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治癒

エルヴィンはマシロを助ける事が出来るのか……!?

「どうしてこの場所が……!?」


 疑問を口にするツェーザルさんに、エルヴィン殿下は不敵な笑みで答える。


「ディートマーの能力を忘れたか。あいつは土に残された『記憶』を読み取る事が出来る。あいつが城の裏口に残されていた足跡から土の『記憶』を読み取り、ここに辿り着いたというわけだ」

「そうか、あいつが……!!」


 ツェーザルさんは、唇を噛み締めた後、いきなり私を床に投げ落とした。


「キャッ!!」

「マシロ!!」


 エルヴィン殿下はこちらに駆け寄ろうとしたけれど、ツェーザルさんが呪文を唱えた事によってそれは阻まれてしまった。私とエルヴィン殿下の間に水の壁が現れたのだ。


「ツェーザル! マシロを連れ去った理由は分からないが、大人しく連行されろ! これ以上どうする気だ!?」


 エルヴィン殿下が叫ぶと、ツェーザルさんはフッと笑った。そして、私の上に馬乗りになると、懐から剣を抜く。


「聖女様が帝国の手に入らないなら、いっその事……!!」


 そして、ツェーザルさんは剣を両手で構えると、それを真っ直ぐ私の胸に突き刺そうとした。


「やめろおおおおおお!!」


 エルヴィン殿下が叫び、剣を振るう。すると、殿下の剣から炎が飛び出し、水の壁をジュッと蒸発させた。

 間髪を入れずに殿下はこちらに駆け寄って来る。そして、素早くツェーザルさんの持っていた剣を弾き飛ばした。


「ぐっ……!!」


 剣を失ったツェーザルさんが、呻き声を上げてその場に蹲る。エルヴィン殿下は、ツェーザルさんの喉元に剣を突き付けて言った。


「もう終わりだ、ツェーザル」


 ツェーザルさんは、フッと笑うと手を挙げて降参のポーズをした。


「エルヴィン殿下は魔法が使えなかったはずでは?」


 ツェーザルさんが聞くと、エルヴィン殿下は自身の剣を見つめて答えた。


「俺自身も驚いている。マシロを助けたい一心でとにかく剣を振るっただけなんだがな」


 すると、ツェーザルさんは少し意地悪な笑みを浮かべて言った。


「もしかしたら、精神的なものが魔力の放出に影響したのかもしれませんね。殿下にとって、聖女マシロ様はそれ程大切な存在だったと……」

「それ以上言うなよ、ツェーザル」


 エルヴィン殿下は、眉根を寄せてツェーザルさんの言葉を止めた。そして、ツェーザルさんを縄で拘束し、連行しようとする。


「……エルヴィン殿下。連行される前に、お伝えしたい事がございます」


 歩き始めたツェーザルさんが、目を伏せがちにして言った。


「何だ? ツェーザル」

「……私は、アダーシェク帝国にマシロ様を渡そうとしていました。しかし、進んで帝国のスパイをしていたわけではありません。家族を人質に取られたのです。私にマシロ様の誘拐を指示したのは……かはっ……!!」


 ツェーザルさんが、急に嘔吐してその場に倒れ込んだ。


「ツェーザル!!」


 エルヴィン殿下がツェーザルさんの肩に手を添える。一体何が起こったの? 呆然とツェーザルさんを見つめていた私は、ハッとする。


「エルヴィン殿下! ツェーザルさんの嘔吐物から、瘴気が立ち上っています!」

「何だって!? マシロ、少しの間ツェーザルを見ていてくれ! 俺は医師を呼んでくる!」

「承知致しました!」



 エルヴィン殿下は、バタバタと部屋を出て行った。私は、苦しそうに仰向けで床に横たわるツェーザルさんを見つめる。


 確信があるわけじゃないけれど、家族を人質に取られたというツェーザルさんの言葉に嘘は無いように思えた。何故嘔吐物に瘴気が混じっていたのかは分からないけれど、ツェーザルさんの命が危ない。何とかして助けないと。


 でも、医者は間に合うの? 癒しの力を持つコリンナさんも今は城にいるだろうし……。


 やってみるしかない。……えっと、確か、気道を確保する為に身体は横向きにした方がいいんだっけ。

 私は、弱弱しく息をするツェーザルさんの身体を横向きにした。そして、彼の腕を両手で掴むと、心を込めて願った。


「お願い、治って……!!」


 部屋の中に沈黙が流れる。ツェーザルさんは、既に意識を失っていた。やっぱり私じゃ駄目か。私が溜息を吐いたその時、ツェーザルさんの身体が温かくなる感覚がした。


 よく見ると、嘔吐物から立ち上る瘴気もすっかり見えなくなっている。もしかしたら、イケるかもしれない。

 私は、ツェーザルさんの腕を掴んだまま叫ぶ。


「いっけええええええ!!」


 ツェーザルさんの口から漏れ出ていた瘴気の色が薄くなっていく。もう少しだ。力の使い過ぎなのか、頭がクラクラする。私まで倒れてしまいそう。でも、ここでやめる訳にはいかない!


「もう少し……もう少し、頑張ってえ、私の身体っ……!!」


 私は最後の力を振り絞る。既にぼんやりとした頭でツェーザルさんの口を見ると、もう瘴気は全く見えなくなっていた。


「う……」


 呻き声を上げて、ツェーザルさんが薄っすらと目を開ける。


「ツェーザルさん……良かった……!!」


 私がホッと一息吐いた時、ドアの向こうでバタバタと足音がした。


「済まない、マシロ! ツェーザルは無事か!?」


 勢い良くドアを開けて入って来たのはエルヴィン殿下。私は、力なく笑って殿下に答える。


「はい、大丈夫です。瘴気はもう見え、なく……」


 言い終わる前に、私はドサリと床に倒れた。やっぱり力を使い過ぎたのかもしれない。


「おい、マシロ、大丈夫か! マシロ!!」


 意識を失う直前、そんなエルヴィン殿下の声が聞こえた気がした。

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