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黒幕2

ヴラスタの過去は……。

 ヴラスタは、物心ついた時から家族や使用人達に冷遇されていた。食事は一人だけ離れで摂るよう命じられ、与えられるのも固いパン、余り物の肉、しなびたサラダだけだった。


 その癖、一応皇帝の娘だからと淑女教育だけは施され、少しでもミスがあると家庭教師に鞭で叩かれた。


 ヴラスタの母親は不貞を疑われた事で精神を病み、ヴラスタを助けてくれなかった。


 しかし彼女が九歳の時、人生の転機が訪れる。ヴラスタに魔術の才能がある事が発覚したのだ。

 何も期待せず彼女に魔力測定を受けさせたフベルトは、手の平を返してヴラスタを抱き締めた。


「よくやった、ヴラスタ。お前はアダーシェク家の誇りだ!」


 ヴラスタの心が、フッと軽くなった。やっと自分の存在を認められた気がして、嬉しかった。


 それからヴラスタは厳しい魔術の訓練をさせられたが、苦では無かった。魔術を成功させるとフベルトが褒めてくれたし、病んでいた母親もヴラスタに微笑んでくれた。


 嫉妬したヴラスタの兄や姉に訓練を妨害された事もあったが、ヴラスタはメキメキと実力を着けていった。



 そしてヴラスタが十八歳の時。彼女は当時アドラー王国の王太子だったループレヒトと結婚する事となった。


 政略的な結婚だったが、ループレヒトは優しく、ヴラスタは次第に本気でループレヒトを慕うようになっていた。

 息子であるディルクも可愛く、ヴラスタは幸せの絶頂だった。


 しかし、まだディルクが赤ん坊の時に、ループレヒトが黒髪に赤い瞳の女を愛人にした事を知る。ループレヒトも、ヴラスタに申し訳ないとは思っていたようだ。


 しかし、「気に入った女性がいるのなら愛人にしてしまえばいい。子供は多い方が良いのだし」と家臣に言われ、愛人にする事を決めたらしい。


 やっぱり自分は愛されないんだ。自分を愛してくれるのは父親であるフベルトしかいないんだ。ヴラスタは、そう思い込んだ。



 そして真白が召喚される二か月程前。ヴラスタは久しぶりにアダーシェク帝国へ里帰りをしたが、そこでフベルトから思いがけない命令をされる。

 アダーシェク帝国繁栄の為に、アドラー王国を潰す手伝いをしろと言うのだ。


 最初は反発した。愛する夫や子供の暮らす国を危険に晒す事は出来ないと。しかし、フベルトは言った。


「愛人を作った男の事などどうでも良いだろう。子供の事が心配なら、子供に危害が及ばない範囲で手伝ってくれればいい。……ヴラスタ、良く考えるんだ。誰が一番お前の事を理解しているか。お前の事を愛しているか」


 そして、ヴラスタはフベルトに手を貸す事を決めた。


       ◆ ◆ ◆


「……ヴラスタ。今まで辛かったな。君の事を考えているようで考えていなかった。……本当に、済まなかった」


 ヴラスタ様の前に跪いたループレヒト様が、深々と頭を下げる。ヴラスタ様は、目を見開いたまま呟く。


「そんな……私は、この国を裏切ったのに……」


 ループレヒト様は、優しい笑みを浮かべて言った。


「私は、慣れない中必死にこの国の文化に馴染もうとしてくれた君を、私に笑いかけてくれた君を愛しいと思っている。……だからヴラスタ、一緒に罪を償おう」

「はい、はい……! ありがとうございます、ループレヒト様……!!」


 ヴラスタ様は、顔を両手で覆ってボロボロと涙を零し続けた。


「……くっ、この私を裏切るとは……!!」


 フベルト陛下が腰に差していた剣を抜き、あろう事かヴラスタ様を斬り付けようとした。

 でも、陛下の剣がヴラスタ様に届く事は無かった。フベルト陛下の身体に無数の蔦が絡みつき、陛下の動きを封じたのだ。


「……全く、お前は変わらないな」


 そんな低い声が聞こえて、私はバッと振り向く。そこにいたのは、鋭い目付きでフベルト陛下を見つめるヘルムートさんだった。


「師匠……!!」


 フベルト陛下が苦い顔をして呟く。ヘルムートさんは、フベルト陛下の師匠だったのか。


 ヘルムートさんは、表情を変えずに言う。


「お前は昔から他人の気持ちに鈍感だったが、ここまで自分本位な人間に育つとはな。恥を知れ」


 それを聞いたフベルト陛下は、何も言う事が出来ずに、ただ項垂れていた。


 こうして、経済会議は中止という形で幕を閉じた。

ツェーザルの呪いが中々解けなかったのは、ヘルムートがアダーシェク帝国の手の者だからではありません。

フベルトがヘルムートの魔術の癖を熟知していたので、中々呪いが解けないように細工をする事が出来たからです。

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