第65話 ハーブティーを飲みながら
「ロゼ、どう?」
「おいしいです……こっくりしてて甘いクリームが、アドルジュの酸味を柔らかく包んで、いくらでも食べられそうです……」
リビングへ移動し、ソファに座ってきんと冷えたザバイオーネを口にした。
ふんわりと白ワインの香りのする甘いクリームとアドルジュ、つまりオレンジ色のイチゴの形をしたブルーベリーとの相性はいうまでもなく抜群。薄い黄色のクリームの中から鮮やかなオレンジ色がのぞいていて、目にも楽しい。
しかし、りのにはやや物足りない。ロゼリアの言う通り、甘さと酸味のバランスは良くとれているが、マルサラ酒ではなく白ワインをつかっているため、深みとコクがやや足りなかった。おいしいけど物足りない。まさにそういった感じだ。
やっぱりどこかのワインにアルコールをぶちこんで、マルサラ酒やシェリー酒を作ってみるべきだろうか。ぶち込むアルコールは確かブランデーじゃなかったっけ。じゃあブランデーから作ってみようか。なにせこちらには、いんたーねっつ様がおわすのだ……!
(って、いやいやまって、お酒に脳を支配されてるでしょ、ダメでしょ私! さっき新しいものはまだ待ちって思ったばっかりじゃん!)
自分にツッコミをいれていると、目の前でロゼリアがうっとりと、大切そうに一口ずつスプーンでザバイオーネを食べていて、りのは苦笑する。
(ロゼ、甘いものに飢えてるんだねぇ。お仕事柄仕方ないとはいえかわいそう)
騎士はやはり男が多く、嗜好品も甘いものよりは酒に偏るという。
女性騎士でもお酒が好きな者はいますのでそれは良いのですが、男女ともに甘いもの好きには切ないところもありまして、と以前ロゼが言っていたことを思い出し、りのは改めてもう少し頻繁に甘いものを作ろう、と決めた。あとで、こちらの材料でも作れるレシピをさらっておこう。
白ワインの甘やかな香りのするザバイオーネは、あっという間にお腹におさまった。
これから少し考えの整理をするので、レノアには台所の後片付けと夕飯の下ごしらえをお願いする。レノアもザバイオーネは気に入ったようで、お掃除をして夕飯の準備をしながられしぴを復習します、とやる気満々でキッチンへ戻っていった。
食後のお茶は、先日レオニードから購入したトルカリアのハーブティーである。
トルカリアは、ふんわりとベリー系の香りがするハーブだ。色もかわいらしい桃色。これはお茶にしたら楽しそうだなあ、と思って試してみたら、すごくおいしくて、お気に入りになった。
りのは食べることも大好きだが、飲むことにより興味があるタチだ。
コーヒーや紅茶も一通り凝ったし、日本茶や抹茶、さまざまな薬草茶、ハーブティーなども大好きである。そしてその延長にお酒がある。
気分に合わせて何を飲むか考え、それをゆっくり準備し、お気に入りのカップや茶器にいれ、大好きな家の中で飲むのが至福であった。
そんなりのにとって、トルカリアティーという新しい飲み物を知ることができたのはとてもハッピーなことだった。
(「鑑定」で見たらジャーマンカモミールと似てたし、これは王妃様にもおすすめできそう。「鑑定」のレベルが上がってきてよかったなあ、嬉しいわー)
実は、ここ数日で、「鑑定」の内容がかわってきたのである。最近がんがんに使い倒していたおかげかもしれない。
(すごく使い勝手がよくなったよね。たぶんこの「鑑定」って、使用者の知識を反映して出てくるんじゃないかなあ。レベルが上がって反映できるようになってきた、っていうのがより近いかもしれないけど)
たとえば、トルカリアの鑑定結果は、はじめに「鑑定」をかけた時はわりとシンプルだった。
【名前:トルカリア】
【分類:薬草】
【使用法:主に煎じて薬にするが、料理や飲料に使うことも可能】
【特徴:体にいい】
それが、これどんな効果があるんだろ、王妃様の更年期障害に効かないのかなあ、副作用とかもあるのかなあ、精油にするとかできるかなあ、と思いながらなにげなくもう一度「鑑定」してみると、
【名前:トルカリア】
【分類:薬草】
【使用法:薬(煎じる、ポーションにする)、食用(料理、飲料)、精油(水蒸気蒸留法)、浸出油】
【効能:胃腸の調子を整える、緊張緩和、精神の鎮静・リラックス、体を温める、女性特有の症状の緩和】
【特記:まれにアレルギー反応を起こす場合がある】
その結果を見て、うわー、とりのはあっけにとられた。
知りたいことがわかるようになっている……。
他の人の「鑑定」結果と比べてみなければ何とも言えないが、やはりトリガーは自身の興味関心のイメージだろう。
「これについて知りたい」と願ったことがわかる、ということだ。
(ただ、たぶん知りたいことについて、ある程度の基礎知識が必要なんじゃないかなあ……)
トルカリアの香りをいっぱいに吸い込みながら、考えを巡らせる。
香りのよいお茶ほど、考えごとの時間に合うものはない。
(トルカリアの「鑑定」結果、アレルギーとか出てるけど、アレルギー自体を知らないと意味のない情報になっちゃうよね? こっちの人にわかるのかなあ。んー、これも要チェックだ。辞書でトルカリアを調べればいいか。アレルギーについてはヤン翁に聞いてみるかなあ……。ただ、これって急ぎじゃないんだよね。私にとってはいいことだし何のデメリットもないし。ただ、ユーゴ様と魔術のお話するときにぼろが出ないように気をつけなくちゃ)
トルカリアのハーブティーはほんのり甘くて、やわらかな気持ちになる。
ロゼリアも、おいしそうに口に運んでいる。
「はぁ……」
「ふぅ……」
こぼしたため息がぴったり重なって、ロゼリアと顔を見合わせて笑った。
「甘いものを食べると頭が動き出す気がするわ……」
ぽつりとつぶやくと、ロゼリアがそうですね、と深く同意してくれた。
「前シャルニエ伯爵殿の講義は内容が濃いですから、リンも疲れたことでしょう」
「あ、やっぱりロゼたちから見ても濃いんだ? すごい詰め込んでるよね?」
よかった、私の力不足で消化しきれないのかと思ってたー、と笑うと、ロゼリアが苦笑して教えてくれた。
「リン、前シャルニエ伯爵殿は、『伝説の文官』と呼ばれる方なのですよ」
「え? 伝説?」
「おひとりで何人分もの書類をさばき、前宰相閣下の補助をし、滞っている部署を探し出して処理していた方です。前宰相殿はあまり、その、お仕事の進みが早い方ではありませんでしたから、あの方が一人で捌いていたのではないかと噂されています」
うわあ、先代は王だけでなく宰相までボンクラさんだったのかあ、としょっぱい気持ちになった。
「それだけしていても、必ず年に一度か二度は竜に関する論文や研究発表をなさっていました。おそらく、彼はウェルゲア最高峰の知者のおひとりでしょう。そんな方が講義をなさっているのですから、内容が濃いのは当然ですし、それについていけているリンも本当に賢いのだと思います」
え、と一瞬ぽかんとした。
たしかに、ヤン翁の教えてくれる知識の範囲はとても広かったけど、とっつきやすくわかりやすかった。なるほど、とんでもなくすごい先生だったからわかりやすかったわけだ。最高峰の知者に教えてもらえているなんて幸運なことである。
それに、ロゼリアが「本当に賢い」とほめてくれたのも嬉しい。
思わず、そっかー、と照れてしまった。頑張ってよかった。
えへへと笑うと、ロゼリアがかすかにほほえんでうんうん、と頷く。
そこから、先ほどまでの授業について二人で振り返った。
本日はここまで!
お読みいただきありがとうございます。
明日は少し話数が少なくなるかもしれません。
大みそかの家のアレコレが……。




