蜂の魔物
とうとう魔物が現れて……!!
「おい、変な音がしないか?」
不意にエルヴィン殿下が口を開いた。私は、集中して耳を澄ませる。確かに、シューシューという音が聞こえる。この音は、どこから聞こえて来るんだろう?
「……床下かも」
コリンナさんが、ボソリと呟く。「どういう事ですか?」とエルヴィン殿下が訪ねると、コリンナさんは床に視線を向けて答えた。
「この図書室には、床下倉庫があるのよ。蔵書が一杯になったら仕舞う場所が必要だからって……。この音、床下から聞こえる気がしない?」
そう言われれば、そんな気がする……。
図書室の石造りの床には、木製の四角い板が嵌められている。これが倉庫の蓋になっているのだろう。エルヴィン殿下は、私とコリンナさんの前に出ると、床下倉庫の蓋に手を掛けて言った。
「危ないから、マシロとコリンナさんは子供達と一緒に後ろに下がってろ」
私達が下がると、エルヴィン殿下は慎重に倉庫の蓋を開ける。
すると次の瞬間、倉庫の中から瘴気の靄がブワリと漏れ出してきた。
「瘴気が出てます! みんな、吸わないように注意して!」
私が叫ぶと、殿下、コリンナさん、子供達は、驚きながらも素直に口を手で塞いでくれた。
倉庫から出て来たのは瘴気だけではない。無数の蜂が、勢い良く倉庫から飛び出してきた。
「この蜂、恐らく魔物だ! 刺されないように気を付けろ!」
エルヴィン殿下が叫ぶけど、狭い空間に蜂の群れがいるのにどう避けろと……!
とにかく浄化しよう。私は、両手を宙に掲げて唱えようとする。
「神よ、この世の全てに……」
次の瞬間、私の右腕にチクリと痛みが走った。えっと思った時には、もう私の全身から力が抜けて、私はヘナヘナと地面に膝を突いた。
「マシロ!」
剣を振り回して蜂を追い払っていたエルヴィン殿下が、慌てて私の側にしゃがみ込む。
「大丈夫か、マシロ!」
「はい、蜂に刺されましたが、多分大丈夫だと思います。……でも、身体から力が抜けて……。浄化出来そうにありません」
「ちょっと、どうすんのよ……!!」
私の言葉を聞いたコリンナさんが顔を青くして叫ぶ。
「取り敢えず、窓を開けて蜂を全て外に逃がすか……? いや、駄目だ。外に逃がしたら、外にいる大勢の人達が犠牲になる」
エルヴィン殿下の言葉に、コリンナさんが眉を吊り上げる。
「ちょっと! その為にこの子達を犠牲にしろっていうの!?」
「そうは言ってな……!」
「うわーん!!」
子供の泣き声が聞こえた。私達が振り返ると、エーリカが左腕を押さえて涙を流している。
「どうしたの!?」
コリンナさんの問いかけに、ヴィリーが焦った様子で答える。
「エーリカが蜂に刺された! 早く手当てしないと!!」
どうしよう。早くこの蜂を何とかしないと……。考えた私は、コリンナさんの方を向いて言った。
「コリンナさん! 私の代わりに瘴気を浄化して下さい! もしかしたら、浄化すれば蜂の動きも弱まるかもしれません!」
根拠なんて無い。ただの直感だ。でも、やってみる価値はある。
コリンナさんは、ためらいがちに言う。
「でも、私は浄化しようとしてかえって瘴気を広げた事があるのよ? それも二度。今私が浄化しようとしたらどうなるか……」
「でも、このままじゃ子供達が危ないです! やれるだけやってみましょう、コリンナさん! あなたは子供達の――聖女なんですから!」
コリンナさんは、ハッとした後、ギュッと拳を作って言った。
「……分かった。やってみるわ。エルヴィン殿下、私が浄化に集中できるように、私の周りの蜂を追い払って頂けませんか?」
「承知した」
エルヴィン殿下が、コリンナさんの周囲の蜂を追い払い始めた。それを見たコリンナさんは、宙に手を掲げて叫ぶ。
「神よ、この世の全てに祝福を!!」
すると、部屋に漂っていた紫色の靄がスウっと消えていった。そして、蜂の動きが弱まったかと思うと、蜂はボトボトと地面に落ちていった。
エルヴィン殿下は、しゃがみ込んで蜂を見るとコリンナさんに声を掛けた。
「蜂の動きは止まっているが死んではいない。城に持ち帰って魔導士に焼いてもらおう。コリンナさん、蜂を入れる袋を持って来てくれませんか」
「承知致しました。ついでに、エーリカ達を応急処置する為の薬と包帯も持って来ます!」
そして、コリンナさんはバタバタと図書室を出て行った。
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