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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第95話 完治のイメージ


 南棟三階の、一番奥の病室。

 二面が窓でとても明るい、こちらの世界で言う特別病室に、第三騎士団団長のライリー・ティレルが入院している。

 アダンに連れられて、りのとロゼリア、イェルセルはこの部屋にやってきた。


「おはようございます、ティレル団長」

「おはよう、リノア嬢」


 まだ床上げできてはいないが、ベッドの上でしっかりと体を起こしている。

 清潔なパジャマを着て、りのたちを見るとベッドに腰かけるようにしてこちらへ体を向けてきた。

 顔をまっすぐにこちらへ上げている。


 ここまで回復するのに結構時間がかかったが、きちんと体の機能は戻っているようだ。ずっと寝ていて頬もこけてしまっているけれど、目には力が戻っている。静かな、深い森の色をした目だ。


 ロゼもおはよう、おはようございますライ兄様、また兄様ったらそうやって起きてる! 寝てなさいと言われてたのに! いや暇だったからつい。ついじゃありません! メル姉さまに言いつけますからね! ロゼ、頼むからそれは勘弁してくれ、えっと、今度甘いものでも食べに行くか?


 ティレル兄妹が叱り叱られの楽し気な会話をしている横で、りのはそれを微笑ましく眺めていた。眺めながら、これまでの治療の経緯について考えている。



(造血ポーションも、治癒ポーションも、やっぱり完璧じゃないんだよねえ。造血された血は成分が薄いし、治癒ポーションで治したところは、表面は治ってても内部がうまく機能してない感じ。とりあえず表面をくっつけて、ひとまずは治ってるし、それだけでも十分すごいんだけど、応急処置としては十分ってレベルで止まってるんだよなぁ)


 ポーションで治した後、病気になりやすいとか呼吸がしにくいとか、そういう副作用がでているということは、見た目はパーフェクトに治っていても、実際はそうではないということだ。

 さらに、騎士団で使うポーションは最上級クラスの特級ポーションだという。特級でそれということは、通常のポーションだともっと治りは良くないだろう。


 一方で、りのが治した団長と五人の騎士たちの治りは、ポーションに比べてとても良かった。

 イェルセルの言葉を借りると、「内部から治っている」らしい。そのおかげか、後遺症もほとんど出ていないし、ちょっとした不具合もさっきのようにその都度治しているから、復帰も早そうだとのこと。

 そんなわけで、先日、治癒魔術とポーションで治療した団長の内臓に、りのはあらためて「ヒール」をかけていた。「鑑定」でよくよく見ると、破れているところは治っていても機能までは戻っておらず、下手をすると止まりかけている臓器もあった。

 焦ったが、ひとつひとつの臓器をていねいに「鑑定」して「ヒール」をかけたことで、なんとかなった。

 あれから少し時間がたっているが、これだけ動けるようになっているなら、内臓の方もまずまず回復しているのだろう。


(やっぱりイメージだと思うんだよねぇ)


 何をイメージして、治癒魔術を使うのか。

 単に治れ~と思って使うよりも、この筋肉とこの骨がこういう感じにもどりますように、と思って使うほうが、より具体的だ。魔術がそれに答えているだけなのでは。

 聖女だからというよりも、イメージのもとになる知識が大切なのでは。

 聖女でなくとも、その辺の知識があれば、治癒魔術は格段に進むのでは。

 というか、そういう研究があるのではないか。

 治癒魔術に詳しいというロアーダ伯爵家なら、そういう研究を内々にしているかもしれない。


 そんな予想を立てていた。



「はい、二人ともそこまで! ユーゴ様がもう少ししたらいらっしゃるから、診察始めますよ~」


 お母さん……じゃなくて、お姉さんのようにぱんぱんと手を叩いて促すと、二人は即座に動き出した。

 ロゼリアはすっとりのの後ろに下がり、ライリーはぱっと上にはおっていたパジャマを脱ぎ、ズボンから左足を引き抜いて、ベッドに腰かける。診察の際は服を脱いでもらっていたのだが、それをきちんと覚えていてくれたようだ。

 そのすばやい動きは、二人に姉、それもきびきびと指示を出してくるお姉ちゃんがいたことがよくわかるものだった。


(うちの弟妹はこんな素直じゃないからなあ……こっちも指示出すことなんてなかったし)


 マイペースを極めた三兄弟だったので、小さなお願い事はしても、指示とか命令とかはなかったから、こういうのはちょっと新鮮だ。


「じゃあまず左足から行きますね。何か違和感はありますか」

「今のところは特にない。筋力が落ちたかなというくらいで」

「筋力は仕方ないですね、使わなければ落ちるものですし。うーん、大丈夫そうかな。あー、でもちょっと血がまだ薄いかなあ……」

「そうですな、見ておる限り、息が浅いように思いますのう」


 ふむ、と少し考えて、りのはアダンを見上げた。


「アダンさん、団長さんのお食事、今でも使ってあるとは思うんですけど、コカトリスやオークの肝の量を増やすことはできますか」


 ライリーが目を見開く横で、アダンがにやにやと笑う。男っぽい顔が、どこか少年めいた悪戯っぽい顔になっていた。


「おう、できるぞ。テミシアのサラダもいれるか」

「サラダはまだ早かろう。腹にすっと入るよう、スープの方がいいじゃろうて」


 ロゼリアと同じくあまり感情が表情にのらないライリーだが、その目が不満と絶望を濃く映している。

 コカトリスやオークの肝、テミシアは、向こうでいう鉄分の多い食材だ。

 こちらでは、「血に良い」「眩暈に良い」食材として扱われているのだという。

 肝もテミシアも、とても癖のある食材らしく、気の毒そうな顔でロゼリアが兄をみつめているのがおかしくて、りのは必死に笑いをかみ殺した。


(向こうでもレバーやほうれん草はクセがあったもんなぁ。こういう共通性もあるのがおもしろいよね。というか、違うところの調査一覧がほしいわぁ。今までの聖女様の中の誰か、そういうの作ってないかなぁ)


 はい、足はもういいですよしまってください、と言うと、無表情のまま、けれど目で絶望を語ったまま、ライリーはもそもそと左足をズボンに突っ込んだ。

 次は左のお腹ですよと声をかけて、そっとりっぱな腹筋にふれた。見た感じ、色が違うとか継ぎ目があるとかそういうことはない。「鑑定」をかけながら、その手をシックスパックにすべらせ、ぽこぽこ押したりさすったりする。触っていた方が「鑑定」が詳しく出るし、「鑑定」をかけた時のわずかな魔力の感触を、患者が感じにくいようごまかすのにもいいからだ。


 うーんすごい硬い、すごい弾力。


 そう思いながら「鑑定」を読み、内臓の方もチェックし、うん、問題なさそう、と言って顔を上げる。


「………え?」

「っっ」



 なんか真っ赤になってた。



「くすぐったかったですか? ごめんなさい、さわらないとわからないので、ちょっとがまんしてね」


 ハイ、とライリーが小声で返事をする。嫌がらないいい子だ。


 左肩もこの調子で診察し、まだ床上げには早いけど順調に治ってるよ、もう少し体を休めることを頑張って、と伝えると、ライリーは、黙ってこくりと頷いた。





 部屋の隅で、アダンとイェルセルがにやにやしながら肩をすくめているのに、りのは最後まで気づかなかった。




本日はここまでとなります。

お読みいただきありがとうございます!

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