1. うちは美少女召喚術師がくるような薬屋ではないはずです
エンゲージ・ブレイブロード
やたらと多いヒロインがいるRPGでバランス調整がおかしかったり、運営の性癖が透けて見えたり、途中で勇者要らないほどヒロインが強くなったりとツッコミどころが多い。それでもなにか惹きつけられたプレイヤーたちは、無心にやりこんだ。
自分もそうだった。すべてのヒロインを網羅してみたり、逆に可能な限りヒロインを仲間にするのを縛ってみたり、この世界を楽しんだ。
まさか自分がこの世界に転生するとは思わなかった。
「ロイちゃんありがとうねぇ」
「いえいえ、お大事になさってくださいね」
王都にあるありふれた薬屋。
主な客は膝の痛み止めを買いに来る話が長いおばあちゃん、昔はドラゴンにも負けなかったと繰り返す腰を痛めてるおじいちゃん、はしゃいで遊んで転ぶ子供。
普通の薬屋である。
ちなみにゲーム内では、冒険者ギルドにアイテム売り場が併設されているので、薬屋などは出てこない。
つまりモブですらない普通の薬屋なのだ。
最初はがっかりしたが今では穏やかに過ごしている。
客も引いた夕方ごろ、お店にとある客が来店してきた。
綺麗な銀髪、小柄な体つき、眠そうな目元。
「…あの」
そして鈴の音のような甘い声の少女。
「…この子、ケガ」
少女が胸に抱えていた黒猫を見せてくると、確かに足から出血していた。
「診せてください」
自分は薬屋だが、師匠にいろんな知識を叩き込まれている。町の薬屋としてやっていくなら、浅く広く診られる方が都合がいいと。
そういえばゲーム最序盤でも、こんなヒロインイベントがあった気がする。
「これで大丈夫ですね」
「…ありがと」
そうそうこんな会話で、確か勇者はヒロインにこんなことを言うのだ。
「料金は君の笑顔で」
少女はぽかんとした後、
「…変な人」
とふわりと笑った。
そこでようやく気が付いた。
目の前の少女は…召喚術師イレイナ。ゲーム内では後方支援から前衛耐久まで万能にこなす、とんでもない性能のヒロイン。攻略サイトには初心者おすすめヒロインとして一番上に挙げられているほどだ。
このゲームには無数のヒロインがいる。
そして、ほぼすべてのヒロインは第一イベントをスキップできる。
目の前の少女、イレイナの場合、その条件は単純だ。
ゲーム開始から初クエストを受注するまでの間に、広場でケガをした黒猫を抱えて困っている彼女を、勇者が助けること。
ちなみにスタート地点からチュートリアル通りに冒険者ギルドに行けば、広場を通るので、固有グラフィックのキャラクターを見て見ぬふりでもしない限り、普通はイレイナに会えるはずなのだ。
「…ばいばい」
と小さく手を振った姿が可愛くて意識がなくなりかけたが、なんとか正気を保ち、手を振り返す。
勇者の存在は、この前の王都新聞で紹介されていた。だから、存在しないということはない。
なぜうちにヒロインが来ているのだ?勇者くん?この美少女スルーしたの?まじ???
まぁ、この世界に住んでいるのだ。そういうこともあるだろう。
「…おはよう」
なんでまた来てるの???
「この子…餌、食べてくれない…」
丸い毛玉のモンスターを差し出してくるイレイナ。
「おなかの調子が良くないのかもしれませんね。少し待っててください」
なぜ二日連続で…超絶美少女がうちに…。
「こちら流動食です。どうでしょう?」
毛玉の前に置くと、スンスンと匂いを嗅いでからペロペロと舐め始める。
「…たべた、すごい」
「ええ、よかったです」
「これ、欲しい」
「銅貨三枚です」
と返すとふわりと笑ってくる。
「…えがおじゃない?」
「勘弁してください…」
この日からイレイナは頻繁にうちに来るようになった。
おかしい…うちは普通の薬屋のはず…。
決してヒロインが来るような場所ではない。
だって俺は、勇者でも、冒険者でも、町のモブですらない。
ただの、普通の薬屋のはずなのだから。
薬屋 ロイ 普通の薬屋
召喚術師 イレイナ とてもつよい




