教会
教会でマシロ達を待ち受けていたのは……。
夜会の事件から四日後。私、エルヴィン殿下、護衛騎士のアルヌルフさんとディートマーさんの四人は、朝から馬車に揺られていた。ツェーザルさんのお姉様がいると言われている教会に向かっているのだ。
「……あの、今更ながら、なんで俺まで教会に行く事になったんでしょう。ツェーザルの姉の安否確認と聖女様の護衛だけなら、俺はいらないような気がするんですが……」
おずおずとディートマーさんが尋ねる。アルヌルフさんは、ハハハと笑って口を出した。
「エルヴィン殿下は、随分とマシロ様の事を気に入っているようだからな! 護衛は多い方が良いと思ったんだろう!」
「アルヌルフ……勘弁してくれ……」
エルヴィン殿下が、額に右手を当てて呟く。私は、右隣に座ったエルヴィン殿下をチラリと見た。殿下の顔は、少し赤くなっているようだ。
私は、先日殿下に後ろから抱き締められた時の事を思い出した。私の顔も多分赤くなったけれど、ブンブンと首を横に振る。
あれは、ほら、そう。外国の人が、よく挨拶でハグをするじゃない。それと同じようなものなんだ、きっと。
「お前を失いたくない」とも言われたけど、きっと、聖女の力を持つ私を失いたくないという意味だ。恋愛感情からくる言葉では無い。
期待したら駄目だ。エルヴィン殿下が私を好きになってくれるはずが無いんだから。そうだ。久しぶりにBLの妄想をしよう。
アルヌルフさんとディートマーさんのカップルなんてどうだろう。意外と、ディートマーさんの方が攻めというのも良さそうだ。
そんな事を考えている内に、馬車は教会へと到着した。
私は、門の前に立つと教会を見上げた。田園風景に映える白い教会。屋根の尖ったその小さな教会は、まるで絵画のようで、私は少しの間見とれてしまった。
私達が礼拝堂に入ると、黒い修道服を着た六十代くらいの修道女が近付いて来た。
「エルヴィン殿下、聖女様、それと騎士の方々でいらっしゃいますね? 私、この教会の側にあります修道院で院長を務めております、ヨゼフィーネと申します。ご用件は、お手紙を頂いたので存じております。メヒティルトに御用でしたね。こちらにどうぞ」
ヨゼフィーネさんが、私達に背中を向けて歩き出す。厳格そうな方だな。
メヒティルトというのは、ツェーザルさんのお姉さんの名前だ。私達は、礼拝堂にいる信者達をチラリと見ながらヨゼフィーネさんの後を付いて行った。
私達が狭い応接室のような部屋に入ると、木製の椅子に座っていた修道女がこちらを振り向く。
その修道女は、黄色い瞳をした美しい女性だった。年齢は二十代後半くらいだろうか。ベールから覗いた前髪は藍色で、ツェーザルさんとそっくりだった。
その女性は、立ち上がると私達に向かって深々と頭絵を下げた。
「お初にお目にかかります、エルヴィン殿下、聖女様。私、ツェーザルの姉のメヒティルトと申します。この度は、弟がとんでもない事をしでかし、申し訳ございません。弟に代わり、謹んでお詫び申し上げます」
メヒティルトさんには、手紙で大体の事情を伝えてある。ツェーザルさんがスパイをしていたと知って、彼女は一体どんな気持ちだったのだろう……。
「頭を上げてくれ、メヒティルト殿。あなたは何も知らなかったんだ。実際、危険を感じる事も無かったんだろう?」
メヒティルトさんは、頷いて答えた。
「はい。私は約一年前からこの教会のお世話になっておりますが、重い病気になった事も誰かに傷付けられそうになった事もございません」
それを聞いて、私はホッとした。ツェーザルさんは、本当にお姉さんを大切にしていたと聞いていたから。
「……あの、私からも質問して宜しいでしょうか?」
メヒティルトさんがおずおずと申し出る。エルヴィン殿下は、無表情のまま「どうぞ」と促した。
「手紙には、弟が呪いにかけられていると書かれてありました。弟の命は、大丈夫なのでしょうか……?」
それに答えたのはアルヌルフさんだ。
「ここにいる聖女様のおかげで、ツェーザルの命は助かりました。今は、魔術師や聖女補佐役のコリンナ様が呪いを解く為に手を尽くしている所です」
「そうですか……」
メヒティルトさんは、ほっと息を吐いた。そして、私の方を向いてまた頭を下げる。
「聖女様、弟を助けて下さり、ありがとうございます。弟は、私の私にとってかけがえの無い存在なのです」
話を聞くと、メヒティルトさん姉弟は貧しい男爵家で育ったらしい。農作物がよく採れる地域であるはずなのに何故貧乏なのかと言うと、ハッキリ言って、二人のご両親に領地経営の才能が無かったからだ。
名前を聞いた事も無い商会と取引をして大損をしたり、ほとんどの人が使わないような公共施設を建設したりして無駄な出費をしていたらしい。
それだけではなく、損失の穴を埋めようとギャンブルをして負けたり、領民から多額の税金を毟り取ったりしていたらしい。
メヒティルトさんやツェーザルさんが何度諫めても、両親の態度は変わらなかった。それで貴族そのものに嫌気が差したメヒティルトさんは、修道女になって俗世間を離れる事にしたらしい。
「……弟は、国家反逆罪で処刑されてもおかしくない事をしでかしました。でも、それでもっ……出来る事なら、弟の命を助けて下さい! お願いします……!!」
メヒティルトさんは、ボロボロと涙を流しながら頭を下げた。エルヴィン殿下は、目を伏せて言う。
「こればかりは、父上や議会の判断になるから何とも言えないが……ツェーザルが処刑を免れるよう尽力しよう」
「ありがとうございます、ありがとうございます……!!」
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