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投獄

束の間の平和がやってきたと思ったら、大事件が……!!

 教会でツェーザルさんのお姉さんと出会った数日後の朝。私は、自室の窓から城の庭を眺めていた。

 庭では、エルヴィン殿下が剣の素振りをしている。腕の振り方や足の踏み出し方。その全てに私は見とれていた。


 ……やっぱり、私はエルヴィン殿下の事が好きだなあ。まあ、今は恋愛がどうのこうのと言ってる場合じゃ無いけど。なにせ、隣国が聖女である私を排除しようとしているのだ。場合によっては命ごと。


 でも、私は死ぬつもりは無い。コリンナさんとヘルムートさんにある頼み事をしているし。その頼み事が上手くいけば、もっとエルヴィン殿下の役に立てるかもしれない。


 私は、気を取り直して窓から離れると、大きな鏡台の前に立った。今私は、外出用の赤いワンピースを着ている。今日、私はメイドのヘルマさんと一緒に街に買い物に行く予定なのだ。


 この国に来てから、私は自由に買い物をした事がない。聖女として働いた報酬としてお小遣いはたっぷり貰っているし、楽しみだ。

 ちなみに、今日行く予定の街には、ヘルマさんの実家もある。



 私がニマニマしながら身だしなみのチェックをしていると、不意に部屋のドアがノックされた。

 部屋に入って来たのは、数人の騎士。皆濃い緑色の軍服を着ている。ほとんどが見た事の無い顔だったけれど、一人だけ見知った顔があった。護衛騎士のアルヌルフさんだ。


 アルヌルフさんは、一歩前に出ると、険しい顔で私に告げる。


「聖女マシロ様。あなたを――補佐役コリンナ殿を毒殺しようとした罪で投獄致します」

「……へ?」


 私は、思わず変な声を出した。毒殺? コリンナさんを? どういう事?

 アルヌルフさんは、眉根を寄せたまま経緯を説明してくれた。




 話によると、今朝早くコリンナさんは図書室を訪れていたらしい。妃教育の一環で調べ物があったとの事。


 そして、コリンナさんは図書室で小瓶に入った栄養ドリンクを飲んでいた。図書室を管理する文官は、本にドリンクを零さないか心配してコリンナさんに声を掛ける。


 でも、コリンナさんは栄養ドリンクを飲むのを辞めなかった。コリンナさん曰く、「いいじゃない。最近は妃教育が忙しくて、マシロのサポート役もセーブしてるくらいなんだから」との事。


 文官が溜息を吐いた次の瞬間。突然コリンナさんが苦しみ出してガタンと椅子から崩れ落ちた。文官は慌てて同僚を呼び、コリンナさんを医務室に運ぶ。


 コリンナさんは意識を失っていたけれど、宮廷医師によると命に別状は無いとの事。医師がコリンナさんを診察すると、なんと彼女は毒を飲まされていたらしい。

 さらに調べると、毒が入っていたのは図書館で飲んでいたドリンク。


 誰がドリンクに毒を入れたのか。それを探るべく、騎士達はコリンナさんの部屋を調べたり聞き込みをしたらしい。

 すると、コリンナさんの自室の机にメッセージカードが置かれている事が判明。そのメッセージカードには、次のような事が書いてあった。


『このドリンクには体力を回復させる作用があります。これを飲んで妃教育を頑張って下さい マシロ』




「ち、ちょっと待って下さい! 何ですかそのメッセージカードって! 私、そんなものコリンナさんに送ってませんよ!?」


 私は、ついアルヌルフさんの説明を遮ってしまう。アルヌルフさんは、難しい顔をして答えた。


「机にあったメッセージカードを見て、大抵の騎士がこう考えました。聖女マシロ様が、コリンナ殿の部屋の前にでもドリンクを置いたのだろう。コリンナ殿を応援する振りをしたメッセージカードを添えて。そして、素直にドリンクを飲んだコリンナ殿が倒れた」

「そ、それって、まるで私がコリンナさんを毒殺しようとしたみたいじゃないですか!」

「ええ、だから言ったでしょう。あなたを投獄すると」

「わ、私は犯人じゃありません!」


 コリンナさんは、気分屋で、私にキツく当たった事もあって、決して完璧な人間では無い。

 でも、あの人は決して人を裏切らない。孤児院の子供達の事も大切に思っていた。そんな人を毒殺するだなんて、するわけが無い。


「そ、そうだ、筆跡は? メッセージカードの筆跡が私と違うものだったら、メッセージを書いたのが私じゃないって証明できますよね?」


 私の言葉を聞いたアルヌルフさんが、ゆるゆると首を振った。


「それが、メッセージカードはわざと字を崩して書かれていて、筆跡が分からないのですよ」

「そんなあ……。あ、じゃあ、動機はどうです? 私にコリンナさんを殺害する動機は無いですよ?」


 アルヌルフさんは、また残念そうな顔で首を横に振る。


「コリンナ殿は、先日孤児院で完全な浄化を成し遂げたとの事。コリンナ殿がまた正式な聖女に返り咲く可能性もあります。そうなると、マシロ様の立場が危うくなる。それでコリンナ殿を殺害しようとしたのではないかと……」

「そんな理由でコリンナさんの命を奪いませんよ……」


 私は、ガックリと肩を落とした。そう。私は、日本に帰りたいのだ。アドラー王国での聖女の地位などどうでも良い。


 ……まあ、日本に帰るとなれば、エルヴィン殿下とも離れ離れになる。それはちょっと……いや大分寂しいけれど。


「……マシロ様。私は、マシロ様が犯人だとは思っておりません。しかし、マシロ様の人柄を知らない貴族の中には、マシロ様を犯人だと決めつけている者も複数おります。そういったれんちゅ……方々が、マシロ様を直接攻撃するかもしれません。ですから、保護という意味でも、どうか牢に入って頂けないでしょうか」


 成程。私が牢の中にいれば、貴族も私に手出し出来ないというわけか。

 私は、溜め息を吐くと、困った顔のアルヌルフさんに言った。


「……分かりました。牢に入りましょう。でも、私は無実の罪を着せられるのはごめんです。申し訳ありませんが、引き続きコリンナさんの事件について調査して頂けますか?」


 私が問い掛けると、アルヌルフさんは真剣な顔で答えてくれた。


「もちろんです、マシロ様! あなたの無実を証明出来るよう全力を尽くします!」

果たしてマシロは無実を証明する事が出来るのか!?

次回も読んで頂けると嬉しいです!

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