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パニック

夜会に出席したマシロですが、トラブルが……。

 それからすぐ国王夫妻はその場を離れ、しばらくすると会場に音楽が流れ始めた。ダンスの時間になったんだ。

 皆、パートナーと一緒に広間で踊り始める。ダンスなんて出来ない私は、戸惑いながら辺りを見回した。

 すると、エルヴィン殿下が声を掛けて来る。


「マシロ、俺と一緒に踊るか?」

「え!? でも、私はダンスなんて出来ませんし……」


 私が慌てて手を振ると、エルヴィン殿下は笑って言った。


「大丈夫だ、マシロ。あれを見ろ」


 エルヴィン殿下が手で指し示した先にいたのは、ダンスをするディルク殿下とコリンナさん。コリンナさんのステップは……何と言うか、素人の私から見ても、上手くなかった。

 コリンナさん、ダンスとか上手そうなイメージなのに……。


「コリンナさんはあんな感じだけど、楽しそうだろ? お前も楽しめば良いんだよ。大丈夫。こう見えても俺は王族だから、ダンスは習ってるんだ。俺がリードする」


 私は、少し考えた後微笑んで答えた。


「それでは、宜しくお願いします、エルヴィン殿下」


 ダンスが始まると、思ったよりリズムに乗って動く事が出来た。エルヴィン殿下のリードのおかげだろう。

 私は、優しい笑顔で私をリードするエルヴィン殿下の顔をチラリと見る。私を見つめるその赤い瞳に吸い込まれそう。


 こんな時間が、ずっと続けばいいのに。


 そんな事を思っていると、不意にエルヴィン殿下が私の耳元で囁く。


「マシロ、そのドレス、良く似合ってる」

「あ、ありがとうございます」


 私は、恐らく真っ赤になっているだろう顔を背けて答えた。今私は、シンプルなデザインの白いドレスに身を包んでいる。


 コリンナさんが「清らかな聖女にピッタリでしょ?」と言いながら選んでくれた。コリンナさんは、本当は私に赤いドレスを着せたかったみたいだけど、どうして赤いドレスを着せたかったのかは分からない。


 髪の毛は、メイドのヘルマさんが綺麗に編み込んでくれた。エルヴィン殿下に可愛いと思ってもらえたら嬉しい。


 そうだ。私も殿下に言わないと。私は、エルヴィン殿下の着ている黒い燕尾服をチラリと見てから、真っ直ぐ殿下を見て微笑んだ。


「あの、エルヴィン殿下の正装も、よく似合っています」


 エルヴィン殿下は、一瞬目を見開いた後、フッと笑って答えた。


「ありがとう、マシロ」


 ダンスの時間が終わり、私達は立食形式の食事を楽しむ。しっかり焼かれた肉料理も、チーズをベースにしたソースがかかったサラダもとても美味しかった。


 そうだ、今日は挨拶回りに忙しくて、まだディルク殿下とコリンナさんに挨拶出来てなかったな。今なら挨拶出来るかな。


 そう思って辺りを見渡した私は、固まった。――紫色の靄が見えたのだ。

 靄は、食事が並ぶテーブルの隅に置いてあるキャンドルから立ち上っている。


「殿下! 瘴気が見えます! あのキャンドルから靄が……!!」

「何だって!?」


 エルヴィン殿下は目を見開いてキャンドルを見た後、落ち着いた様子でテーブルの隅に近付く。そして、近くにいた客達に穏やかな笑顔で言った。


「失礼。このキャンドル、形が崩れていますね。他のキャンドルと交換させましょう」


 そう言ってさりげなくキャンドルを回収する。パニックを回避する為だろう。いくら貴族に軽い瘴気への免疫があると言っても、瘴気が漂っているとなると客達は不安になるに違いない。


 このままキャンドルを回収すれば何事もなく夜会を終える事が出来るだろう。そう思っていた私の耳に一人の客の大声が届く。


「おい、そのキャンドルから瘴気が出ているようだぞ!」


 それを聞いた客達は、たちまちパニックになる。エルヴィン殿下は、張りのある声で言う。


「落ち着いて下さい! まだ大した量の瘴気は漂っていません! キャンドルは回収したので、落ち着いて!」


 それでも、客達のパニックは治まらない。


「そこをどけ! 瘴気の漂う部屋になんていられるか!!」

「ちょっと、私が先よ! 私は身体が弱いんだから!!」


 そんな声が聞こえ、ドア付近に客達が殺到する。そうなるともう、王族だの何だの言ってられないのだろう。私とエルヴィン殿下の方にも客が押し寄せ、私と殿下はおしくらまんじゅうのようにギュウギュウと潰される。


「マシロっ……!!」

「殿下……あっ!!」


 私は人の波に吞まれて、エルヴィン殿下とどんどん離されていく。護衛騎士の人達も対応に追われていて、こちらに近付く事が出来ない。


 気が付くと、私の身体は広間から出ていた。何とか人の波から抜け出した私だけど、しばらくはエルヴィン殿下と合流できそうにない。

 しばらく城の自室に戻ってパニックが治まるのを待つか……。


 そう思い、私は城の廊下を歩き始めた。さすがに王族のプライベートな空間にはパニックの波は無く、私は人気の無い廊下を一人歩いて行く。


 ふと、後ろに妙な気配を感じた。……誰かが私を尾けている?

 私は、廊下の角を曲がると猛スピードで駆け出した。私の部屋には鍵がかかる。逃げ込みさえすれば何とかなる。


 そしてもうすぐ自室に到着するという時、私は何者かに後ろから羽交い絞めにされた。


「あっ……!!」


 私が声を漏らした瞬間、私の口にハンカチが当てられる。

 ツンとする匂い。誰か、誰か助けて……。気を失う直前、私の脳裏にはエルヴィン殿下の顔が浮かんだ。


これからマシロはどうなる!?

次回も読んで頂けると嬉しいです!!

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