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再びの連行

魔物の件が解決したと思ったら……。

 その日、私とエルヴィン殿下はヘレナさんの家に泊めてもらった。夜になり、私はヘレナさんの部屋で彼女と同じベッドに寝転がっている。


「へー、ヘレナさん、本を読むのが好きなんですね」

「そうなんです。特に恋愛小説を読むのが好きで……」


 そんな他愛ない話をしていたけれど、不意にヘレナさんが昔を懐かしむように目を細めた。


「……本は高価でしたから、昔は中々買えなかったんですよ。私は幸いにも、授業料免除の手習い所で読み書きを習う事が出来たんですけど、余計に本を読みたい欲求が強くて……」



 ヘレナさんが九歳の時、彼女は知人の家で見た本がどうしても読みたくなった。でも、その知人は「子供に本を貸すと汚れて返って来るかもしれない」という理由で貸す事に難色を示した。


 知人の言い分も分かる為、ヘレナさんはその本を読むのを諦めた。でもある日の夜、リビングにいた両親がおずおずとヘレナさんに何枚かの紙を差し出した。

 そこに書かれている内容を見て、ヘレナさんは目を丸くする。ヘレナさんが読みたいと思っていた本の内容を書き写したものだった。


 ヘレナさんに本を読ませてあげたいと思ったご両親は、知人に頼み込んで、知人の家で本を書き写させてもらっていたのだ。

 書き写す紙を用意するのも大変だっただろうけれど、これまた知り合いの勤める印刷所に頼んで、質の悪い紙を格安で譲り受けていた。


 パン屋の経営で忙しい中、ヘレナさんのご両親は時間を作っては本を書き写していた。全てはヘレナさんの為。

「第一章までしか書き写せなかったわ。ごめんね」などと言う両親を見て、ヘレナさんは涙ぐみながら答えた。


「ううん。とっても嬉しい! お父さん、お母さん、ありがとう!」




「へえ……素敵なご両親ですね」


 私が言うと、ヘレナさんは穏やかな笑顔で答えた。


「はい、ちょっと努力の方向が違う気もしますけどね。……だから、私は絶対両親を助けたかったんです。……マシロ様。今回は、本当に、ありがとうございました」

「お礼なんていいんですよ。……本当に、ヘレナさんのご家族を救えて良かった」


 私は、フワリと笑ってヘレナさんの手を握った。


       ◆ ◆ ◆


 翌朝、私とエルヴィン殿下は馬車で城へと向かった。ヘレナさんは、あと数日実家で過ごすらしい。

 馬車の中で、私は呟く。


「……私の身代わりになったメヒティルトさんは大丈夫でしょうか。入れ替わりがバレない内に早城に戻らないと」

「お前、本当に他人の事ばかり心配してるな。……まあ、俺はお前のそんな所が……いや、何でもない」


 エルヴィン殿下がよく分からない事を言っていたけれど、特にトラブルも無く馬車は城へと到着した。



 城の裏にある門から中に入ると、私達は塔へと向かう。そして塔の前まで来た時、私とエルヴィン殿下は足を止めた。塔の入り口の前で、何人もの騎士が慌ただしく動き回っている。


 私の心臓は、バクバクと嫌な音を立てた。……まさか、入れ替わりがバレた?


 すると、騎士の中の一人が私達の存在に気付き、こちらに駆け寄って来た。ベンヤミンさんだ。

 ベンヤミンさんは、エルヴィン殿下に真剣な表情で告げる。


「殿下、大変です! マシロ様が塔から脱走……って、マシロ様!?」


 ベンヤミンさんは、三つ編みメイドに変装した私を見て声を上げる。さすがにこの人にはバレたか。

 ベンヤミンさんの声を聞いた騎士達がこちらに集まって来る。ベンヤミンさんは、申し訳なさそうにして私に告げた。


「あの、マシロ様……。大声を出してすみません。あなたはこれから、塔を脱走した罪で、王宮裁判にかけられます」


 王宮裁判。それは、貴族など特別な立場の者が被疑者となった際に行われる裁判だ。王宮裁判には、司法の専門家だけではなく王族も出廷する。


「……っ、おい、ベンヤミン! マシロはコリンナさんを毒殺しようとなどしていないし、今回脱走したのも人助けの為だ! 王宮裁判などしたらマシロの評判に傷が……!!」


 ベンヤミンさんに食って掛かりそうなエルヴィン殿下の腕を、私は無言で掴んだ。


「マシロ……?」


 私の方を振り向く殿下にニコリと笑いかけた後、私はベンヤミンさんの方を真っ直ぐと見て言った。


「ベンヤミンさん。私は、王宮裁判でも何でも受けます。……でも、私の身代わりとなったメヒティルトさんの事を罰しないよう取り計らって頂けないでしょうか?」


 ベンヤミンさんは、目を見開いて私を見た後、真剣な表情で答えた。


「承知致しました。俺の力でどこまで出来るか分かりませんが、メヒティルトさんの罪を問わないよう働きかけましょう」

 エルヴィン殿下も、溜め息を吐いた後口を開いた。

「マシロ……本当にお前は……。まあいい。俺も、メヒティルト殿については口添えをするつもりだ。お前は、自分の心配だけしていろ」

「はい、ありがとうございます、エルヴィン殿下」


 私は、二人に向けて穏やかな笑みを浮かべた。


 話が途切れたのを合図に、騎士達が私を塔の中に連行していく。


 王宮裁判は、二日後に行われるらしい。正直、自分がどうなるのか不安だ。それでも、この国の浄化を任された聖女として、私は胸を張って塔への道を歩いた。

王宮裁判はどうなるのか!?

次回も読んで頂けると嬉しいです!

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