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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第50話 ユーゴの「鑑定」


 あらぬ方へ思考をとばしかけたが、ふと大事なことを思い出し、りのはできるだけ自然に首をかしげてみせた。

 なんとか話をごまかして、魔術変化から話題を変えたいという意図もある。


「ユーゴ様、豊富な魔力って今仰いましたけど、魔力の量の基準とかあるんですか?」

「ああ、その辺の説明はしてなかったね」

「団長おおおおお! 魔力の属性割合の調査してもいいですかあああ!」

「もううるさいゼノン、好きにしていいから邪魔しないで!」

「やったああああ」


 にゅっと出てきてにゅっと帰っていく美貌のガガンボ。

 それをまるっと無視して、ユーゴは「『自己鑑定』」と唱えた。ぶん、と低い音がしてユーゴの前に透明のボードがあらわれる。

 次に「『開示』」と詠唱すると、そのボードが白くなった。


「!?」

「びっくりさせちゃった? ごめん、先に言っとけばよかったね。これはね、僕のギフトの『鑑定』の発展型になる、『自己鑑定』っていう魔術だよ。今の僕の『鑑定』の結果がこうやって板に出てきて、『開示』を使うことで他の人にも見えるようになるんだ」


 くるっと指をまわすと、そのボードがあわせてくるりと回転する。

 びっくりしたのは、見慣れた透明のボードが白くなったからだったが、それはユーゴにはばれなかったようだ。


「ギフトは発展するものなんですね……」

「そうだね。発展というか成長というか、まあ便利になっていくよ。魔術もそうだね。小さな魔術でも、それを精緻な操作で自分なりに習熟させることで技術が上がり、そうやって上位魔術に発展する」

「上位魔術……本で少し見かけました」


 例として、火魔術が熱魔術へ、水魔術が氷魔術へ発展していくと書かれていたが、りのにはよくわからない。


(水をお湯にするにも氷にするにも、結局は水の温度変化なわけだから、どっちも水魔術なのでは? なぜ分けたし?)


「たとえば、火魔術に精通することで熱することが可能になり、熱魔術へと昇格するって感じ。そうすれば炎を出さずに熱を上げて相手を焼き尽くすことができるようになる。森の中での魔獣退治にはけっこう便利だね。何せ延焼の心配がぐんと少なくなるからさ」

「な、なるほど」


(そっちか~~~! 現象だけ見ればそうだけど! 熱くなるのと冷たくなるのは別のことってとらえてるのか~~~!)


「だから、水球をお風呂くらいに温められたってことは、リノアちゃんには水魔術と火魔術の素養があって、火魔術は熱魔術に上がるくらいになってるってことだ」

「私、火魔術ってさっきの『火花』しか使ったことありませんが……」


 「火花」は、要は火打石と同じである。

 コンロも魔道具になっており、自動で点火できるため、料理するときにさえ使わないのが火魔術だ。せいぜい習った「火花」を練習したくらいで、他の火魔術は使ったことがない。


「そうなんだよねーー!」


 ギラっとした目が、りのを興味津々で見つめてくる。


「僕たちは魔術を使うことで習熟させていくけど、やっぱり異世界の人だとなんか違うのかなあぁ!? 気になるーー!」


 あっこれさっきのゼノンさんとかわらんやつや。

 貴重なサンプルを見る目で見られている……!

 ちょっとびびっているのがわかったのか、ユーゴはそれはともかく、と、ボードを見るようにりのを促した。


「これが、僕の今の『鑑定』結果だよ」


 白いボードには、ウェルゲア語でユーゴのデータが並んでいる。





【名前:ユーゴ・ジュランディア】

【年齢:46】

【性別:男】

【出自:ジュランディア侯爵家次男 父:ラザロ・ジュランディア 母:キャンデリーア・テラン】

【職業:ウェルゲア王国魔術師団長】

【魔術適性:全】


【体力:1277/1850】

【魔力:4150/4820】


【ギフト】

【鑑定 Lv.62】


【スキル】

【魔力操作 Lv.72】

【魔力感知 Lv.60】

【火魔術→熱魔術 Lv.35】

【水魔術→氷魔術 Lv.32】

【風魔術→雷魔術 Lv.42】

【土魔術→植物魔術 Lv.27】

【光魔術→聖魔術 Lv.50】

【闇魔術→魔魔術 Lv.25】

【杖術 Lv.35】

【剣術 Lv.22】

【馬術 Lv.41】




(やっぱり私の「ステータス」より大分詳しいなあ……私は名前と性別と職業、あと体力と魔力くらいじゃなかったっけ)


 こちらに来たばかりの時に見た自分の「鑑定」はもちろん、「ステータス」と比べても項目が多い。やはりレベルが違うのだろう。さっきの話でいえば、成長が足りていないのだ。

 体力も魔力も、自分とは大違いである。


「んー、やっぱり伸びは悪くなってるなあ……」


 同じようにボードを覗き込みながら、ユーゴが渋い顔をする。

 なんでも、魔術師団や騎士団の団員は、「鑑定」の魔道具で定期的に自分の情報を把握することが推奨されているそうだ。

 それを見ながら自身の能力を引き上げる計画を立てるのだという。

 ただ、体力も魔力も、年を追うごとに伸びが緩やかになっていくのだとか。

 まあそれはそうだろうね、老化はやっぱり避けられないよね、とりのは内心でうなずいた。


「えっとね、こういうふうに、ギフトや魔道具で『鑑定』をすると、体力や魔力が数字で出てくるんだよね」


 やっぱりそうかあ……。


「左側の数字が現状、右側が体力や魔力が満ちているときの数字だよ。体力は、騎士団員で大体二千あれば合格って言われてるね」

「騎士ってことは、体力が資本になるお仕事の人たちですよね?」

「そうだね。冒険者とか、戦うことを生業にしているもので二千くらいかな。ちなみに、成人女性は四百から六百、成人男性は五百から千が一般的な数値。魔術師団員も体力は必要だから、千はないとダメってことになってるよ。まあ研究で座ってることが多くて、千ないやつも多いんだけど」


 そこはさすが師団長、彼の体力は千を大きく越えている。


「魔力は、平民で百から二百。このくらいあれば魔道具も普通に使えるかな。貴族で五百前後だね」

「貴族の方はずいぶん多いんですね」

「魔術を持って戦ってきたのが貴族だから、血統的に多いんだよ」

「魔力って、血筋で伝わるものなんですか?」

「うーん、血筋だけとは限らないね。平民でもぽーんと魔力が高いのはいるし、貴族でも魔力が多くない人もいる。ただ、全体的に貴族は高め」

「へえ……なんででしょうね?」

「そうだねえ、よくわからないところだね。まぁ貴族は『鑑定』をみんな受けるし、平民でも魔力が高そうな子は『鑑定』を受けられるようになってるから、そんなに問題にはなってないかな」


 うーん、ここでも、私、不思議に思うポイントがずれてるみたいだ。

 りのはそうなんですねーと適当に頷いた。


「魔力については、騎士団員も魔力は必要なんだ。身体強化の魔術を使う必要があるからね。騎士で大体千から千五百ってところ。ただ、訓練で増えていくから、入団時に八百あれば採用されるよ。魔術師団は最低でも千五百は必要だね」

「すごい……ですね……」

「んー、まだリノアちゃんの結果は解読できてないんだけど、たぶんリノアちゃんの魔力は僕たち魔術師団員に近いと思うよ?」


 あ、ちなみに、僕の魔力量は今のところこの国では三本の指に入るんだよ~。

 のほほんと笑うユーゴに、りのは引きつった笑みを返した。


(私、たしか魔力は二千五百だったから、この人とは倍に近い差があるってことじゃん! 体力も全然違うし!)


 つまり。


(正面から戦って逃亡するのは無理、ってことだなぁ)



 ぶんと低い音を立てて白いボードが消えた。




 その後、りのは魔力を増やすには、眠る前にぎりぎりまで使い切ったほうが良いということを教わった。ぎりぎりまで枯渇させることで魔力の器が大きくなるという。ただし、完全な枯渇はかなりきつく、回復に時間もかかるので、翌朝きちんと起きられるだけの魔力を残しておくことが大事だそうだ。

 だから魔力とか魔力の器とかってなんなんだよー! と叫びそうになりながら、魔術変化の基本についてもレクチャーを受ける。

 そして、分厚い『魔術一覧集』という詠唱まで載っている魔術辞典を借りた。それを参考に、次回の講義までに魔術変化の組み合わせを考えてくるように、という宿題をもらって、その日の授業は終わりになった。


 「水球」はもちろん消した。

 美貌の彼は出てきたがらなかったが、ユーゴに良いから消しちゃって、と言われたので。

 彼はべちゃりと地面に落ちていた。




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