脅迫
目が覚めたマシロは……。
目が覚めると、私は城にある自室のベッドに横たわっていた。窓からは陽が差し込んでいる。もう朝なのかな。
私が上半身を起こすと、掃除をしていたらしいメイドのヘルマさんがこちらに駆け寄って来た。
「ああ、マシロ様。目が覚めたのですね! 良かったです!」
ヘルマさんの目は、少し潤んでいた。本当に私の事を心配してくれてたんだなあ……。
「心配かけてごめんなさい。ありがとう、ヘルマさん」
私が微笑むと、ヘルマさんは涙を拭って言った。
「そうだ、すぐにエルヴィン殿下を呼びましょう。あの方もマシロ様の事を随分と心配なさっておりましたから」
「エルヴィン殿下が……」
殿下も、私の事を心配してくれたんだ。申し訳ないけれど、少し嬉しい。
「では、私は執事に頼んで殿下を呼んで来てもらいますね」
そう言って、ヘルマさんはバタバタと部屋を出て行った。
それからしばらくして、私の部屋には私とエルヴィン殿下の二人だけがいた。二人の仲を疑われないように、ドアは少し開けてある。
「マシロ、無事で良かった。お前が気を失った時は、お前も瘴気にやられたのかと思ったぞ」
木製の椅子に座ったエルヴィン殿下が穏やかに笑って言う。
「ご心配かけて申し訳ございませんでした、エルヴィン殿下。もう大丈夫です」
殿下の向かいの椅子に腰かけた私は、頭を下げて答えた。
「いや、いい。お前はツェーザルを助けたい一心だったのだろう」
そう言った後、エルヴィン殿下は騒動の顛末を教えてくれた。
私が気を失った後、ツェーザルさんはすぐに回復し、歩いて牢獄へと連行されたとの事。そして、彼は取り調べを行った騎士達に、アドラー王国を裏切る事になった経緯を話した。
それによると、半年程前、騎士団の寮にツェーザルさん宛の匿名の手紙が届いたらしい。その手紙には、聖女による浄化の邪魔をしろと書かれていた。
そして同封されていたのは、薬包紙に包まれた白い粉薬。その薬には、聖女の力をコントロール出来なくする効果があるらしい。
「待って下さい! それじゃあ、コリンナさんが最近瘴気を完全に浄化出来なかったのって……!!」
私が口を挟むと、エルヴィン殿下は頷いて答えた。
「ああ、ツェーザルは、コリンナさんの浄化に護衛騎士として同行する度に、その粉薬を彼女に飲ませていたらしい。分からないように飲み物に混ぜてな」
それじゃあ、孤児院でコリンナさんが浄化出来たのは、たまたま薬の効き目が切れていたから……?
考え込む私を見ながら、エルヴィン殿下は説明を続けた。
最初ツェーザルさんは、手紙の要求を突っぱねようとした。でもやがて、彼の故郷にいる家族の様子が細かく書かれた手紙がツェーザルさんの元に届くようになる。
まるで、「お前の家族の居場所は分かっている。指示に従わなければどうなるか分かってるな?」と言わんばかりに。
それでツェーザルさんは、苦渋の決断で、手紙の指示に従うようになった。
「あの、ツェーザルさんのご家族は無事なんでしょうか!?」
私が尋ねると、エルヴィン殿下は目を伏せて答える。
「ツェーザルには両親と姉がいる。両親の無事は確認できたが、あいつの姉の無事がまだ確認出来ていない。王都の外れにある教会で修道女として生活しているらしい事は分かったから、今度そこを訪ねてみようと思う」
「そうですか……」
私はふと疑問に思って言う。
「あの、ツェーザルさんが私を攫ったのも、手紙で指示された事なのでしょうか」
「ああ。どうやら手紙の主は、このアドラー王国が瘴気で満たされる事を望んでいるらしい。マシロをアダーシェク帝国に連れて行く事が出来ないのなら、マシロを始末するようツェーザルに指示していたようだ。二度とマシロがアドラー王国で浄化出来ないように」
「そんな……」
一歩間違えたら死んでいたかもしれないと思うと、ゾッとした。
私は、気を取り直して質問する。
「でも、誰がそんな事をツェーザルさんに指示したんでしょう?」
すると、エルヴィン殿下は首を横に振って言った。
「分からない。ツェーザルは手紙を通じて主が誰か分かったらしいんだが、あいつには呪いが掛けられていてな。手紙の主の正体を言おうとしたり書こうとしたりすれば、瘴気が身体を蝕むようになっているんだ」
それでツェーザルさんの嘔吐物から瘴気が立ち上っていたのか……。
「ツェーザルを脅した犯人についてはおいおい調べて行くとして、まずはあいつの姉の安否を確認しないとな」
「あの、エルヴィン殿下! 私も、ツェーザルさんのお姉さんがいるらしい教会に行って良いですか? 気になるんです!」
「駄目だ」
エルヴィン殿下は、即座に私の申し出を却下する。私は、椅子から立ち上がって声を上げる。
「どうして駄目なんですか!? 私は、襲われた当事者なんですよ! 状況を知る権利があります!」
エルヴィン殿下は、ジッと私を見た後、立ち上がって私の方に近付く。そして、私を後ろから抱き締めた。
「エ、エルヴィン殿下!?」
私が戸惑いながら声を掛けると、殿下は苦しげな声で言った。
「……お前がツェーザルに刺されそうになった時、本当に怖かった。心臓が止まるかと思った。俺は、お前を失いたくない。危険な目に遭わせたくない。……だから、大人しくしていてくれないか。手紙の主が、教会に現れる可能性もゼロじゃない。お前が行くと、お前がまた危ない目に遭うかもしれない」
……ああ、この人は、本当に私の事を心配してくれてるんだ。私は、振り向くと微笑んでエルヴィン殿下に言った。
「エルヴィン殿下。心配して下さってありがとうございます。でも、教会に行かせて下さい。手紙の主がツェーザルさんのお姉さんの居場所を知っているのなら、彼女も瘴気に蝕まれる呪いにかかっているかもしれません。瘴気を浄化できるのは私かコリンナさんだけ。コリンナさんは妃教育もあるし、まだ身体に薬が残っているかもしれません。だから、私に行かせて下さい」
エルヴィン殿下は、難しい顔をして考えた後、溜め息を吐いて答えた。
「……分かった。一緒に教会に行こう。ただし、くれぐれも無茶はするなよ?」
「はい、ありがとうございます!」
私は、力強い声でそう言った。
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