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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第94話 第三騎士団の経過観察


 王宮の私室を出て、第三騎士団棟まで歩いて約三十分。

 冗談ではなく、ガチでかかる。とはいえ、りのは散歩が結構好きなので、苦にしてはいなかった。

 王宮の門を出て、近衛騎士団棟の横を抜け、きれいに整えられた丸いトピアリーが整然と並ぶ、左右対称の庭園をゆったり歩いていくのはなかなかに楽しい。今日もいいお天気で、歩いているとさらっとした風が頬を撫でていく。


 この距離を歩くのも、はや数回目である。

 先日の会議で決まったように、第三騎士団のりのが治療した騎士たちの経過観察に行くのである。


(この辺はフランスの庭園って感じ。うーんヴェルサイユ! そういえば、イングリッシュガーデンっぽいのってあんまり見ないね)


 こうやって散歩をしながら考え事をするのは、昔からのりのの癖である。

 

(やれやれ、聖女様になっちゃったら大変かなと思ってたけど、意外と静かで助かるなぁ……まぁまだ大っぴらに知られてないからだとは思うけどね)


 先日、途中からバックレた会議の結末は、先日アルフィオから告げられていた。

 貴族間のバランスをとるため、現段階でのフランク・ミラロードの更迭は見送るが、その辺の問題の見通しが立ちしだい、団長位から退いてもらうとのことだ。アーヴィン・ラギスロードについてはもう少し機を見る必要があるそうで、しばらくはフィリベルが頑張るらしい。

 聖女二人の正式な布告については第三騎士団全員の完治待ち。だが、王妃の体調の具合と、もう一人の聖女カノンの意思確認が十分にできていないため、もう少し時間がかかるかもと言われた。


(手を貸せ、とは言わないんだけどねぇ)


 アルフィオ宰相もユーゴ師団長も、そしてフィンレー王も、決してこれをやってくれ、とは言わない。

 けれど、話の端々で、動いてくれたらなあ、という願望を感じることがあった。


(あれ、どうやら無意識っぽいのよねぇ。むしろ意識的に言われた方が叩き返せるからありがたいくらいなんだけど)


 察してちゃんに、こんなところに来てまで悩まされるとはなぁ。

 りのは、大きく深呼吸をしながら歩く。


(まぁいいや、言われてないんだから動く必要はなし! それよりも、聖女ですよーって正式に広まる前に、とりあえず第三騎士団専属になれてよかった。ほんとグッジョブだった!)


 りのが、治療の対価として要求、というか打診したのがこれだった。

 第三騎士団棟に常駐する、治癒魔術師の立場がほしい。

 アダンは、そんなのこっちの利になるばっかりじゃねえかと始めはものすごい勢いで首を横に振っていたが、現場で魔獣に会うのが怖くてイヤだし、他の騎士団まで押し付けられるのはいやだから、現場にいかなくてもいい第三騎士団がいいのだ、となんとか説得した。

 その後の段取りは彼がすべてつけてくれたので、りのは会議の時に爆弾を投げ込むだけでよかった。とても楽だった。


(仕事のできる人ってすてきー!)


 しかも、アダンも団長のライリーも、見た目が大変良いので目の保養である。

 動く写真扱いはしないと決めたが、目を楽しませるくらいはいいだろう、と内心で言い訳をしながら、目と心を楽しませているりのだった。



 のんびりと歩いていくと、左手に見えてくるのが第二騎士団棟。

 さらにその先にあるのが、目的地の第三騎士団棟である。



 第三騎士団棟の正門をくぐると、萌黄の髪をした背の高い青年が入り口からかけよってきた。


「リノア様、おはようございます! ようこそ第三騎士団へ!」

「おはようブルーノ君、調子はどう?」

「元気です!」


 はきはきと明るいこの青年はブルーノ・セティロードといって、第三騎士団で唯一、治癒魔術が使える騎士である。

 サファイア色の目を快活にきらめかせながら、ブルーノは傍に寄ってきた。


「お、おはようございます、ティレル嬢、お疲れさまです!」

「……おつかれさまです」


 見事な棒読みで答えるロゼリアに吹き出しそうになりながら、ロゼリアを気にして過剰反応になっているブルーノに案内を頼んだ。


「あ、ブルーノ君、後でユーゴ師団長がいらっしゃって治癒魔術の訓練をするんだけど、よかったら一緒にどう?」

「ぜひ、よろしくお願いいたします!」


 彼は火と水に適性があり、水の治癒魔術を使える珍しいタイプの騎士だった。

 先だっての治癒魔術師の引き抜きに巻き込まれないよう、ほとんど治癒魔術の練習はしていなかったらしい。それでも上手になりたいという熱意があって、りのに治癒魔術を教えてほしいと頼み込んできた。第三騎士団としても、現場で治癒魔術の使える騎士は喉から手が出るほどほしい。そんなわけで、りのの仲立ちで、二人そろってユーゴから教えを受けている。


「あ、おはようございますリノア様」

「リノア様、おはようございます!」

「リノアちゃんおはよー!」

「不敬だぞこのアホ!」

「おはようございます……」


 いつも使わせてもらっている診察室に入ると、そこにはイェルセルと、先日りのが治療した五人の騎士たちが集まっていた。


「みなさんおはようございます」


 一通り挨拶をかわし、雑談をしてから、りのは診察を始めた。

 怪我をしたところ、火傷をしたところにそっと手を当てて、「鑑定」をかけるのだ。

 その結果を見ながら、痛みやひきつれについてはもちろん、しびれや動かしにくいところや違和感がないかも聞き取りをする。


「いや、筋肉が落ちてるだけかもしれんが、ちょっと剣の握りが弱くなっているような気がして」

「握りが弱く……」


 彼はシャドウアラクネにつかまって、肩をかじられた騎士だった。確かに肩に大穴があいていたのを覚えている。

 注意深く「鑑定」を読んでいくと、首から脇に抜けるところの神経が少し圧迫されていると書いてある。そのせいで手に力がうまく入りづらくなっているらしい。タブレットを出してその辺りを確認し、知識を入れてからあらためて「鑑定」をかけると、肋骨と鎖骨の間で周囲の組織に触れているようだった。


(ってことは、この神経がちゃんと独立して、首から脇まで通っているところをイメージすればいいかな?)


 さわさわと、シャツを脱がせてたくましい僧帽筋と立派な大胸筋に触れながら、鎖骨も含めて「鑑定」し、イメージが固まったところで「ヒール」をかける。

 白い光がすうっと彼の肩あたりに沁み込み、ふわりと光った。


「うん、できた。これで様子見よっか。一応原因は取り除いたけど、これからの訓練次第でまた出てくるかもしれないから、その時はまた言って。あ、姿勢よくしてることも大事だよ」

「姿勢良くぅ!?」

「はは、ハイノ、でっかい大剣を背負ってるから背が曲がってるんじゃないか?」

「だっせー、よぼよぼはいのー」

「おうてめえら、治療が終わったら覚えとけよ!」


 少し頬を赤くして腕を振り上げている騎士に、穴があいてたのに、ちゃんと動いてるなーよかったなーとほっこりしながら、りのは五人に向き直った。



「さてみなさん、お知らせです。みなさんの完治を確認しましたー! おめでとうございまーす!!」



 わーっとみんなから拍手が起きた。ありがとう、ありがとうとたくさんの感謝がりのに降り注ぐ。照れ笑いをするりのの横で、イェルセルが腕を組んで五人に告げた。


「よしよし、お前さんたちには退院の許可を出そう。これからの訓練に関しては、決して無理をせず、異常を感じたらすぐ報告するんじゃぞ。アブラーモとアダン副団長と相談しながらやってくれ」

「ん? 呼んだか?」


 颯爽と診察室に入ってきたのは、アダンだった。


「アダンさん、五人とも完治したよー!」

「おお、そりゃあ何よりだ」


 にやりと笑うアダンに、五人が一歩引いた。


「ふぉふぉふぉ、無茶させんでくれよ、アダン殿」

「もちろんさせねぇよ。まぁ、ぎりぎりを攻めるがな」


 ひええええ。

 声なき悲鳴が響く。五人の騎士たちが、完全復帰のための厳しい訓練に青ざめる一方、


(今の顔、かっこいー!!)


 りのはうかれぽんちになっていた。

 くうう、ちょいワルな感じなのに、内面は団を想う清廉な騎士様とか! 属性盛りすぎでは! かっこいー!


「さ、リノア、ここはもういいか?」

「アッハイ」

「じゃあ行こう」

「ハイ」

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