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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第96話 上層部の残業


「……これでひと段落、か……」


 げっそりと、フィンレーは長い長い残業をようやっと終わらせて、いつもの私室でソファにひっくり返った。

 長ソファーは特別に作らせたものだ。何代か前の聖女さまからもたらされた「スプリング」というものを使っており、弾力が素晴らしい。

 そのソファに長々と寝そべる横で、アルフィオとユーゴが、それぞれ一人がけのソファの背もたれに全身を預けている。


「ひと段落だなぞ言えるか阿呆、まだまだこれからだ……貴族家のバランスはかろうじて保たれているが、ミラロードはこれからどうなるかわからん……特にフロランはラギスロードに切られたようだからな……」


 先の、第三騎士団の治癒魔術師の件については、三人の治癒魔術師の嘘、サボりということで表向きは処理されていた。名前を使われれたこちらこそ被害者である、とフロラン・ミラロード第一騎士団団長は口角に泡を飛ばして主張していたが、おそらく、その言い分を信じているものはいるまい。近衛騎士団団長のアーヴィン・ラギスロードは関与を完全に否定しており、フロランを助けるそぶりも見せていない。

 おそらく、治癒魔術師の引き抜きについてはアーヴィンの指示があったのだろうが、さすがのフロランもそこまでは口にしなかった。


「アーヴィンの太鼓持ちだったからねぇ、フロランのおっさん。いろいろ知ってるとは思うんだけど……吐かせるかい?」

「今まで引き抜きをかけられた魔術師たちはいろいろに脅されていたようだからな。そちらから聞いてもわかるとは思うが」

「そうしたいところだが、そこまでするとラギスロードがな……」


 頭が痛い。


「あんなのが近衛騎士団の団長とか、ほんっとロクなことしやがらねえなあのクソババア……」


 アーヴィン・ラギスロードは、フィンレーにとっては生みの母に当たる女の甥っ子だ。血がつながっている。それにすら反吐が出る、と吐き捨てた。

ラギスロード家は、今フィンレーが抱えている問題の原因を作った家であり、現状を変える邪魔をする家。フィンレーの恨みと苦労のすべてを凝り固まらせた家だと言っても過言ではない。

 そして、その下についているのがフロラン・ミラロードだ。騎士としても魔術師としても二流のくせに、幼なじみのアーヴィンに取り入る形で第一騎士団の団長におさまっている。


「ミラロードもねぇ、あのクーデターもみ消してやったこと忘れてるんじゃないのって感じだね?」


 もういらなくない、あの当主も第一騎士団長も、と目を座らせるユーゴ。


「落ち着けユーゴ、魔力が漏れそうだぞ」


 フィンレーは疲れ切った体を何とか起こし、ローテーブルに並んだグラスに、ティロンエールを注いだ。


「……まだ残ってたの?」

「これで最後だ」


 ミラロード家は、当代の兄がクーデターを画策していた。先代の王からフィンレーに替わった時、その動きをつかんで捕縛し、内々で処刑している。

 あれも、本当に気分の悪い事件だった。


「あいつら、自分が悪いなんて思ってもないだろうからな……」


 兄は先代の当主が娼婦に産ませた子で、庶子として家に入れられていた男だ。貴族主義の強いミラロード家で、本当にひどい扱いを受けており、そこから恨みを募らせて様々なことを起こしたのだが。


「家の醜聞になるってだけなんだろ、知らんあいつらの頭の中なんて、考えるだけ無駄だ。――――だが、ミラロードの鉱山業を止めるわけにはいかん」


 ミラロード家は、いくつもの鉱山を所有しており、そこから出る金属類がウェルゲアの武力と民の生活を支えている。そちらを運営する手腕はあるので、下手につぶれてもらうわけにもいかない。


「あの家はまず長男がダメダメなんだよねぇ、甘やかされててさ。そこそこ魔力があるのが自慢みたいで、魔術師団にも面接に来たけど、お話にならなかったよ」

「庶子の子どもたちは当主教育を受けてはいなかったな……しかもおとなしい女の子ばかりだったはずだ」

「ミラロード家やべえな……フロランは子はいないし、あそこの三男はどうだ? いたよな?」

「家から距離をとろうと必死だな」

「詰んだ……」


 三人で思わず頭を抱えた。

 この三人の治世は、こんなことの繰り返しだった。



「まあいい、ひとまず先送りだ! で、フロランもアーヴィンもタイミングを見て近衛と第一騎士団団長から引きずりおろすが、いつ頃にするかな」

「いつ頃っていうか、後任人事次第って感じはするね。二人ともまともに仕事してないから、引継ぎ関連は気にしなくていいけどさ」

「二人とも横領の疑いがある。そっちの調査が終わってからにしてくれ。後任か……、アーヴィンの後はフィリベルでいいが、フロランの後釜はどうする? 副団長のフランクに任せるか?」

「わりとまともな人ではあるけど、ながーい間フロランの友だちやってるやつだよ? 大丈夫?」

「うあ゛~~~~~!!」


 ひとが……ひとがたりない……!!

 まっとうに部下を使ってまっとうに仕事をしてくれるならそれだけでいいのに!!


「本当に、セティロード家の男児たちがスタンピードで早逝したのが辛すぎる……申し訳なさすぎる……」

「それを言うならノルロード家の信頼を得られていないのも辛いな……ティトルアンやティレルをこれ以上重用するわけにもいかんし……」


 ロード四家は、もともとウェルゲアの武を担う家々なのだ。しかし、今やそのうちの二家は敵であり足を引っ張る問題のある家に成り下がり、残り二家からは信頼を失いかけている。



「――――も、いい。今考えても仕方がない。ひとまずフロランたちを引きずり落としてから考えよう。少なくとも、聖女のお披露目の目途はついたんだ。それだけでもいいとしよう」


 遠い目をするフィンレーに、アルフィオが追い打ちをかける。


「ローラン殿下にはどこを任せる?」

「うあ゛~~~~~!!」


 きんきらきんの頭をかきむしるフィンレーに、アルフィオは淀んだ眼を、ユーゴは憐れみの目を向けた。

 お披露目の儀式で主に動くのは文官たちで、魔術師団は警護に駆り出されるのと、ユーゴ自身が「鑑定」の結果を自身の名のもとに上奏するくらいだ。ユーゴの負担はわりと軽い。


「もうその辺は明日にしよう、今日は終わり終わり! 僕いいもの持ってるから、三人で食べようよ。せっかくフィンが最後のティロンエールを出してくれたんだしさ!」


 ユーゴは無理やり話を打ち切った。

 そして、魔術師団のローブに仕込んである隠しポケットから、じゃーん! と効果音付きで小さなマジックバッグを取り出した。


「みてみて、試作品第五十七号! 時間遅延付きマジックバッグだよ!!」

「おお、成功したのか!?」

「今試験中~。あくまで遅延だから、まだまだ先は長いけど、魔術の道は一歩ずつ、だからね! 兄上と義姉上との合作さ!」


 領地にいるユーゴの兄とその妻は、ウェルゲアでも有名な魔道具狂いの夫婦だ。


「さあて、熱々で出てくるか、ちょっと冷めて出てくるか、それとも完全に冷えているか……」


 えいっ、とユーゴが気合を入れて小さなマジックバッグに手を突っ込むと、テーブルの上に三枚の小さな木皿と、一枚の大きな木皿。

 大皿の上には、茶色の塊が積み上げられている。

 ユーゴは行儀悪く、その一番上の一個を摘まみ上げて、ポイっと口の中に入れた。


「んんっ、火傷するほどじゃないけど、ちゃんと熱い! ぼちぼちいい感じだ、遅延がけっこうかかってる!!」


 フィンレーとアルフィオは、目をさまよわせた。

 時間遅延のマジックバッグの開発に成功したなど、本来であれば大喜びで大騒ぎする案件だ。何なら今から厨房に頼んで豪華な夕食を作ってもらい、ささやかながら宴をしてもいいくらいだ。

 だが、木皿に積み上げられた茶色の塊が、やたらといい匂いを振りまいているのである。

 ひとつひとつの形は不揃いだが、ニンニクの食欲を誘う香りをまとったそれらは、この間ロゼリアからあがってきた、「からあげ」というものなのでは?

 でもこの歴史的な偉業を祝う前に、からあげの話をしていいものなのか?

 というか、腹が減ってるのだが?


 友情と食欲の間で二人が懊悩していると、とうのユーゴがぶはっと噴き出した。


「いや二人とも、似たような顔で固まってないで早く食べなよ」

「あー……だが」

「いいのいいの、こっそり作ってるのだし試作品だから、もうちょっと詳細を詰めてからお披露目するよ。だからほら、熱いうちに食べて」


 二人に小皿とフォークを手渡してくる。

 二人は顔を見合わせて、おそるおそるからあげを一つ取り上げ。


 ぱくり。



「「!!」」


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