第91話 御前会議
王城の一室。
国王をまじえて会議をするときに使われる部屋に、りのはフィンレー王、アルフィオ宰相の後について入っていった。
中には、六人の男が部屋の真ん中に据えられた大きな円卓についている。
フィンレーが奥側の中央に、開けられていたその両側にアルフィオとりのが座る。りのの隣はユーゴで、目が合うとパチッと小さくウィンクをしてきた。
りのもかすかな笑みを返す。
メイドや侍女、それぞれの侍従はついておらず、人払いがされていた。
「我が騎士たち、ご苦労」
重々しいフィンレーの一言から、会議のような報告会は始まった。
緊急の招集であるため、用事は一つだけだが。
まず自己紹介から、ということで、円卓のユーゴの隣から一人、男が立った。
「第三騎士団副団長、アダン・ヴァロです。陛下、本日我が団長が欠席いたしますこと、誠に申し訳なく」
「よい、子細は本人から聞いておる。気にするな」
「ありがとうございます」
がしっと騎士の礼をするさまは、男臭くてとてもカッコいい。
何度か第三騎士団棟に向かうたびに会っていたので見慣れてはきたが、きゅんとするのは止められない。カッコいいので仕方がない。
目礼をよこされて、アダンさんこんな時はちゃんと真面目になるんだなあと思いながら、そっと頭を下げた。
「第二騎士団団長、シモン・ディズリーだ。よろしくな!」
次に気軽に立ち上がって礼をしたのは、これもびっくりするほどの色男だった。
(なに、騎士団っていい男しかいないの!? 何このイケメン!)
りのより少し上、四十代後半と言った感じで、アニキ! と呼ばれそうな頼りがいを醸し出している。ミストブルーの髪を短く刈り上げ、怜悧に整った顔に銀色の目という冷え冷えとした色合いなのに、明るく気さくな感じだ。慕われていそうだ。
このひとが、第二騎士団に乞われて団長になったという人か。
「……第二騎士団副団長、ヴィダル・ハリーダです」
「おいおいヴィダ、もうちっと愛想よくしとけ? こーんな若い女の子をビビらすな?」
「アンタは静かにしといてください」
からんでくる団長を鬱陶しそうに振り払うのは、茶色の柔らかそうな髪を長く伸ばした優男だ。印象的な青紫の目が澄んでいて美しい。
すらっとしているが、しっかり鍛えていることはわかる。細マッチョというやつだ。もっとも、騎士はガチムチか細マッチョかのどちらかなのだが。
(年は私のちょっと下くらい……三十代くらいかなあ。クール系! いいね! それにあの青紫は独特できれいだなあ。庭にあったあじさいの色。――――私の家の庭、どうなってるかな。ハーブ類が大侵食してないといいな……)
あじさい色の目がこちらを見て、小さく礼をする。
言葉はぶっきらぼうだが、とった礼はぴしりと指の先まで整っていた。
あちらへ飛んだ思考をむりやりもどし、少し笑って礼をした。
「……第一騎士団団長、フロラン・ミラロードである」
「第一騎士団副団長、フランク・アギレスです。よろしくお願いいたします」
ツンと顎を上げて偉そうにしている背の低めな男が、団長。その隣で丁寧な礼をしたのが、がっしりとした長身の副団長。
第一騎士団長という立派な役職についている彼は、金がかった茶色の頭は若干さみしく、桃色の目はかわいらしさや艶っぽさというよりは甘えを感じさせる人だった。顔立ちはきれいなのに、なんだかぼうやだなあとりのは失礼な感想を持つ。甘やかされた末っ子ぼうや、という感じだ。
一方で、副団長の方はユーゴに似た薄紫の髪にちょっと茶色がかった青い目をしている。体格の良いイケメンなのだが、それよりもなんだかとっても苦労性っぽかった。苦労がにじみ出ていて、ひゅーいけめーん! というよりは、お、お疲れ様です……と言いたくなる感じ。
団長の方がきっと副団長を見て、キャンキャンと何か文句を言っている。それをわかったわかった、となだめていて、なんだかとても慣れていた。
この二人、つき合い長いのでは。
「私が、近衛騎士団団長、アーヴィン・ラギスロードだ」
仰々しい一礼。穏やかな笑みを浮かべているが、りのはうわーと思った。
(これが噂のタイコモチ君! ああでもなんか知ってるわこの感じ、客の足元を見てやろうって商売人の感じに近いわ)
自分の利になるか否か、利になるならどこをつくかを、腹の奥で考えている目だ。
美術工芸の世界に限らず、どの世界でも、アコギな商売を好む者はいる。それと同じ匂いがする。しかもそれがけっこうあからさまだ。わかりやすく値踏みしている。これに気づかないなら、そのひとはよっぽど鈍いか肝が太いかだろう。
この男も太い。主に、腹が。ぽっこりぽん。
(そのたるんだお腹でここに出てこられるわけだから、肝が太いのは間違いないかー)
騎士としてはたいしたことない、とアダンが吐き捨てていたのがよくわかる。
太っていても動ける人というのはいる。動画サイトでもSNSでもいっぱい見たことがある。
けれどこの人はそんなことはないだろうなあと、りのは薄い笑みを浮かべながら思った。
「ご無沙汰している、リノア嬢」
その横で、よっと軽く手を挙げたのがフィリベル・ティトルアン。こっちも兄貴だが、ディズリー団長と比べると若々しく溌溂としている。腹が出ていることもなく、がっちりと引き締まった体型でカッコいい。いかにも騎士と言った感じだ。
(ん~、若さハツラツ! って感じがいいわねえ、眼福~)
すまし顔で、ご無沙汰しております、と返した。
そして口を開く。
「初めまして、……ではない方もいらっしゃいますが、私はリノア・ミハイルです。ええと、私は、……アルフィオ様、お話してもいいのでしょうか?」
アルフィオに確認をとると、アルフィオは軽く頷いて口を開いた。
「なぜこの場に騎士団を掌握する諸侯方を招いたかにもつながるので、私の方から説明いたしましょう、リノア様。――陛下、よろしいでしょうか」
「うむ」
アルフィオは、目を細めて一同を見渡した。
「こちらのリノア・ミハイル嬢の『鑑定』結果の解読が進み、たしかに聖女であることが確認された」
「おお!」
「な、なな。な」
「なんと」
重々しい口調に、それぞれがそれぞれの反応を返す。
沈黙していたのは近衛の二人と第二の二人。喜びの声を上げたのは第一のフランク・アギレスで、狼狽したのが第一のフロラン・ミラロード、驚いてみせたのが第三のアダンだ。
(ん~、第一の団長はダルクスかガズメンディ派なのかな。アダンさんはお芝居。やっぱりか、って感じを出してくれてるのいいね!)
りのは居心地悪そうにもぞもぞする。
半分は演技だが、半分は本心だ。慣れなきゃだけどむずがゆい。
「ジュランディア魔術師団長、詳細の報告を」
「はい」
次はユーゴだ。
「先日、とあることの報告にリノアちゃ……リノア様がいらしてくださったときに、『鑑定』をかけさせてもらったんだ」
「結果の解読はまだできていないと聞いていたが?」
「その日にできたんだよ、ラギスロード団長。お会いするたびに、研究の一助として確認していたんだけど、その時の結果が今までとは大きく変わっていてね。ああ、実際見てもらえばいいのかな。リノア様、開示してもよろしいでしょうか?」
「えっと……」
困り顔のりのに、ユーゴはわかっているよと大きく頷いて見せた。
「ここにいらっしゃるのは清廉を旨とする騎士団長たちだからね。情報が漏れることはないよ。まあそのうちある程度は公開するだろうし、それまでの話だから。それまでに話が漏れれば、この中の誰かからだからね。そのおもらしさんを特定するのは簡単ってわけさ」
「わかりました。どうぞ」
多分に周囲への脅しを含んだユーゴの台詞に、りのは頷いた。
「『鑑定』『開示』」
透明なボードに虫食いの文字が並び、次の詠唱でそのボードが白くなった。
くるりと指をまわして、ユーゴはまずそれをフィンレーへ向けた。




