経済会議3
経済会議当日を迎え……。
そして経済会議当日の朝。朝食を終えた私とコリンナさんは、女性用の軍服に着替えて会場となる広間へと足を踏み入れた。会議の際には軍服を着る決まりなのだ。
会場に入る直前、コリンナさんが「ふう、胸の辺りがキツいわね」と言っていたけど、嫌味かな?
聖女への配慮なのか、私はエルヴィン殿下の隣、コリンナさんはディルク殿下の隣に座る事を許された。
広間は、昨日とは打って変わってピリピリとした空気が流れている。空気が違うと感じるのは、私の気のせいでは無いだろう。
広間には、長い机がコの字形に並べられている。私の目に入る位置にフベルト陛下がいない事に、私は少しホッとした。
私達が席に着いて間も無く会議が始まった。ループレヒト陛下を議長とする会議は、すぐに白熱したものとなる。
「ですから、こちらは北国なのです! 燃料に使う魔石はいくらあっても足りない! 国民の為にも、魔石の輸出を控えるのは考え直して頂けませんでしょうか?」
「しかし、ノースアイランドは百年前の戦争で命じられた賠償金の支払いも終わっていない。そんな国に何故配慮しなければならないのです? 関税だって低くは無いですし」
北国であるノースアイランドの外務大臣とアダーシェク帝国の皇帝であるフベルト陛下がそんなやり取りをする。私はしばらく二人の会話を聞いていたけれど、難しい経済用語も出てきて話がよく分からない。
エルヴィン殿下が、こっそりと私に耳打ちをした。
「アダーシェク帝国が魔石の輸出を控えようとしているのは、その分魔石を武器の製造に使用するつもりだからだと言われている。このアドラー王国が攻撃されるかもしれないという事だな」
「そんな……」
私が小さく呟くと、木槌で机を叩く音がした。ループレヒト陛下が、凛とした声で言う。
「両者とも落ち着いて下さい。魔石の件については、アドラー王国からノースアイランドへの輸出も考えております。……しかし、つい最近まで我が国の鉱山に瘴気が蔓延していた為、十分な量の魔石を採掘出来るかどうか……。エルヴィン、お前は鉱山の様子について詳しかったな。最近の鉱山の様子はどうだ?」
話を振られたエルヴィン殿下は、立ち上がって答えた。
「はい、ここにいる聖女マシロの協力もあり、瘴気をまき散らす魔物を退治する事が出来ました。徐々に鉱山で働いても良いという人材も集まるでしょう。ノースアイランドに輸出する分の魔石も確保出来るかと」
「そうか。では、輸出する方向で話を進めよう。……マシロ様、瘴気を浄化して下さり、ありがとうございます」
不意に陛下から礼を言われた私は、あたふたとしながら返事をする。
「い、いえ。もったいないお言葉です……」
そう言いながらも、私の心臓は良い意味でバクバクしていた。瘴気の浄化が、私の仕事が、国と国とを繋ぐ架け橋になれるかもしれないんだ。
これからも頑張って聖女としての職務を全うしよう。
私がそう決意した時、いきなり広間に大きな音が響いた。上を見上げると、窓に嵌っていたステンドグラスが砕け、欠片がこちらに降ってくる。
あ、まずい。私は、スローモーションのように降ってくる欠片を見つめた。
「危ない、マシロ!!」
そんな声が聞こえたかと思うと、私は椅子から転げ落ちていた。エルヴィン殿下が私に覆い被さってきた拍子に、椅子ごと倒れてしまったのだ。
「……っ……!!」
エルヴィン殿下が顔を顰める。よく見ると、殿下の首筋には軽い切り傷が付いていた。
「殿下! 怪我を!!」
私が叫ぶと、エルヴィン殿下は笑って言った。
「なに、大した怪我じゃない。お前の方こそ怪我は無いか?」
「はい、私は大丈夫です! すぐに治療しますね!」
そう言うと、私はエルヴィン殿下の首筋に手を当てた。すると、傷跡がほんの少し残るくらいまで傷が治っていく。
「……驚いたな。お前に癒しの力があるなんて」
目を見開いてそう言う殿下に、私は笑って答えた。
「訓練しましたから」
そう。私はツェーザルさんを治療して以来、浄化だけではなく癒しの力も使えないかとコリンナさんやヘルムートさんに相談していた。
そして、二人の元で訓練をした結果、ある程度の治療なら出来るようになったのだ。
「……ハハッ、お前は本当に、凄い女だな」
エルヴィン殿下が私に笑いかける。私は急に、この状況が恥ずかしくなった。だって、エルヴィン殿下が私に覆い被さったままだから、殿下の顔が私のすぐ側にあって……。
「……あの、殿下。もうガラスの欠片は大丈夫だと思うので、どいて頂けると……」
「あ、ああ、済まない!」
エルヴィン殿下は、珍しくアワアワした様子を見せると、私から離れて私に手を差し出した。
私はエルヴィン殿下の手を借りて立ち上がると、壊れた窓を見上げる。
「でも、どうして突然ガラスが割れたんで……」
私は最後まで言葉を続ける事が出来なかった。窓から、途轍もない量の瘴気が流れ込んで来たのだ。しかも、色が濃い。
「ちょっと、あの瘴気、何なの!? 量が多い上に色が濃いわよ!!」
コリンナさんが叫ぶ。そうか。コリンナさんは飲まされた薬の効果が切れて、瘴気が見えるようになったんだ!
「おい、誰か護衛騎士団を呼んで来い! ……皆さん、落ち着いて避難して下さい!」
エルヴィン殿下は文官に指示を出した後避難誘導を始める。私も避難誘導を手伝った方が良いのだろうか。
そんな事を考えていると、窓の外に暗い影が見えた。私とエルヴィン殿下は、同時に空を見上げる。
次の瞬間、ガラガラと音を立てて天井の一部が崩れた。まるで、巨人が天井を殴りつけたかのよう。そして、天井が崩れたおかげで影の主が分かった。
人間の何倍もあるトカゲのような身体。赤い皮膚と翼。口から覗く牙。エルヴィン殿下は、これ以上ないくらい目を見開いて言った。
「ドラゴン……だと……!?」
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