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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第55話 レオニード・タンリーの訪問販売1



 良く晴れた日の午後。

 王城に呼ばれたレオニード・タンリーは、持ち込んだ食料品類の箱を横に置いて内心ため息をついていた。


(なんで俺が呼ばれたんだろうなあ……)


 レオニードがいるのは、王城の執務棟と呼ばれる建物の客間だった。

 アトラロ城は、五角形の形をしている。

 城壁に囲まれた、やや縦に長い広大な五角形の中に、さらに五角形の城壁があり、その中が王城だ。

 王城には、王の住まいとなる王宮、各騎士団棟、魔術師棟といろいろな建物があるが、執務棟は国の根幹となる文官たちの仕事場と、王国民が国王陛下に謁見するための謁見の間が中心となった大きな建物である。

 その中の豪華な客室のひとつにレオニードは呼ばれていた。


(できるだけ多くの種類の香辛料や薬草を持ってこいとは、どういうことなんだろうか)


 しかも、呼ばれているのはレオニードだけではなかった。


「やあ、久しぶりだね、タンリ―君」

「ご無沙汰しております、ガディア商会長」

「まったく、なんで君みたいなのがここにいるのか、謎で仕方がないぞ」

「はあ、そうですねエクルス商会長」

「おや、エクルス殿は王宮の決定に文句があるのかい?」

「――いえ、そういうわけでは」


 ウェス・ガディア。

 アトラロで手広く店を営む商会長。くすんだ金色の髪に明るい緑の目をした、貴族らしい整った容貌の持ち主であり、五十代とは思えない年齢不詳の若々しさを持っている。

 食材を中心に幅広い商材を扱っていて、貴族や裕福な顧客から平民まで、多くの顧客を抱える、一大商会の会長である。

 価格、質ともに非常にまっとうで、堅実な商売をすることで信頼が厚い。レオニードもひそかに憧れていた。


 一方のジョシュ・エクルスは、ガディア商会とは対照的な商売をするエクルス商会の会長だ。端が垂れた丸い茶色の目に紅色の髪を持っているが、その色と反したうさん臭さがあった。

 平民は相手にせず、貴族を中心とした顧客に、貴重なものや珍しいものを高値で販売している。

 相手のプライドををくすぐり、懐に入り込み、そういった人間関係を武器に成りあがってきた男だった。

 どちらも商売としてはアリだとレオニードは思う。しかし、エクルス商会の扱う商品は、珍しいだけに質の良しあしを判断できないものが多く、レオニードは店としても、個人としても非常に距離をとっていた。


「タンリ―、スパイスの卸の話はどうした」

「その話はお断りしたはずですが」

「ほう、この俺が買ってやろうといってるのに断るのか」


 いいご身分だな、と目を細めてこちらを睨んでくるエクルスの前で、レオニードはつとめて明るい笑顔を作る。


「はい、私は『たかが平民』ですし、『ちまちまとスパイスを売る』のが性に合っておりますので、過分なお話はご迷惑になるかと思います」

「ははは、私の時もタンリ―君はそう言っていたねえ」

「その節は失礼いたしました。私は小商いでせいいっぱいですので」


 レオニードは平民だが、ガディアとエクルスは貴族の流れだ。

 ガディアは子爵家の四男、エクルスは男爵家の三男だという。ただ、ガディアは正妻の子で、エクルスは愛人の子だともっぱらの噂だった。

 ガディアにも同じ言葉で断りをいれており、それをガディアが許した以上、エクルスがタンリ―を責めるのはガディアに対して不敬であるということになる。エクルスはそれ以上言わず、憎々し気な舌打ちを一つしてからソファにどっさりと腰かけた。

 爵位の差というのはそうとうに大きいらしい。面倒なことだ。


(この様子だと、二人ともこの状況を把握しているわけじゃあなさそうだな)


 先日、王宮からの使いがいきなりやってきて、「食料品を見たいと言っている方がおられるので、現物をもって登城することを望む。そなたにはできるだけ多くの種類のスパイスや薬草を持参することを期待している」と言われた。

 面食らったレオニードがツテをたどっていろいろ探ってみたのだが、誰が、何のために食料品を見たいのかがまったくわからない。

 普通なら、どこそこのコックが新しい食材を欲しがっているだとか、どこそこの文官が食材費のチェックを行っているだとか、何らかの話は聞こえてくるものだ。

 しかし今回、それがまったくない。


(つまり、かなり強力に箝口令が敷かれているとみていい。なら食材を欲しがってるのはかなりの身分のお人か、その近くのおつきだろうよ)


 非公式で訪れているどこぞの国のお姫様か王子様が、故郷の味が恋しくて探しているとか、体質的に摂取しなければならないものがあってそれを探しているとか。


 どちらにせよ、レオニードはこの話を受けるか否か、だいぶ悩んだのだ。

 先ほどエクルスに言ったことは嘘ではない。もともと大きい商いなど向いてないし好きでもない。自分の好きなスパイスや薬草や果物を扱って、そういうのが好きな人たちの喜ぶ顔が見られて、生活ができればそれでいい。

 ただ、今回は行ったほうが良いような気がしたので、ここまで出向いている。


(さて、何がとび出てくるのやら……)


 そう思った矢先、客室のドアが開いて、三人は同時に立ち上がった。



(これは……マジかよ……!!)



 平民の間でも大変人気の高い、「ティレルの姫騎士」を伴って入ってきたのは、それはそれは美しい少女だった。

 つややかな漆黒の髪、桃色の可憐な唇。

 しかし、何よりも驚いたのは目の色だ。青みのかかった、スミレのようなやわらかい紫色に金色が混ざった美しい目だ。

 この世界で、色の混ざった目を持つ者はほとんどいない。例外となるのは。


(聖女さま……)


 茫然とするレオニードの横で、かすかに、しかし確かに笑みを浮かべたのがエクルスで、何も動かなかったのがガディアだった。それを気配で感じとり、なるほどこの二人には情報が入っていたのだとわかった。自分もまだまだ精進が必要のようだ。

 急いで頭を下げる。彼らと動きは揃っていたので、タイミングを間違えてはいなかったらしい。


「頭を上げるといい」


 ティレルの姫騎士が静かに告げ、レオニードは横の二人が動くのを待ってゆるゆると自分も頭を上げた。

 美しいプラチナブロンド、ピーコックグリーンの冴えた瞳の騎士が横に立ち、三人を睥睨していた。

 ティレルの姫騎士は、その美しさもさることながら、男にも決して負けない冴えた剣技で有名である。

 護衛だろうと思い、この少女の重要性を改めて感じた。


(かの有名なティレルの姫騎士を護衛にあてるなんざ、そりゃあ王妃様か聖女様くらいしかおられるまいよ)


「こちらの方は、わが国に滞在されている大切なお客人だ。失礼のないように」


 はっ、と再度頭を下げた。


「この国の商品を見てみたいということでそなたたちに来てもらっている。いろいろ説明をしてさしあげてくれ」


 どうぞ、と姫騎士がりりしい声を柔らかくして少女に話しかけた。


「皆さん、本日はお忙しいところいらしてくださってありがとうございます。事情があり名乗れませんが、貴族などではありませんので、どうぞ気を楽に、おかけになってください」


 少女めいた美貌から飛び出たのは、どちらかというとアルトに近い、柔らかな声だった。

 年頃の少女に見合わない落ち着いた口調。傲慢さのかけらもない言葉。


「お伝えしていましたように、本日はいろいろなものを見せて頂きたいのです。私はこの国のことを詳しく知らず、常識的なこともお聞きするかと思いますので、よろしくお願いします」


 レオニードのカンに何かがひっかかった。何かはわからないが、ぴりっと警戒を促すようなものだ。

 優しげで落ち着いていて、とても聖女らしいこの少女に、警戒?


(自分のことながら、この『直感』ってヤツは本当に訳が分からんが、信用はできるからなぁ……)


 レオニードは、『直感』というギフトを持っている。

 意図して使えるものではなく、たまにこうやって「気をつけろよー」と言わんばかりにサインを送ってくるギフトだ。だが、本当に役に立つ。

 レオニードがここに至るまで大きな判断ミスをしなかったのは、この『直感』の存在もけっこう大きかった。ここに来ることを決めたのも、このギフトが「行った方がいいぞー」と合図を送ってきたからだ。

 それが今、レオニードに気をつけろとサインを送ってきたのだから、従うのは当たり前である。



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