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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第8話 ただいまお城の探検中


 偉い人たちが頭を抱えている頃、りのは魔法ってすごいなーと思いながらその辺をうろついていた。


 昨日、インベントリの検証と合わせて、二つの魔法を練習していた。あまり魔法を使いたくはないが、背に腹はかえられない。

 ひとつは姿隠しの魔法「ハイド」、そしてもう一つが転移の魔法「テレポート」で、どちらも物語の中で脱出に必須の魔法として描かれていたのをヒントとした。

 姿隠しの「ハイド」は、できるだけ存在感を薄く、空気になるようなイメージで場に溶け込むことができる。

 「テレポート」は名前の通りかの有名なテレポーテーションだ。

 どちらも精度は高くなく、「ハイド」はせいぜい十分程度、「テレポート」にいたっては一メートルの移動が限界というところだが、とりあえずは問題ない。「テレポート」は障害物があるところでは使わないようにする、「ハイド」は効果が消える前にかけなおすだけだ。



 偽装のために窓を全開にした後、姿をきっちり隠してからドアを転移魔法ですり抜けたりのは、まず閉じ込められていた棟の中を散策した。

 はじめは見つかるかもとどきどきしていたのだが、面白いくらい誰にも気づかれない。

 ちょっとわくわくしちゃう、と年甲斐もなくあちこちを見た後、その棟を出て、城の中を冒険して回っている。


(時間つぶしついでに、お城の中の施設の位置を把握しておきたいもんね)


 りのが閉じ込められていたところは、どうやら使用人やお城に勤めている人たちが利用するところだったようだ。規則正しく、けれど狭めの間隔でドアが並んでおり、ときどきメイド服の女性が出入りしていたのだ。

 その建物から出て、隣接する建物を順々にざっと見て回る。

 堅牢できっちりした石造りのその建物たちは広く、数も多く、多くの人が行き来していた。


(お城に勤めてる人たちのための棟かな。お城の一角にオフィスビルと従業員寮を建ててるのか)


 男たちが激しく剣を手にしてぶつかり合っている運動場のようなところや、秘書のようなひとたちがたくさんいる建物を見てまわり、その後いかにも魔法使い! という感じのローブのひとがわらわらいる建物の横を通り過ぎた。


(はー、本当に異世界。騎士団に役人に魔法使いの仕事場って感じ。あ、魔法使いの人たちに気づかれるかも? こわー、近寄らんとこ。で、たぶんあの一番奥の優美なお城が偉い人たちのいるところだろうな。王族の家族棟、私用エリアって感じか。位置的にも一番奥だし、ちらっと見えるあれ、たぶん壁だよね? 壁に囲まれてるなら、そりゃあお偉いさんの住んでるところでしょ)


 いくつもの建物のさらに奥、とりわけなめらかに、美しく整えられている宮殿の屋根を遠目に眺める。建物自体は壁に囲まれていてよく見えなかった。


(すごいなぁ異世界。向こうでは見ない形の建築だよ。軽やかでスマートなライン、いいねえ。早く帰りたいけど、ちょっと得したなー。ああいうデザインは、たぶん向こうの世界ではできないんじゃないかなあ……あんまり詳しくないけど、建築基準法だっけ、あれに反してそう。柱がちょー細い。でもそれがいい!)


 美しさには心ひかれたが、そこへの侵入は避け、今度は庭を見て回った。

 建物にそれぞれ付設してある庭園や、花の種類ごとにまとめられた花壇は見ごたえがあり、良い香りが漂っている。様々に趣向を凝らした庭園がいくつもあって、とても気持ちがいい。


(おー、ここはフランスのお庭っぽい! やっぱりなんとなく向こうの西洋文化に似てるなぁ。関連があるのかはわかんないけど。花の種類も同じだったり違ったり……どんな植生になってるんだろう。というか、そもそも向こうと同じ理屈、というか、科学的に考えていいのかもわかんないよねえ、魔法とかあるわけだし)


 そぞろ歩きながら、ふと、壁に囲まれたような庭があったので、りのは興味を惹かれて中に入ってみた。ドアがあいていたので、秘密の花園というわけではなさそうだ。


 庭の中に入ると、周囲には少し高めの木立が配置されていて、適度に日陰を作っている。そして庭の中央には、見たことのない色の葉っぱが一面に植わっていた。

 りのはびっくりした。葉っぱが空色だったのだ。空色の葉っぱがわさわさ茂った畑は、地面に空があるみたいで美しい。ネモフィラよりも青が濃く、また背が高くて、りのの膝の上あたりできらきらと光を反射している。柑橘をほんの少し青くしたような芳香が、静かに庭園を満たしていた。


(なんてきれい。地面に空がある……ところどころにグラデーションがあって、それがまた本当の空っぽい。なんてやさしい青色なんだろう! これなんていう花? あ、「鑑定」してみればいいんだ。えっと、『鑑定』……どれどれ………コルティアド、薬草。体力ポーションの原材料。やっぱりあるんだな、ポーション。異世界すごい)


 さっきから異世界すごい、としか思っていないような気がする。

 空色の葉っぱの周りにはなぜか同じ色のラメみたいなものがきらきらしていて、とてもきれいだ。葉っぱをつつくと、そのきらきらがふわっと舞い上がって風にのるのが面白い。

 さわやかで甘酸っぱい香りを楽しみながらつんつんして遊んでいると、誰かが走ってくる音が聞こえた。りのは急いで近くの木陰に身を寄せ、念入りに「ハイド」をかけなおした。


 そっと息を殺していると、りのが入ってきた扉から、二人の青年が駆け込んできた。



「……ちっ、ここもハズレか」

「この先はもう城門だぞ!?」

「西門だよな。あっちから連絡は?」

「まだない。あーもう、どこに行っちまったんだ!? 黒髪に紫の目の女の子なんて目立つはずなのに!」

「護衛騎士とメイドが監禁したんだろ? でも侍女ならさぁ、聖女様のおそばに行ってるんじゃねえの?」

「いや、どうやら本人が侍女って言ったわけじゃないらしい」

「はぁ!? それ、ローラン殿下、ヤバくないか!?」」

「それ以上は不敬になるぞ」




 腰に鞘付きの長剣を佩いて、りのを閉じ込めた男よりもしっかりとした作りの鎧? 防具? をまとった青年二人は、ここには探し人はいないと思ったのだろう、扉を出て、どこかへ走っていく。


 りのはにんまりと笑った。よしよし、いい感じだ。というか、思ったより情報の収集拡散が早い。優秀なブレーンが対処に当たっている匂いがする。たぶんそれはあの偉そうな青年ではあるまい。


「……やっぱりあのオウジサマの上が出てきたかな。王様かもね」


 それは好都合。交渉には上の相手のほうが話が早い。手ごわくはなるだろうが。


「ま、頑張りますか」


 りのは逃げるつもりなんて毛頭なかった。

 あちらの世界に帰るには、どうしたって自分をこちらへさらってきた技術者だか魔法使いだかの力がいる。魔法を使えるとはいえ、元の世界に戻る魔法なんて使える気がしなかった。失敗して、どこか別の異世界へ飛ばされたら目も当てられない。だから、こちらの技術者の協力は必須。

 問題は、どうやって協力させるかだ。


 タイミングとしてはそろそろかなと、「ハイド」を解いた。


「本当にここを出ていくわけじゃないし、ちょっと隙も見せとくほうが愛嬌があっていいかな? 何なら少し侮ってほしい気もするし。よし、ここはあえて目立つように正門に行こう! 正門を拝もう!!」




 情報のお礼に、先ほどの騎士たちにお叱りがいかないようちょっと時間をあけて、りのは正門らしきほうへ堂々と歩き出した。


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