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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第78話 次の治療依頼


73話からのあらすじ

 ロゼリアの兄・第三騎士団団長さんが大怪我で死にかけていたのを、ポーションと治癒魔術と、内緒にしていた魔法もバンバン使って何とか治療しました!

 体力魔力といろいろ限界ですが、満足です! ←イマココ


※この78話には少しだけ嘔吐の描写があります。


「ロゼ、少しの間お兄さんたちと患者さんを見ててくれる? 何かあったらすぐに教えて。私、お手洗い行ってくるから」


 ロゼリアが落ち着いたころを見計らい、りのはロゼリアの肩をぽんぽんと叩いた。


「わ、わたし、ご、護衛を、」

「ふふ、騎士団棟の中だよ? 大丈夫大丈夫。ちょっと休憩してくるだけ。建物の外には絶対出ないし、この階から降りたりもしないから。忙しくなる前に、お兄さんたちやお姉さんと話をしてね?」


 ふらつく体を叱咤しながら立ち上がり、ロゼリアをベッドの方へ押し出す。

 ロゼリアは、迷いながらも、こくりと頷いた。





 入ってきた時とは違い、喜びに涙する美しい容貌の兄弟たちを後ろに、りのは病室を出た。

 めまいと吐き気がやまない。


(真剣に味は改良してほしかった……!)


 まずいという言葉ではおさまらない、あの強烈な魔力ポーションの味を思い出して、うぇ、と思う。

 思ったとたん、先ほどまで傍にいた患者の様子が脳内を駆け巡った。

 無残な傷口や破れた皮膚、滴る赤黒い血液……


(うぇ……っ)


 思いだしたとたんに胃から喉元へ熱い塊が駆け上がってきて、口元を抑えた。

 さっきは何とか押し返したが、もうその気力も体力も尽きている。それでも、ここで吐きたくないとその一心でトイレを探そうと目線をうろつかせた時。


「ちょっとだけ我慢しろよ!」


 ぐわん、と体が浮き上がって、ぐらぐらとひどいめまいがした。必死で口元を抑える手に力をこめる。


(あれ、副団長さん、えっと、アダンさんだっけ?)


 いつの間に背後にいたのか、りのを軽々と抱えて走っている。

 飛び込んだのは、まさしくりのが求めていたところで。


「大丈夫か? 全部吐いちまえ」


 個室に押し込んでもらったところで忍耐は尽きて、便座を抱えてりのは吐いた。

 酸っぱい匂いに顔をしかめると、目から涙がぼろぼろこぼれる。酸で喉がひりひりする。鼻がつーんと痛い。


(うううううう……吞んでないのに二日酔いかよおおおお……でもがんばるうううう……)


 吐くのは嫌だが慣れてもいる。

 酒好きのりのは、時々羽目を外しすぎて二日酔いになっていた。

 吐き気と頭痛が来るタイプだったので、吐き方も一通りは押さえている。


(こういうときは吐き切った方がラクだからもういっかいがんばろ……)


 一度吐いた後、今度は意図してさっきの傷口を思い浮かべた。

 慣れない血や肉の色、臭いを記憶の中で再生して、吐き気を誘導するのだ。


(うえぇぇ……うぅ………胃液のみ……全部吐き切ったっぽいな……)


 りのはインベントリからこっそり水を出して、口をゆすいだ。魔術で水を出す気力はなかったのだ。

 それでも、口の中がすっきりして気分が切り替わる。


(欠損の復元ができちゃったなあ……てかほんとによくできたな、私……。でもまあやっちまったことは仕方がない、対応考えなきゃ)


 さてどこから手を付けるか。

 ゆっくりと立ち上がって後始末をし、りのは個室から出た。

 ふらふらする体をなだめながら洗面台で手を洗い、口をゆすいでいると、


「ほれ」


 ぶっきらぼうに突き出された木のカップ。

 薄い青色の鋭い目が、どこか迷うようにこちらを見ていた。


「……ありがとう」


 かすれ声しか出なくて、思わず苦笑した。

 カップからはミントに似たすっきりとした香りがする。


「少しだが体力と魔力が回復する薬草を煎じたものだ。ケガした隊員たちにも出している。マズくはない、と思うが」


 ああ、さっきの魔力ポーションの時のことを覚えていてくれたのか、と少し嬉しくなって、そっと口に含んでみる。

 確かに苦みはなく、ほんのりとした甘みがあっておいしい。一度水分を体にいれると、喉が渇いていたことに気づいてごくごくと飲んだ。


 飲み切って、もう一度ありがとうとカップを返そうとすると、副団長は突然土下座をした。

 えっここトイレなのに!? と唖然とするりのの前で、べたりと額を床に押し付けている。


「団長を助けてくれてありがとう」


 低くくぐもった声が震えていた。


「あの人がいるから、第三騎士団はやっていける。あんたは団長の命と同時に、この騎士団も救ってくれた。心から、感謝する」


 青い液体で汚れた髪の毛もそのままで、ああこの人は頑張ってきたんだな、とりのは素朴に思った。

 大ケガをした団長を抱えて、団員をまとめて、遠征先からここまで帰ってきて、自分のこともかまわず瀕死の団長の治療に奔走して。

 すごく頑張った人なんだな、と。


「吐いちまうほどくたくたになってるあんたに、本当に申し訳ないと思う、だが依頼させてくれ。頼む、団員たちの治癒を、お願いしたい」


 りのは、うーんやっぱりそうくるよね、と思った。

 なぜかは知らないが、他の治癒魔術師は見かけなかった。だから、通りすがりの異世界人だろうと、治癒が使えるならすがりたいのだろう。

 それでも、ちゃんと申し訳ないと思ってくれていて、トイレに連れて行ってくれてお茶をくれて。

 りのを気遣ってくれていた。


「俺にできることなら何でもしよう。それが礼になるかはわからんが、金でも労働でも何でもする」

「それは、あなた個人として? それとも、第三騎士団副団長として?」

「―――どっちもだ!」


 一瞬迷って、けれどすべてを投げ出すように叫んだ、嘘のない声を聴いて、りのは決めた。

 この人は自分をだまそうとはしていない。

 頑張った人なら報われてほしい。あがいた人なら叶ってほしい。その手伝いができるなら、力がバレたっていい。

 どうせ対処はしなきゃいけないんだから、一回も二回も一緒だし。


 りのは再度洗面台に向かい、勢いよく顔を洗った。

 アダンが顔を上げて、茫然とりのを見ている。

 ポケットから出すふりをしてインベントリから新しいハンカチを出し、顔と手を拭きながらりのは問うた。


「報酬は後日相談でいい?」

「あ、ああ、え? 受けてくれるのか?」

「うん」


 アダンの顔がパッと明るくなり、暗い影の差していた目がぎらっと光る。


「意識のないけが人は何人いるの? 欠損者は?」

「三人だ。欠損者はいない。一人が枝に腹を貫かれてて、出血が怖くて刺さったままだ。もう一人は背中と胸に深い切り傷がある。もう一人はやけどがひどい」

「やけど? 手当は?」

「とりあえず水で冷やしてるが、広範囲に焼かれててポーションが足りない」

「中毒症状の患者は?」

「いない。――おそらくだが」

「団長、ピンポイントで狙われたのか……まあそっちは後。意識はあるけどポーションで治らなさそうな患者は?」

「二人。右の脇腹、左肩を食いつかれたのが一人ずつだ」

「……この五人を除いて、あとのけが人はポーションで治せる?」

「治せる。何ならポーションもいらん」

「おっけおっけ、私が見るのはその五人ね。その五人、三階で治療できるかな? 患者さん動かしても大丈夫?」

「ここまで馬車で運んできたんだ、ここに移しても今さらだろう。ポーションを優先的に使って多少は回復しているし」

「わかった。じゃあこの階に移そう。お医者さんはイェルさん以外にいる?」

「――医者はいる」


 ん? と何かひっかかったが、それどころではないので頭の片隅に違和感をおしこめた。


「たぶんイェルさんがお医者さんのトップなのよね? イェルさんについてもらって、他のお医者さんには三階以外の患者さんを診てもらおう」


 ポケットから出すふりをしてインベントリから引っ張り出したゴムで髪を手早くひとつにまとめ、さっきのハンカチを三角巾がわりにして頭に巻く。

ちょっと冷たいけれど、黒髪が見えなければ多少は正体をごまかせるだろう。


「じゃあいこっか」



所要でお昼の更新を前倒しにしております。

次は夕方かな……。

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