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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第66話 ティレル辺境伯領のこと


「そういえば、ロゼのご実家は辺境伯なんだね」


 先の授業で気になっていたことを聞くと、ロゼリアははい、と頷いた。


「この国の南東の端ですね。ティレル領の北の一角と南に山脈があり、他は平地と台地で、トランゼ河という河が東の海に向かって流れています。平地では農業、台地では酪農、河川を利用した水運業なども盛んです」

「すごい変化に富んでるんだね。きれいなところ?」

「さあ、どうでしょうか」


 ロゼリアは首をかしげて、何かを思い出すような目をしている。


「領都以外は、本当に田舎ですから、街の美しさという面ではアトラロの方が美しいと思います。ただ、自然の風景はきれいではないかと……」

「そっかあ、いつか行ってみたいなあ、ロゼの故郷」


 なにげなく言った言葉に、りのは自分でびっくりした。

 おうちが大好きインドアな自分が、「行ってみたい」?

 え、と思って、すぐに納得した。

 

(ああ、私、アトラロを、この王城を自分の家だと思ってないのね。――そりゃそうか、家じゃないから、インドアも何もないわ……)


 急に心細い気持ちが襲ってきて、けれど心配はさせたくなくて、りのは笑顔を作りながら話を変えるべく、ロゼリアに聞いた。


「他の国と国境を接してるってやっぱり大変?」


 私の住んでた国は島国で、国境が地続きで接してることの大変さはよく知らないんだ、というと、ロゼリアはカップを片手に首をかしげた。


「もちろん国境を守るために一族で武力を鍛えますが、もともとそういう一族ですので、特に大変だと思ったことは私はありませんね……武勇を求めるとは言っても、強制ではありませんから、私の下の兄のように文官として勤めているものもいますし」

「本人の希望もちゃんと言えるんだ? あれ、お尻を刺されちゃったお兄さん、文官なんだ?」

「はい。三番目の兄はアトラロの王城で文官をしています」


 ああ、それならロゼもお兄さんもさみしくなくていいね。

 りのがそういうと、ロゼリアは、きゅっと口角をひきあげた。


「相手が魔獣であれ人であれ、戦になったときにいやいや出てくるものがいると士気に関わりますし、ティレルの文官は希少なので、歓迎されるんですよね。それに、国境を挟んだお隣の国々とは安定した関係を築けていますので、対人の戦争というのはここ百年以上、起こってはおりませんし」


 ウェルゲアが国境を接しているのは、アーファ森国と、ゴーベル闘王国、ペヌカレン王国の三つ。


「我がティレル領と接しているのはアーファ森国とゴーベル闘王国ですが、ゴーベル闘王国との境界はほとんどが深い森の中です。ぺオリプカ山と、それに連なる山脈で国境線の半分くらいが塞がれていますので、あまり接触がなくて。もちろん国境の哨戒任務はありますが。ティトルアン領のほうがゴーベルと接しているところが多いので、関係は深いですね」

「そうなんだ……。闘王国、って名前から考えると、戦うことが好きなお国なの?」


 オルレシウス帝国みたいなのが隣にあったらいやだなあと聞くと、ロゼリアは首を振った。


「ゴーベルは武を重んじる国ですが、戦争とか軍とかではなく、個人の武勇を尊ぶんです。それを表すのが闘技大会です」

「へ?」


 何その脳筋国家!?


「何年かに一度、国を挙げての大きな闘技大会があって、それによって国の各領の上位層が変わるとか……。王位も、王位継承権を持つ者が総当たりで戦って決めるそうです。他国との試合を行ったり、新しい武術の流派を研究したり、国の中で忙しくて、あまり外交はしない国です」


 ОH……。

 筋肉の国……!



「アーファ森国とは昔から仲良くしております。アーファ森国はエルフの国ですが、こちらとの婚姻も結構あるのですよ。私の叔父もアーファの辺境伯家にあたるお家に婿入りしましたし」

「えっと、……ごめんね、基本的なことだけど、エルフってどんな人たちなの?」


 きょとんとしたロゼリアは、ああ、リンの世界にはいない種族なのですね、と頷いた。


 エルフ族は、生まれながらに土属性の魔術が使える森の民である。土属性から木属性に上がるのもとても早いらしい。

 森の中に住み、森と共に生きる種族で、土だけではなく他の属性の魔術を使えるものもわりと生まれてくる。魔術を使うのが伝統的にうまく、主に弓を使った遠距離攻撃も得意だという。

 寿命は人のおよそ三倍くらいで、五十歳くらいから百五十歳くらいの間は子を産めるようになるが、エルフ同士だと生まれる子どもの数は少ない。


「……寿命差があると結婚って大変じゃないの?」

「いえ、エルフは寿命の長さゆえに、一生のうち二度三度結婚するものも多いのです。特に寿命の短い種族と婚姻すると、伴侶を看取ってから結婚して新たな家族を作るのが習慣ですね。ただ、エルフ族は基本的にその時の伴侶にいちずな者が多く、浮気は絶対に許さないという強いルールがあります。魔族とか同じくらい寿命の長い種族と婚姻すると、生涯一度だけの婚姻ということになるそうですよ。血が混じると子が多く生まれるので、異種族の伴侶は歓迎されるそうです」


 ロゼリアの叔父は、幼いころに出会ったエルフの少女との初恋を実らせたのだそうだ。


「子どもも二人生まれたそうで、ひとりはエルフ族、ひとりは人族なのだそうです」

「え?」

「?」

「えっと、混血、じゃなくて? ご両親が違う種族の時は、どちらかに寄って生まれる、ってこと?」


 そうですね、とロゼリアは頷いた。


「なぜかはわかりませんが、エルフ族に混血はおらず、エルフか、あるいは伴侶の種族のどちらかを引き継いで生まれてきますね」

「それって、問題になったりしないの? 家督の継承とか……」

「人族の国であれば人族に寄った子が、エルフの国であればエルフに寄った子が継ぐことが多いですが、それも各家の判断になります」

「あー、そうだった、ウェルゲアは女の人でも家を継げるし、長男が必ず継ぐって感じでもないんだよね……!」

「はい。ですので、どちらに寄って生まれても、それなりに選択の幅はあります」


 向こうにはない、ウェルゲアらしいルールの中でりのが驚いたことの一つだ。

 男女差別がないわけではないが、多少風当たりが強くとも、能力があれば女性でも責任ある立場に立てるし法律もそうなっているという。

 ちなみに、同性同士の婚姻もわりとあるそうだ。貴族では政略結婚・恋愛結婚のどちらでもあるし、平民でも、珍しくはあるが迫害されたり差別されたりはしないらしい。


(長男の伴侶が男性でも一人っ子じゃなければ大丈夫ってことよね……なんか、やっぱり観点が違う……)


 向こうとの違いをひしひしと感じたりのだった。


「たしかメディル伯爵家の現当主殿にエルフの方が嫁いでおられますが、三人のお子様のうち、長女の方がエルフ族として生まれているはずです。彼女が家督を継ぐのかはわかりませんけれど、他のお二人は人族だったと思います」


 すごいな、どういう遺伝子なんだろう……いやそもそも遺伝子という考え方がこの世界に合っているのかわからないんだった……。

 しかし不思議だ。兄弟で三倍近くの寿命差があるというのは、どういう気持ちがするものなんだろう、とりのは想像してみる。


(親でも兄弟でも子どもでも、長く生きるほうになったら寂しいだろうなぁ)


 自分がエルフになることはないだろうが、子どもが自分を置いて逝ってしまうのは、とてもつらいだろう。

 残してきた両親を思い出して、胸がずきりとした。



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