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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第92話 聖女認定


 フィンレー王は、向けられたボードにゆっくりと目を通した。


「ふむ……ところどころ読めぬ文字はあるが……この一番上は、間違いなくリノア嬢の名だな」

「はい、陛下、間違いないかと」

「そして……おお、『聖』の文字がはっきりと出ておる……!」


 大げさなほどの感嘆を込めた言葉に、りのはひゃーと背筋を伸ばした。


「話には聞いていたが、実際にこの目で見ると、感動もひとしおであるな」


 皆も見てみるがよい、との言葉で、くるりと白いボードが一同の方を向く。


「『聖』……の後に続く文字はやはり『女』でしょうなあ」

「『人』とか『者』とかも候補としてはあるんだろうが、まあ何にせよ聖女に列するものであることは確かだろうぜ」

「…………そう、ですな」


 何かをいいたげなラギスロードだったが、たたみかけるようなアダンとフィリベルの言葉に口をつぐんだ。


「しかもね、それだけじゃないんだよ、重要なのは。『魔術適性:全』! カノン様もそうだし、今までの聖女様も皆、魔術適性は全だったんだ。ここから考えても、リノア様が聖女としてふさわしい力を持っているとみていいと思うね。それに、ギフトが三つもあるのも素晴らしい。一番上は、カノン様もお持ちの『言語理解』だろうね。二つ目はまだ読み取れていないけれど、三つめはおそらく『創造魔術』だと」

「創造、ですか……」

「ユーゴ殿、なんでそう言い切れるんだ?」


 ユーゴは、ディズリー団長の問いに、にやっと笑った。


「リノア様の使った魔術が、おそらくこの『創造魔術』由来のものだと考えられるからだね。リノア様、経緯をご説明いただいても?」

「はい」


 りのは淡々と説明した。ドラマチックな要素を入れるのではなく、足元をすくわれないよう、できるだけ装飾を省いて簡潔に述べることを心がけて。


 自分の護衛に、急を知らせる手紙が届いたこと。

 それを見て騎士団棟へ向かい、護衛の悲しむところを見て、助けたいと思いけが人たちの治療に着手したこと。

 治療後、不思議な感覚に襲われたので、報告も兼ねてユーゴ師団長たちに相談したこと。

 すると、「鑑定」が一部わかるようになっていたこと。


「治療の際、夢中でやっていましたから、自分がどのような魔術を使っていたかはうろ覚えなのですが、アダン副団長やお医者様の話を聞くに、こちらの世界にはない魔術を使っていたようです。ユーゴ師団長にも確認していただきましたが、やはりこちらにはない魔術であるとのことです」

「うん、話を聞いて確認したけど、存在してなかったね。これは推論だけど、そうやってこちらにはない魔術を作り出せるのが『創造魔術』なんだと思う。それを初めて発動したことで、ギフトとして明確になり、それにつられるように『鑑定』の結果も明確になり始めたんだろうね」

「ジュランディア師団長、これから時間がたてば、さらにリノア殿の『鑑定』結果は明確になると思うか?」

「はい、陛下。どのくらい時間がかかるかはわかりませんが、その可能性はおおいにあると考えております」


 ユーゴは、大きく頷いて言葉を続けた。


「これらの結果から見ても、リノア・ミハイル嬢が聖女としてのお力を持っていることは間違いないと思います。紫と光の色の混ざった『聖女の目』を持ち、膨大な魔力を持ち、魔術適性は全。そして、聖女が共通して持つ『言語理解』をお持ちだ。そのうえで、読解した『鑑定』結果であらわれた『聖』の文字。これ以上の調査が必要でしょうか?」


 ユーゴ様饒舌~。

 りのはのんびりとその場を眺めている。

 先日の打ち合わせで、この流れはもう決まっていたから、りのにできることはほとんどないのだ。

 りのの聖女認定でりのが口を出すのはおかしいのだから、あとはおまかせである。


(私の今日の仕事はその後だしな!)


 それぞれが自分の考えを述べているが、おおかたはりのの聖女認定を認める方向のようだ。

 だがそこへ、第一騎士団長のミラロードが口をはさんだ。


「しかし、だな、聖女であったとしても、その『創造魔術』とやらは、安全なものなのか? 安全ではないなら、聖女としての名を持つのはどうかと思うが」

「ほうミラロード団長、リノア殿が我らを害すると言いたげだな?」


 すかさずディズレー第二騎士団団長が笑いながら言う。

 とたんにミラロードは、いやいやそんなことは、と手を振って言い訳を始めた。小物臭い。

 そう来たかと思い、とっさに、ここから計画の一つをつなげてしまえるのでは? と口を挟むことにした。


「私もそう思うんです、ミラロード第一騎士団長」


 りのは、ここぞとばかりに大きく頷いた。


「へっ?」

「へっ、て、今あなたが仰った『創造魔術』は危険って話です」

「いや、私はそこまでは」


 小声でぐちぐち言っていて、りのはこいつ鬱陶しいわ~と思いながらさらに言葉をつなぐ。 


「一応、治した人たちはみんな命を取り留めて元気になってますけど、本当に元気なのか、支障がでないのかはまだわからないんです。だって、これが初めての『創造魔術』を使った治療ですから。ミラロード団長のご懸念は当然のことと思います。安全を確認することは大事ですよね」


 そして、にっこりと笑った。


「だから、経過観察をさせてほしいと、私から第三騎士団へお願いしました」

「……経過観察、といいますと?」


 口をはさんだのはラギスロードだった。そちらへしっかりと顔を向けて、笑顔でりのは説明した。


「そのままです。定期的に、今回治療した人たちの経過を見せてもらって、不都合が出たらその都度、その『創造魔術』で治療します」

「いい練習になると思うんだよねえ」

「一度治療しちゃってますからね。練習台というか、はっきり言えば実験台になってしまうんですけど……」

「その点に関しては、治療して頂いた騎士たちからも了承を得ております。みな、命を救っていただいたお礼ができるどころか、引き続き予後を見て頂けると喜んでおりました」

「うわ~、私がんばりますねぇ、アダン副団長。いきなり傷が復活、とか、治したところが崩れ落ちる、とか、ひどいことにならないといいんですけど」

「まあそうなっても生きていればいいでしょう。その時はまた『創造魔術』でお願いします」


 わっはっは、とアダンが朗らかに笑う。第二騎士団の団長も、あっはっは、まあそうだわな、生きてりゃいいわな、何度でも治療すればいいと笑っていた。

 一方、ドン引きしているのが第一騎士団の二人で、薄い笑みを崩していないのがラギスロード第一騎士団団長だ。


「アダン副団長、ライリー団長の許可はとっているのか?」


そこで初めて、アルフィオが口を挟んだ。ぴりっと場が引き締まり、アダンがアルフィオへ向き直る。


「はい。団長もまた、リノア様の『創造魔術』を受けておりますので、経過を楽しみになさっています」

「あれは相変わらずだなあ」


ほほえまし気なフィンレーの台詞に、アダンが小さく苦笑した。


「団長方、ならばこうしよう。リノア様の聖女認定は、仮のものとして決定しておく。そして、『創造魔術』の確認のため、第三騎士団の騎士たちの完治後に正式発表とする。ただし、カノン様もだが、リノア様もまた大げさな祝典やパレードは望まれていないため、その辺りは執り行わず、式典のみとなる」

「完治後ゆえ、今少し時間はある。それぞれ、護衛計画を立てて宰相まで上げるように。――――聖女リノア殿、それでよろしいだろうか」


りのは、浅くうなずき、はい、と答えた。

ここから自分の周辺でいろいろなものが変わっていくだろうと思えば、少しばかり声が震えたのは仕方がない。




「これをもって、リノア殿を聖女として認定する。その身のまわりの安全に関して、各騎士団、全力をもって取り組むように」




重みのある声で決定した、聖女認定。

一同は、承知しました、と国王に礼をとった。



百話近くかけて、やっと聖女扱いされるようになりました。長かった……。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします!


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