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ヴォルク村へ

農村で浄化に成功したマシロ。

今回浄化の為に赴く場所は……?

 目が覚めると、そこには見知らぬ天井があった。そうだ。私はこの世界に召喚されてから、王城にある客間で寝泊まりしてるんだった。


 私は、のっそりと上半身をベッドから起こす。フカフカのベッド。肌触りの良い白いネグリジェ。本当に私は、聖女として丁重な扱いを受けてるんだなあと実感する。


 朝陽の射しこむ室内を見渡すと、赤い絨毯、可愛い鏡台、品の良い棚や机が目に入る。あの木製の机で、男性同士があんな事やこんな事をする同人誌を書きたいなあなどと考えていると、部屋のドアがノックされた。


「失礼致します、聖女様」


 そう言って部屋に入って来たのは、若いメイド。赤い髪の毛をおかっぱにしている。このメイドの名はヘルマ。私がここに来た初日に、私の専属メイドとして紹介された。


「あの、ヘルマさん。私は貴族でも何でも無いし、聖女ではなくマシロと呼んで頂いて良いんですよ?」


 私が言うと、ヘルマさんは首を横に振って答える。


「いいえ。あなた様は、農村の瘴気を浄化した実績のあるお方。呼び捨てにするわけには参りません」

「……じゃあ、せめてマシロさんと呼んで頂けませんか?」


 私が妥協案を提示すると、ヘルマさんは考え込むような表情をした後、遠慮がちに答えた。


「……では、マシロさんと呼ばせて頂きます」


 ヘルマさんは私より一歳年上の二十一歳と聞いているけれど、おずおずと私の名前を呼ぶ様子は可愛らしい。私は朝からほっこりしてしまった。


 ヘルマさんは、ベッドの縁に腰掛けた私の方に近付くと、笑顔で言った。


「では、マシロさん。髪の毛を整えさせて頂きますね」


       ◆ ◆ ◆


 その数分後。青いワンピースに着替えた私は、城にある食堂に足を踏み入れた。広い食堂にいたのは、ディルク殿下、エルヴィン殿下、そしてコリンナさん。

 コリンナさんは、将来王太子妃になるかもしれない女性なので、泊まり込みで王妃教育のようなものを受けているらしい。


「あら、おはよう、マシロ。私の隣にいらっしゃいな」


 コリンナさんが笑顔で私に話し掛ける。


「は、はあ……おはようございます」


 そう言って私がコリンナさんの隣にある椅子に腰かけると、コリンナさんは私にしか聞こえない声でボソリと呟いた。


「何で私がマシロのサポート要員なのよ……!」


 そう。コリンナさんは、私のサポート要員として私と一緒に浄化活動をする事になったのだ。


 コリンナさんは、農村で瘴気を完全に浄化出来なかった。でも、人々の病を治した実績はある。だから、聖女とは認定できないけど聖女に準ずる存在として、私の補佐を任されたのだ。


 全く、面倒な事になった。私が瘴気を完全に浄化してしまったせいで、コリンナさんから不況を買ってしまうなんて。


 私が溜息を吐くと、エルヴィン殿下が唐突に私に話し掛けた。


「そうだ、マシロ。突然で悪いが、食事が終わったら俺と一緒に来てくれないか。ヴォルク村という、王都のはずれにある村に行こうと思うんだが」


 ヴォルク村。その名を聞いたディルク殿下とコリンナさんの食事をする手が止まった。どうしたんだろう? 二人共、気まずそうな表情をして。

 疑問に思いながらも、私は返事をする。


「はい、良いですよ。でも、どうして私をその村に連れて行きたいんですか?」


 すると、エルヴィン殿下は目を伏せながら答えてくれた。


「……ヴォルク村は炭鉱があるだけと言っても過言ではない田舎なんだがな。最近そこに瘴気が発生しているという話を聞いた。お前にその瘴気を浄化してもらいたい」

「ああ、そういう事ですか……。承知致しました。まだ聖女になった実感がないですけど、精一杯聖女の務めを果たさせて頂きます!」


 そう言って私が笑顔で力こぶを作って見せると、エルヴィン殿下はフッと笑った。普段無表情でいる事の多いエルヴィン殿下の笑顔に、私は思わずドキリとした。


       ◆ ◆ ◆


 それからしばらくして、私はエルヴィン殿下と共に馬車でヴォルク村へと向かった。今馬車には、私、エルヴィン殿下、護衛騎士のベンヤミンさんの三人しかいない。

 揺れる馬車の中で、エルヴィン殿下はジッと私を見つめていた。無言なのが怖い。


「……あの、エルヴィン殿下。どうして私の方をジッと見ているのでしょうか……?」


 恐る恐る私が聞くと、エルヴィン殿下は一瞬キョトンとした顔をしたあと、申し訳なさそうに言った。


「ああ、悪い。居心地が悪かったか。……実は、今ヴォルク村は人口が減っているんだが、その分監視の目が行き届かなくてな。荒くれ者が住み着くようになっている。だから、お前のような美しい女が村に入ると目を付けられるんじゃないかと思って、少し心配していたんだ」

「う、うつくしっ……!!」


 私は、顔を真っ赤にして口をパクパクさせてしまった。エルヴィン殿下は、首を傾げて言葉を続ける。


「美しいだろう? お前のアップにした長い黒髪も、ぱっちりした目も、全て魅力的だ。その青いワンピースが良く似合っている」


 私の頭はパニック寸前だ。今まで、男の人に美しいだなんて言われた事ないのにっ……!


「ご安心下さい、マシロ様!」


 殿下の隣に座るベンヤミンさんが、空気を読まず張りのある声で言う。


「農村では不甲斐ない所を見せてしまいましたが、必ずや俺がマシロ様をお守り致します!」


 そう言えば、ベンヤミンさんは農村で瘴気を吸って、体調を崩してしまったんだっけ。ライトブラウンの髪に緑色の瞳をした彼の顔を、私は覚えていた。

私は、気を取り直すとベンヤミンさんに笑顔で答える。


「ありがとうございます、ベンヤミンさん。頼りにしていますね」


 その言葉を聞いて、ベンヤミンさんが少し顔を赤くする。エルヴィン殿下は、そんなベンヤミンさんを睨みつけていた。

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