……こう!」

 

 レジが、煙を吹いた。


「三億八千万円になります」

「高過ぎ!」



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