厄介な恋
孤児院のトラブルが解決して……。
それからしばらくして、私、エルヴィン殿下、コリンナさんは、孤児院の門の側にいた。既に夕日が孤児院を照らしている。
あれから町医者を呼んだり蜂を片付けたりで大変だったけれど、どうにか事態が落ち着き、私達は帰る事になったのだ。
見送りの為に門まで出て来ていたカテリーナさんが、頭を下げて言う。
「聖女様、エルヴィン殿下、コリンナ。今日は、本当にありがとうございました」
私は、手を振って答える。
「あの、私は何もしてませんから。今回瘴気を浄化したのは、コリンナさんですし」
「それでも、お礼を言わせて下さい。聖女様はコリンナを勇気付けて下さったと聞きました。……コリンナ、良い友人を持ったわね」
コリンナさんは、私の方をチラリと見ると、目を逸らしながら言った。
「……そうね。友達だと思ってあげても良いわ」
友達。そうか、私はこの世界に来て初めて、友達が出来たんだ。私は、何だか心が温かくなるのを感じた。
「コリンナお姉ちゃーん!!」
遠くから声が聞こえる。見ると、ヴィリーがこちらに駆け寄って来るところだった。
ヴィリーは、コリンナさんの側に来ると、息を切らしながら言った。
「コリンナお姉ちゃん、今日はありがとう! やっぱりお姉ちゃんは、立派な聖女なんだね!」
それを聞いたコリンナさんは、大きく目を見開いた後、優しい笑顔でヴィリーに答えた。
「ありがとう、ヴィリー。私、これからも素敵な聖女になれるように頑張るわね」
こうして、私達は孤児院を後にした。馬車の中で、私はチラリとコリンナさんの方を見る。馬車の隙間から射す夕日が、優しい笑みを浮かべるコリンナさんを照らしていた。
◆ ◆ ◆
孤児院の瘴気が浄化された翌日の夜。エルヴィンの執務室を、魔術師のヘルムートが訪れていた。
「それで殿下。今回はどういった御用ですかな?」
ソファーに腰掛けたヘルムートが、白い髭を撫でながら尋ねる。向かいのソファーに座ったエルヴィンは、真っ直ぐとヘルムートを見て言った。
「ヘルムート、単刀直入に聞く。コリンナさんは、完璧に瘴気を浄化出来るようになると思うか?」
「ふむ……コリンナさんには、病人を治療した実績がありますからな。実際、何回かは完全な浄化に成功しておりますし。可能性はあるでしょう。しかし、何故今になってその話を?」
エルヴィンは、目を伏せがちにして答える。
「……コリンナさんが完璧に浄化を出来るようになれば、マシロが元の世界に帰る事が出来るかもしれない」
「ほう」
「マシロには、元の世界でマシロを待っている家族や友人……もしかしたら、恋人もいるかもしれない。マシロを、元の世界に返してやりたいんだ」
「……そうですな。コリンナさんが完璧に浄化できる保証があれば、魔物の絶滅を待たずに、マシロ様を元の世界にお返ししても良いかもしれませんな」
ヘルムートは、紅茶を一口飲むとまた髭を撫でて言った。
「……それにしても、不思議ですなあ」
「何がだ?」
エルヴィンが問い掛けると、ヘルムートは宙に視線を彷徨わせながら答える。
「コリンナさんが最初に聖女として王城にいらした時に、私は彼女の力を見せて頂きました。彼女の癒しの力や浄化の力はとても強く、しかも安定している模様。それが、一か月程前から急に完全な浄化が出来なくなった。これは、魔法学の観点から見て大変不自然です」
エルヴィンは、目を見開いて言った。
「……まさか、誰かが故意に聖女による浄化を邪魔しているとでも?」
ヘルムートは、目を伏せながら答える。
「分かりません。私も、このような事例を見るのは初めてですからな。しかし、今後マシロ様やコリンナさんに不審人物が近付いたりしないよう注意する必要はあるでしょう」
ヘルムートが執務室を辞した後、エルヴィンは紅茶を一口飲み、ソファーに背中を預けた。
ただでさえマシロは慣れない世界で大変な思いをしているのに、マシロに危害を加えようとする者がいるかもしれないのか。マシロには、笑っていてほしいのに。
エルヴィンは、フッと笑った。最初は、浄化の為にマシロを利用しようと思っただけだった。でも、炭鉱や孤児院で他人の為に一生懸命頑張るマシロを見て、心を動かされた。
もう認めるしかない。自分は、マシロの事を愛してしまったんだ。
でも、マシロは元の世界に帰った方が幸せなんだろう。だったら、自分はこの気持ちに蓋をして、マシロを元の世界に返せるよう努力するだけだ。
エルヴィンは溜め息を吐くと、天井を見上げて呟いた。
「厄介な恋をしたものだ……」
とうとう自分の気持ちに気付いたエルヴィン。
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